第4話 啓示(2)
『ハラリエルよ。これへ』
『はい。は~い。ミカエル様』
そう言いながら登場した天使は、ルードヴィヒと同じ年頃に見える美少年(美少女?)だった。
天使であるから美しい顔をしているのはもっともだが、着ている衣服は古代風の貫頭衣であり、男女の区別がつかない。
(まちっと少し体のラインが出る服なら性別がわかるんがのぅ……まあどっちでもええか……)
ミカエルは目じりを少し吊り上げた。
『返事は短く、1回でといつも言っているだろう!』
『は~い。わかりましたぁ』
ミカエルは、ちょっと間の延びた答えぶりに諦め顔である。
『では、ハラリエル。しっかり役目を果たすのだぞ』
そう言うなり、ミカエルは随従する天使たちを引きつれて、天界へと戻って行った。
それを見て、ルードヴィヒはホッと一息をついた。
ふと思いついて自分のステイタスを確認すると、本来のジョブである"魔法剣士"のほかに、サブのジョブとして"使徒"が追加されていた。
"使徒"とは、神から使命を啓示された者のことをいう。
(ちっ。面倒くせぇが事実だからしゃあねぇか……)
"使徒"などというジョブを持っていることが教会にでも知れたら、悪い扱いではないにせよ、どんな展開になるかわかったものではない。
煩わしさをさけるためにも、ルードヴィヒは、"使徒"のジョブをフェイクのスキルで隠すことに決めた。
『あのう……ルードヴィヒさん。ハラリエルです。よろしくお願いしま~っす』
ハラリエルは、中空に浮きながら、ボケッとした顔で言った。
「おめぇ。いつまでそうしてるつもりでぇ? おらを助けてくれるがぁろぅ。だったら実体化できねえんけぇ?」
『ええ。できますよぅ』と飄々と答えるハラリエル。
そして、ハラリエルは実体化した……が、天使の羽がそのままである。
「おめぇ。その羽はなんとかできねえんけぇ? 天使だなんてバレたらひと騒動起っちまうぜ」
「大丈夫ですよぅ」と言うと、ハラリエルは「ん~っ」とちょっと力んで羽をしまう。
(リアルの声を始めて聞いたども、男とも女とも言えねぇ微妙な高さだのぅ)
「後はその天使っぽい名前はなんとかしねえとな……ハラリ……リエル……ええぃ、面倒くせぇ! おめぇの名前は縮めてハラルだ」
「ええ。いいですよぅ」
とハラリエルは感慨も何もなさそうに気の抜けた声で答えた。
だが、それに反して、ハラリエルは、気に入ったようにニコニコ微笑んでいる。
「ところで、おめぇ天使の位階は何なんだ?」
「天使ですけどぅ……何か?」
「いや。何でもねぇ」
(やっぱし最下級だったか……聞くまでもねかったのぅ)
◆
「主様。お帰りなさいませ」
ヴァレール城内に戻ったとき、女騎士のクーニグンデが出迎えてくれた。
が、ハラリエルの姿を見て、クーニグンデの表情が一転して険しくなった。
「主様。その者はいったい何者なのですか?」
クーニグンデはハラリエルに対し、鋭い眼光を発している。
「ひえ~っ。この人怖いですぅ」と言うなり、ルードヴィヒの背中に隠れている。
「こいつはハラルっちぅて、のっぴきならねぇ事情でおらの従者にすることにしたすけ、よろしくたのまぁ」
「主様がそうおっしゃるのでしたら……」
クーニグンデは不本意ながらも同意したようだ。
だが、鋭い眼光はそのままである。
「ルードヴィヒさ~ん。何とかしてくださいよぅ」
「きさま! 何だ、その呼び方は! 従者ならば"様"をつけろ"様"を!」
「はいっ! わかりましたっ!」
クーニグンデに凄まれ、ハラリエルは冷や汗をかきながら答えた。
その後、祖父母にハラリエルを紹介する。
「ルー。そん子はどうしたがぁ?」
祖母のマリア・テレーゼが不審そうな顔で尋ねた。
「修行の途中で拾ったんだども、頼れる身内がいなくて困ってるっちぅんで、おらの従者にすることにしたがぁども……」
「従者の面倒をみるんはおめぇの甲斐性だすけ、増えたところで、どうっちぅこたぁねぇが……」と言いながら、祖父のグンターはルードヴィヒとハラリエルの顔を交互に見ると、何とも言えない微妙な表情をしている。
(んっ? 何か誤解されてねえか……? が、まあええか……)
貫頭衣:一枚の布を二つに折り,折り目の中央に頭の通るだけの穴を開けて着る衣服。古代ギリシャ・ローマ時代などの衣服はこの形式だった。
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