第45話 背中の秘密(1)
若い女子たちのスカート丈が短くなっていく一方で、これに抵抗を覚える女子も少なからず存在していた。
そんな時、ある女性騎士の姿が、彼女らの目に留まった。
Rote Ritter(赤の騎士団)の団長を務めるヒルデガルト・フォン・エーベルハルト中佐である。
エーベルハルト中佐は、ハーフエルフであるが、妖精のように美しくありながら、凛とした佇まいを備えており、そのクールで厳しく引き締まった様子に彼女らは憧れた。
長くてスラリとした足の彼女は、スリムスタイルのズボンを身に着けていたが、その姿は彼女のスタイルの良さをより魅力的に見せており、彼女の雰囲気と見事にマッチしている。
これに感化された女子たちの中から、男性用のズボンを身に付けるパンツスタイルが流行しはじめると、その流れはあっという間に拡大した。
若い女子たちが露出する足をスケベな心もちで鑑賞していた男性諸氏は、当初パンツスタイルの流行を否定的に受け止めていた。
しかし、男のスケベ心を舐めてはいけない。
スケベな男性諸氏は、スカートよりもパンツスタイルの方が尻のラインがくっきりと見えることに活路を見出し、密かに鑑賞し始めた。
当のパンツスタイルの若い女子たちは、このことに気づいているのか、いないのか…
ミヒャエルは、立ち合いを終わり、一息入れたルードヴィヒを労った。
「汗をかいただろう。夕食の前に風呂にするか?」
「……んにゃ。風呂は後にする」
「じゃあ。夕食にしよう」
「おぅ」
ルードヴィヒが答えるのに少し間があったので、違和感を覚えたが、ミヒャエルは、そのままスルーした。
ミヒャエルは、ルードヴィヒを食堂まで先導してくれている。
前を歩くミヒャエルの後ろ姿をを見て、ルードヴィヒはふと思った。
(何かミヒャエルの奴。なかなかいいケツしとるのぅ……っつぅて、おらぁ何考えとるがぁでぇ!)
ルードヴィヒは、男の尻を見て妙なことを考えてしまった自分に、自らツッコミを入れた。
実は、ミヒャエルのはいているズボンは、スリムタイプで、尻のラインがかなりくっきりと出ていたのだ。
夕食後。
結局その日は、ローゼンクランツ新宅までは距離があるということで、ルードヴィヒは駐屯地で一泊することになった。
そして……
夜遅くなって、ルードヴィヒは大浴場に入り終わり、腰にタオルを巻いて、そこから出ようとしたとき、ミヒャエルと行き合った。
(こっけん時間にどうしたがぁろぅ?)とルードヴィヒは思ったが、突っ込むことはしなかった。
ミヒャエルは既に裸になっていたが、まるで女のように、胸から下をタオルで隠している。
(おんや? あいつぁ、そっけ恥ずかしがり屋だったかのぅ)と違和感を感じるルードヴィヒ。
逆に、自分のことをよそに、ミヒャエルの方からルードヴィヒに疑問をぶつけてきた。
「おまえ。何でこんな遅い時間に?」
「ああ……背中のあれを見られたくなかっただけでぇ。あれ見っと皆して冷やかすからのぅ」
「背中のあれ?」
「おぅ。おめぇなら、特別に見してやらぁ」
ルードヴィヒが後ろを向くと、背中のそれが見えた。
それは、背中全面を覆う大きさの竜の紋章だった。
「こ、これは……入れ墨か?」
「おぅ。おらが物心つく前に爺っちゃんが勝手に入れたんでぇ。まったく迷惑なこった……」
ミヒャエルは疑問に思った。幼児期に入れた入れ墨なら、成長に伴って形が歪むのではないか?
だが、目の当たりにしたそれは、くっきりとしており、全く歪みがない。
一部の軍人の中には、帝室への忠誠の証として、竜の紋章の入れ墨を入れている者もいるというが、それにしても、あの大きさは常識外れだ。
ミヒャエルには、まるでルードヴィヒが帝国の未来を背負っているかのように見えた。
「そこまでして、帝室に忠誠を示したいのか?」
「別に、おらぁ帝室へのこだわりは何もねぇ。おらぁ正道を貫く者の味方をするだけだすけ」
「すると、今の帝室は?」
「もちろんダメでぇ」
「では、大公フリードリヒⅡ世を支持するということか?」
「そういうことんなるのぅ」
「なるほど……見せてくれて、ありがとう」
「んにゃ。どうっちぅこたぁねぇ」
そのまますれ違い、なんとなくミヒャエルの方を振り返ったルードヴィヒは、不覚にも思ったことをのまま口にしてしまった。
「おめぇの尻ぺた、きれいだのぅ。えれぇ艶々してるもぅさ」
「見るなーーーっ!」
ミヒャエルは恥ずかしさのあまり、尻を手で隠そうとしたが、その拍子に前に抱えていたタオルがハラリと落ちてしまった。
(おらっ?)
一瞬見えたミヒャエルの胸には、申し訳程度の膨らみがあるように見えた。
「キャーッ!」
ミヒャエルは、女の子のような悲鳴を上げると、両腕で胸を覆い、蹲った。
だが、肝心の陰部が足の間からのぞいている。
ルードヴィヒは、ギョッとした。
そこには……男としてあるべきものがなかったのだ。
思わず目を凝らして見てしまったルードヴィヒは、声をあげた。
「お、おめぇっ! お、お、お××じょが見ぇてる!」
「お××……じょ……?」
一瞬意味がわからなかったミヒャエルは、すぐに意味を悟り、悲鳴を上げた。
「Σ(゜∀゜ノ)ンキャーッ!」
女の子のようなではなく、女の子そのものの悲鳴だった。
ミヒャエルは、膝をペタリと床につけ、右手で陰部を左手で胸を必死に隠している。
「おまえ! み、見たなあ!」
「おらっ? 何をでぇ?」
「しらばっくれるな! おまえちゃんと口に出して言ってたじゃねえか!」
「そうかぃのぅ。おらぁ"お××じょ"なんて言ってねぇよ」
「また言ってるじゃねえか! このどアホウがあ! 俺自身を見られたからには、責任をとってもらうからなあ!」
「"責任"って……何のこったか……」
「惚けるんじゃねえ! これは女にとっては大問題なんだ! 責任逃れは絶対に許さねえ! わかったら、とっとと帰りやがれ!」
……と言うなり、ミヒャエルは、風呂桶やら周りにあるものを手当たり次第に投げつけ始めた。
ルードヴィヒは、這う這うの体でその場を退散した。
その後……
取り残されたミヒャエルは、風呂場で一人むせび泣いていた。
「ヒック……ヒック……俺は……ヒック……奴に……視姦されちまった……ヒック……純潔を……ヒック……奪われたんだ……ヒック……ヒック……許さねえ……ヒック……ヒック……絶対に……ヒック……ヒック……女の……ヒック……情念を……ヒック……ヒック……舐めるなよ……ヒック……ヒック……ヒック……ヒック……」
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