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第43話 詭謀(1)

 コンスタンツェは、悩ましい顔をして(うつむ)いているリーゼロッテの姿を見て、ほくそ笑んだ。


 彼女は方々に手を回し、リーゼロッテのもとに"ルードヴィヒが娼館に通っている"という事実が、自然な形でリーゼロッテの耳に入るように画策し、それが見事に成功したのだ。


 優れた観察眼を持つコンスタンツェは、リーゼロッテがルードヴィヒに、ひいては男性全般に不潔感をいだき、男性不信に陥っていく様子が手に取るように見て取れていた。


(あの女も、私と同じように苦しめばいいのよ……)


 そういうコンスタンツェ自身が余裕で笑っていられるのは、実は、マリア・クリスティーナに(さと)され、男性への不潔感から脱しつつあったからだ。


 コンスタンツェは、母親同士の確執(かくしつ)をよそに、1歳年下のマリア・アマーリアと親しくしていたが、どうやら彼女の前で無意識に男性への不信感を口走ってしまったらしい。

 それが彼女の母のマリア・クリスティーナに伝わり、心配した彼女がコンスタンツェを訪ねてきたのが、少し前のことである。


 マリア・クリスティーナは、男性が女性に向ける欲望やそれをどうやって処理しているのかなど、生々しい事実も含めて丁寧に説明してくれ、男は男で苦労があるということを教えてくれた。


「神は、男と女をこういうものとして創造されたのです。女はこの事実を事実として受け止め、それを前提にした自分なりの価値観に基づいて行動を決めていくしかありません」


 マリア・クリスティーナにこう言われたとき、コンスタンツェは、素直に(うなず)いていた。

 鷹の爪(ファルケン・クラーレ)傭兵団総長のワレリー・フォン・ヴァレンシュタインの末子であるミヒャエルは、シュタウフェン学園に入学した。


 これはルードヴィヒに感化されてのことだったが、そのことは本人には伝えていない。


 ミヒャエルは、いちおう帝国式正統剣術を習ってはいたものの、腕前は同世代の少年たちと比較して、中の上といったところだった。


 一方で、軍師の卵なだけあって、頭脳は明晰(めいせき)であり、学業の方は得意だった。


 入学試験も、武術が今一つなことを、学科試験で補い、結果としては、なんとかSクラスに滑り込み、ルードヴィヒと同級生ということになった。


     ◆


 ルードヴィヒが入学式初日早々に方言をしゃべることをカミングアウトしてから、クラスメイトの女子たちは、ルードヴィヒに対する反応によって2つの派閥に割れた。


 1つは方言を大きな問題ととらえず、引き続きルードヴィヒへの好意を維持する者たちで、もう1つは早々にルードヴィヒのことを見限り、他の男子に興味を移す者たちである。その比率は半々といったところだった。


 ルードヴィヒを見限った女子たちが関心を向けたのは、ミヒャエルであった。

 ミヒャエルは、身長こそ低いものの、柔和(にゅうわ)で女性のように整った顔立ちをしていたので、それも無理からぬところだった。


 当のミヒャエルの女子たちへの対応は素っ気なく、いかにも女子には興味がないといった感じだったが、女子たちは、これをもって女に(こび)を売らないクールな男と好意的に解釈したようだ。


 ルードヴィヒは、あまり社交的とは言えない性格だったが、その魅力に惹かれて、周りの方から徐々に人が集まってくる。


 男子については、成績優秀な者はルードヴィヒをライバル視して近づいてはこないが、あまり優秀でない者たちの中には、ルードヴィヒにすり寄ってくる者もいた。シオンの町で過ごした少年時代も、そんな感じだった。


 彼らには、優秀なルードヴィヒと交際することで、その恩恵にあずかろうという(たくら)みが透けて見えたが。ルードヴィヒ自身は、自分が不快な思をするようなことがない限り、これを排除しようとは思わなかった。


 このような者たちは、得てしてチョイ(ワル)だったりする。

 そして、その集団が話題にすることといえば、エッチなことが筆頭にくるものと相場は決まっている。


 今日も、女子たちに聞かれないように、ヒソヒソ話をしている。普段はミヒャエルもこの集団に入っていたりするのだが、こと話題がエッチなことになると、決まってその場を離れるのだった。


「なんだよ。ミヒャエルは。男のくせに清純ぶりやがって……」


「それはともかく、ローゼンクランツ卿は見れば見るほど優男(やさおとこ)だよなあ」

「すっけんこと、ねぇって」


「俺、ローゼンクランツ卿がエッチなことをする場面を想像できないよ」

「ああ……それ、俺もだ」


(んな)して、おらんことを何だと思っとるんでぇ? おらぁ普通に男だすけ」


「実はさあ……俺、たまに娼館に通ってるんだけど……」

「そんなこと……俺たちの年頃の貴族の子息なら、当たり前だろ」

「そうか……そうだよなあ」


「まさか、ローゼンクランツ卿もそうなのか?」

「ん?………………まあ、ぼちぼちのぅ……」


「えーっ! 信じられねえ」と思わず声をあげた男子たちにクラスの視線が集まった。


 だが、更に声を(ひそ)めて会話は続く。


「さっきも言ったけど、全く想像できないよ」


「逆にさあ。ローゼンクランツ卿がもの(すご)い高額でエルフの性奴隷を買ったっていう(うわさ)を聞いたんだけど……」

「ああ。あれけぇ。いちおう買ったことは買ったども、ふしだらなことはさせてねぇよ」


「本当かよ! それはそれで(うそ)っぽいな……」


 エッチな話は、果てしなく続く……

お読みいただきありがとうございます。


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