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第40話 合格発表(3)

 大公女コンスタンツェは、使用人からの入試結果の報告を待っていた。


 思ったよりも時間がかかっており、彼女は少し()れったくなった。


 暑くもないのに豪華な扇子を広げると、ヒラヒラと扇ぎ始める。

 これは、気分を落ち着かせるための彼女独特の癖だった。


 間もなく使用人が戻ってきた。


「ご報告が遅くなり、申し訳ございません。大公女様」

「まあ……それはいいわ。で、どうなの?」


「大公女様は2位で合格されていました」

「ふ~ん……」


 コンスタンツェは少しだけ意外に思った。自分は大公女として最高度の教育を受けており、その自負もあったからだ。

 だが、彼女の目標は、成績最上位のSクラスへの編入にあり、順位は二の次だった。Sクラスへの編入は確定ということで、彼女は十分に満足した。


 興味は他へ移る。


「それで……1位は誰なの?」


 彼女は、上位10位の者の名前も報告するように命じていた。帝国の将来を担うであろうこの者たちは、大公家として(よしみ)を通じておくべき存在だからだ。


「それが……」

「何なの? はっきり言いなさい」


「実は1位の上の特1位という者がおりまして……」

「特1位? 初めて聞くわね。何なの……それは?」


「700点満点のところ、1,400点の評価を得た者がおりまして、この者が特1位とされておりました」

「1,400点! なによそれ。身贔屓(みびいき)もいいところじゃない。学園は何を考えているの?」


「それが……学園関係者という訳ではないようでして……」

「結局、誰なのよ?」


「ローゼンクランツ卿でございます」


 庶民が貴族の名前を呼ぶ場合、"(フォン)"を付けないと不敬に当たる。このため使用人は"(フォン)"を付けて呼んだのだが、親はともかく、15歳で爵位を持つ者など、まずいない。

 準男爵(バロネット)は最下位の名誉称号であれ、爵位であることに間違いはない。


「お父様が自ら準男爵(バロネット)を受爵したというローゼンクランツ翁の孫のこと?」

「左様でございます」


(また、ローゼンクランツ翁の孫……)


 コンスタンツェは、眉をひそめた。


 先日、コンスタンツェは、父である大公フリードリヒⅡ世からローゼンクランツ翁の孫を、手段を問わず、ホーエンシュタウフェン陣営へ取り込むように厳命されていた。

 "手段を問わず"と命じるということは、女のコンスタンツェにとっては、その色香をもって籠絡(ろうらく)することも含まれることを意味する。


 他家のことは知らないが、ホーエンシュタウフェン家では、有力諸侯を自陣営に取り込むために、あらゆる手段を尽くしてきており、息女であってもその例外ではなかった。政略結婚はもとより、色香による籠絡(ろうらく)も重要な手段の一つとされてきた。


 このため、コンスタンツェも、男を魅了する仕草や声色などの訓練をさせられていた。


(うわさ)だと、たいへんな強さだというし、お父様は気に入っているようだけれど……この上さらに学業の成績も良いとなると、ますますごまかせないわね……)


 彼女は今でこそ大公女らしく堂々と振舞ってはいるが、これは後天的な教育の成果である。

 彼女の生来の性格は、気が小さく、怖がりだった。


 このため、外見が怖そうな武骨で強面(こわもて)の男は、生理的に受け付けない。


 父がローゼンクランツ翁の孫の強さを強調すればするほど、コンスタンツェは、怖そうな外見の男を想像してしまい、彼女としては、ローゼンクランツ翁の孫の件については、うやむやにしたいと考えていた。


 これが上位の貴族であれば、絵姿が出回っていたりするのだが、子爵家の三男坊で、ずっと田舎に(こも)っていたとなると、そのようなものは存在しない。


 噂によると、平均的な身長で、銀髪かつ空色の瞳をした優男(やさおとこ)だというが、特に"優男"の部分については信用ができない。

 父が取り込みを厳命した手前、自分にもたらされる情報が(ゆが)められているということは、いかにもありそうだ。


 ふとイケメン君の姿が思い出されたが、彼女は(かぶり)を振った。


(だめよ。大公女に自由な恋愛など許されない……)


 報告をした使用人は、コンスタンツェが落ち込んだ姿を見て、静かにその部屋を後にした。

お読みいただきありがとうございます。


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