第38話 黒い子猫(2)
「おめぇ。自分の周りに蛍みてぇな光が寄ってくるがんを見たことあるけぇ?」
「ん?」
ルードヴィヒは、少しの間考えた。
「ああ。あれけぇ! 普通にしてっと見ぇねぇども、目をぼやかすと、いろんな色の明るいがぁや暗ぇがぁがいっぺぇ寄ってくるんが見ぇるっちぅか、わかるよ」
(何っ! 暗ぇがぁがも見ぇるたぁ……)
マリア・テレーゼとマリアは、驚いて顔を見合わせた。
精霊は、霊や妖精などよりも霊的波長が高い存在であるため、並みの霊感があっても見えない。マリア・テレーゼをもってしても、自分に強い好意を寄せて明るく光るものしか見ることができないしろものだった。
だが、この孫は暗いものまで見えるという。なんと強力な精霊視の能力なのか。
「そん光っちぅがんが、精霊んがぁて」
「へぇー」
「そんで、明るいがぁは、なじらね?」
「ああ。明るいがぁは、人懐っこいすけ、おらも好きだ」
「明るいがぁは、お願ぇすっと守護精霊っちぅがぁになってくれて、おめぇを守ってくれるがぁよ」
「へぇー。おらがお願ぇしたら、なってくれるかのぅ……」
「やってみるけぇ?」
「うん!」
ルードヴィヒは、子供らしく、未知の経験にワクワクした表情をしている。
「そん前に、おめぇが使える属性を調べねばなんねぇ」
「ぞくせい?」
「精霊の種類っちぅこった。とりあず、火・風・水・土と光・闇の6個を覚えとけや」
「うん」
マリア・テレーゼは、6種類の小さな魔石をとり出した。
興味を惹かれたルードヴィヒは、それを全部掴み取ろうと手を出す。
「急くなっちぅとるろぅ!」
マリア・テレーゼが一喝すると、ルードヴィヒは、ビクッとして手を引っ込めた。
「一個っつやるすけ……」
「ああ。わかったっちゃ」
マリア・テレーゼは赤い火の魔石をルードヴィヒに手渡す。
「それに魔力を込めてみらっしゃい」
「まりょくぅ?」
マリア・テレーゼは人に教えるのが得意ではない。基本的に弟子を取らないのが彼女の主義だ。
(おれの孫たぁいえ、面倒くせぇのぅ……)
「爺さに習ったすけ、闘気はわかるろぅ?」
「うん」
「闘気とは違う暖けぇがんが体ん中にあるんが、わかるけぇ?」
ルードヴィヒは、少し考え込んだ。
「うーーん? あれかのぅ……」
マリア・テレーゼは、焦れったくなった。
「とにかく、やってみらっしゃい」
「うん」
するとルードヴィヒは、静かになった。
集中して念じているようだ。
そして……
「熱っ!」
火の魔石からかなりの大きさの炎が噴き出し、天井を焦がした。ルードヴィヒは、反射的に手を離す。
魔石が床に落ち、コロコロと転がっている。
(はぁっ? 一発で成功たぁ!……それにあの威力……尋常でねぇ……)
「おぉぉぉぉぉっ! おっ魂消たぁ(驚いた)……」
ルードヴィヒは、驚いたことは驚いたが、そのことを面白がってもいるようだ。いかにも子供らしい。
ルードヴィヒは平気そうにしているが、マリア・テレーゼは、確認してみる。
「大丈夫けぇ。火傷したんでねぇけぇ?」
「ちったぁヒリヒリするども、あちこたねぇ」
「そんだば、ええっちゃ。どうやら、おめぇは火の魔法の才能がありそうだのぅ」
「おぉ! そうなんけぇ!」
その後……
風・水・土についても試してみたが、同様な状況だった。
そこでマリア・テレーゼは、魔石を片付けようとした。
「婆さ。まだ光と闇があんでねぇけぇ。ボケたんか?」
「何言っとるがぁ。おらぁまだボケる歳でねぇ。闇は使えることがもうわかっとるっちぅこった」
「そんだども、まだ光があんでねけぇ?」
「こんアホが! 闇が使える者は光が使えねぇがぁて!」
「なしてでぇ?」
「光と闇は打ち消し合うすけ、一緒にはできねぇんだ」
「すっけなもん、やってみんばわからんでねぇけぇ」
……というとルードヴィヒは光の魔石を手に取った。
(ほんにまあ、しょうもねぇ……)
……とマリア・テレーゼが呆れたのも束の間……
光の魔石から眩い閃光が生じた。
「ほれみれ、できたでねぇけぇ」
……とルードヴィヒは得意顔である。
一方、マリア・テレーゼとマリアは、驚いて再び顔を見合わせていた。
(光と闇が一つの肉体に同居すんなど……信じらんねぇ……)
しかし、その事実を紛れもなく証明する存在が目の前に立っていたのだった。
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