第40話 合格発表(2)
合格発表の日。
ルードヴィヒは、のんびりと発表結果を見に行った。
結局、受験勉強など全くしなかったので、その分こだわりもなかった。
学園に着くと、合格者を掲示する掲示板の前では、飛び上がって合格を喜んでいる者、成績が悪くて落ち込んでいる者など、悲喜こもごもの様子が見受けられた。こればかりは、時代や世界が違っても変わらない。
合格者は受験番号順に並べて書かれていることを基本としつつ、上位100位までの成績の者に限っては、成績順に並べて順位が示されている。
もともと上位の成績を目指してしないルードヴィヒは、100位未満の方から見ていく。
「ん~と……356番は……おんや? ねぇぞ……」
(よっぽどのことがねぇと落ちねぇと聞いてたんが……学園の入試レベルは、そっけに高ぇかったんだろか?)
祖父母の怒る顔と母の悲しむ顔が目に浮かびかけたとき……
「ルード様―――っ」と言いつつ、こちらに駆け寄るリーゼロッテの姿が見えた。
(なじょぅして、ここに?)
リーゼロッテほどの身分の者であれば、自らが来なくとも使用人に確認させれば済むはずだ。
それなのに、本人が来ているということは……
"わざわざ自分の結果を見にきてくれたのではないか"ということに思い当たり、頬が熱くなるのを感じた。
(いんや、自惚れ過ぎだぃのぅ……)
過剰な期待だと、これを否定する。
ルードヴィヒは、いちおう開口一番に聞いてみる。
「ロッテ様。なじょぅしてここに?」
「ええと……それは……」と言いかけたリーゼロッテの目は少し泳いでいる。
「それより、見ましたか?」
「何をでぇ?」
「見ていないのですね。こちらですよ。こちら!」
……と言うと、リーゼロッテはルードヴィヒの手を取り、小走りで走り出した。
ルードヴィヒも、なすがままに付いていく。
(おらっ? ロッテ様と手ぇ繋ぐんは、初めてだぃのぅ……?)
そう思うと、いやでも感覚が手に集中してしまう。
リーゼロッテの手は、少しだけ湿っていて、ルードヴィヒのそれよりもほんのりと暖かかった。
(これがロッテ様の手かぃのぅ)と思うと、自然とその感触を味わってしまう自分がいて、ルードヴィヒは照れた。再び頬が熱くなる。
その感情は彼女にも伝染したらしく、リーゼロッテが恥じ入る様子が少しだけ垣間見える。それでも彼女は手を離そうともしない。
(少なくとも、嫌われている訳ではねぇようだのぅ……)
ルードヴィヒの自分に対する評価は、あくまでも控えめなのだった。
そうこうしているうちに、リーゼロッテは立ち止まった。
「あそこですよ」
少しだけ息を切らせながら、リーゼロッテはそう言った。
そこは、100位以内の成績上位者が掲示されている場所だった。
ルードヴィヒは、順位の下から見ていく。
「おらっ? ねぇぜ?」
「どこを見ているのですか? 一番上ですよ」
それは1位の更に上、他の合格者の倍の大きさの字でこう記されていた。
【特1位 ルードヴィヒ・フォン・ローゼンクランツ 1,400点】
他の合格者と同列に記されていると思い込んでいたルードヴィヒは、この異例な記述を見落としていたのだった。
固定観念とは、そういうものである。
「げぼっ! なんだこらぁ!」
(目立つにも程っちぅもんがあんでねぇけぇ! 学園は、何考ぇてんでぇ!)
それをよそに、リーゼロッテは、さも自分のことかのように自慢げに言う。
「700点満点なのに1,400点なんて、よほど優秀なのですね。ルード様は。まあ、わかってはいましたけど……」
「んーーーんっ? 何かの間違ぇでねえけぇ?」
「あれが間違いのはずはないじゃないですか」
(あっきゃーっ。こらぁ、まずったのぅ。おごったぁ!)
ルードヴィヒの脳裏に祖父の怒った姿が思い浮かぶ……
シオンの町のヴァレール城に、ルードヴィヒの入試結果の知らせが届いた。
マリア・テレーゼがグンターに話しかける。
「爺さ。ルーの入試結果が届いたぜ」
「でえでえ、見してみぃ」
それを見たグンターは……
「はっはっはっはっはっ……」と高笑いをした。
「あん子も手ぇ抜くんが下手だぃのぅ」
「まちっと普通っちぅもんを教ぇとけば、よかったんかぃのぅ」
「そらぁ口で教ぇ切れるもんでねぇ。経験するしかねぇんだ」
「そらぁ、そうだのぅ」
ルードヴィヒの教育に関しては、基本的に自由放任なグンター夫妻であったが、それは本人への信頼の証でもあった。
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