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第41話 入学式(1)

 今日は学園の入学式である。

 大公女コンスタンツェはジレンマを抱えていた。


 一つは、ローゼンクランツ翁の孫の件である。

 彼は入試の成績が特1位であるから、クラス編成はSクラスで確定であり、いやでも同級生になってしまう。


 彼の名を聞くと、コンスタンツェはどうしても怖そうな外見の男を想像してしまい、実際に会うのが怖かった。


 もう一つはイケメン君のことである。


 彼は入学試験のときに徒歩で来ていた。

 上位貴族であれば、馬車で送迎する特権が認められているので、おそらく彼は子爵以下の下位貴族であることが、容易に想像された。


 その意味では、大公とはかなりの身分差があり、最終的にゴールーインできることは、ほぼあり得ない。

 であるにもかかわらず、彼女の中のイケメン君の幻影像は勢いを増すばかりで、これを振り切ることができない。


 よほどのことがない限り入学を拒否されることはないので、入学してくることは、ほぼ確定だ。

 そして、コンスタンツェは、イケメン君との再会を期待する自分を否定することが、どうしてもできなかった。


(同じSクラスだといいのだけれど…)

 コンスタンツェが学園に着くと、クラス編成が貼り出されていたが、自分はSクラス確定であるので、場所だけ確認し、教室へ向かう。

 これを先導してくれるのは、ご学友兼護衛騎士のマルタ・フォン・ヴァールブルク男爵令嬢だ。


 教室での席割はくじ引きで決めると聞いていたが、大公女のコンスタンツェだけは、警備上の理由から席が指定されている。

 一番廊下側の列の最後尾から2番目がコンスタンツェで、最後尾がヴァールブルク令嬢である。

 これは不測の事態が発生した場合、最優先で避難することに配慮してのことであった。


 一番身分が高い者として、最後に教室に入ってきたとき、コンスタンツェは目を見張った。


 後ろ姿ではあるが、輝くような銀髪の男子が自分の指定席の横に座っている。

 あれは、間違いなくイケメン君だ。


(同級生だったなんて……嬉しい……)


 コンスタンツェの胸は、否が応でも高鳴った。

 これをヴァールブルク令嬢に悟られないよう気をつけながら、指定された席へ近づくと、これを察して、イケメン君はさっと立ち上がった。


(おらっ! 入試んときの偉そうな嬢ちゃんでねえけぇ。大公女様だったんけぇ……)


 だが、その程度の驚きは、ルードヴィヒの顔には出ない。


 彼は、胸に右手をあて、片(ひざ)を折ってコンスタンツェに向かって貴族の礼をした。威厳すら感じさせる完璧な所作である。


「大公国の紅蓮(ぐれん)薔薇(ばら)、大公女様にご挨拶(あいさつ)申し上げます。

 隣の席に座らせていただくことになりましたルードヴィヒ・フォン・ローゼンクランツと申します。以後、よろしくお願い申し上げます」


(ええっ! 本当なの?)


 完璧な所作に、天使のように美しい声での流れるような口上、そしてなによりも、誰もが(あこが)れるような美貌(びぼう)。非の打ち所がないこれらに、コンスタンツェは圧倒された。


 が、それより何より、イケメン君が例のローゼンクランツ翁の孫であった事実に仰天(ぎょうてん)した。


 あまりの驚きに、しばらく間が開いてしまったが、大公女らしく、威厳をもってこれに答える。思わず(へりくだ)りそうになったが、そこは思い直した。


丁寧(ていねい)挨拶(あいさつ)、大儀に思います。これからよろしく頼みます」

「はっ」


(こんな堅苦しいやり取り……好きじゃないのに……)


 コンスタンツェは、大公女という自分の身分を(うら)めしく思った。

 と同時に、イケメン君とローゼンクランツ翁の孫が一致したという歓迎すべき事実に、何か不思議な違和感を覚えた。


 コンスタンツェは、席に座るとしばらく自分の内面を吟味(ぎんみ)してみる。


(そうか! ローゼンクランツ卿に対して芽生えかけていた好意を、お父様の命令によって(けが)されたような気がするんだ……お父様も余計なことを……)


 しかし、これは彼女のジレンマが確定した瞬間でもあった。

 彼は子爵家の子息=ゴールインできない相手ということが確定したと同時に、ホーエンシュタウフェン陣営に取り込むべき人材であることも確定した。


 このため、彼を攻略するには、絶妙な距離感をキープすることが必須(ひっす)となった。


(なんて頭の痛いことなの……)


 コンスタンツェは、頭を抱えそうになるのを(こら)えていた。

お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 方言全開の主人公に度肝を突かれつつ、ここまで楽しく拝読しました! ファンタジー初心者なので、丁寧に説明が入っていてとても助かりました。
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