第37話 入学試験(2日目) ~その2~(4)
(くそっ! 6発同時発射を2属性でだと!)
試験官は、更に続けようとしたが、係の者に「これ以上やったら、予備の的がなくなってしまいます」と止められ、やむなく断念した。
「あのう……もう終わりでしょうか?」
「ああ、そうだとも! 次の者が控えているから、早く場所を譲りなさい!」
……と試験官はイラついた声で言った。
「承知しました」
ルードヴィヒは、そのまま粛々と次の者に場所を譲った。
いちおう他の受験者の様子も見てみることにする。
すると受験者は詠唱を始めた。
「我は求め訴えたり。土の精霊よ。頑強なる岩塊をもって、かの的を貫きたまえ。世々限りなき土の精霊王と土の精霊の統合の下、パトリックがこれを乞い願う。岩弾!」
岩塊は、いちおう的の方向に飛んでは行ったが、大きく外れている。その後3発同じ魔法を発動したものの、最後の1発が的をかすっただけで終わってしまった。
動く的に至っては、早口で詠唱したものの、舌を噛んでしまい、魔法自体が発動しなかった。
それを見ていたルードヴィヒは、茫然となった。
(フル詠唱で魔法名まで大声で叫ぶたぁ……どうかしとる……そうまでして、初心者に見せてぇのけぇ……)
続いて2,3人ほど見てみたが、五十歩百歩だった。
諦めて試験会場を後にしようとしたとき……
自信に満ちた表情の少女が入場してきた。
護衛が近くに控えており、ギャラリーの数も突然増えた。
(おぉ。こらぁちったぁやりそうだのぅ……そんにしても……どっか偉ぇとこの嬢ちゃんなんけぇ……)
少女は自信満々で詠唱を始めた。
「我は求め訴えたり。火の精霊よ。燃え盛る火の玉をもって、かの的を貫きたまえ。世々限りなき火の精霊王と火の精霊の統合の下、コンスタンツェがこれを乞い願う。火球、火球、火球、火球!」
少女は火球を4連射し、そのことごとくが的の中心に命中した。
ギャラリーから、嵐のような拍手が沸き起こる。
少女は、それらに手を振って応えている。
(へぇー。やっぱ偉ぇとこの嬢ちゃんは違うのぅ。
それにしても完全詠唱と簡易詠唱を組み合わせて4連発たぁ、あん娘もなかなかやるもぅさ……)
その後の動く的では、簡易詠唱で見事に的を砕いていた。
(まあ……あの実力なら、当然だろなぁ)
この後はもう期待できないと見切って、ルードヴィヒは、試験会場を後にした。
◆
「主様。お帰りなさいませ」
宿に着くと、例によってクーニグンデが迎えに出てきた。
すると皮肉を交えた声でこう言われた。
「"お客様"がいらっしゃっていますよ」
"お客様"が妙に強調された言い方だ。悪い予感しかしない。
「お客様ぁ?」
「今、ルークスたちの部屋にいらっしゃっていますよ」
「おぅ。そうけぇ……」
ルークスたちの部屋へ向かうと、楽し気な声が漏れ聞こえて来た。
不思議に思いながら扉を開けると……
そこには、真っ黒な衣装で身を固めた少女が立っていた。
「おめぇは、ダルク……」
(確かに「Ich komme wieder(また来る)」とは言っちゃぁいたが……)
「主様。ルークスが、ここにいてもいいと言ってくれた」
ダルクの物言いは相変わらず平板だが、いつもよりは勢いがあった。その表情からは嬉しさが垣間見られる。
「こかぁ4人部屋だすけ、そらぁ構わねぇが……いつまでいる気でぇ?」
「それは……死が……永遠に2人を分かつまで……」
(なんでぇそらぁ! 結婚の宣誓そのもんでねえけぇ!)
「そ、そうか……ルークスさんは、それでいいのかな?」
……と顔が引き攣りそうになりながら、ルークスに確認してみる。なぜか口調も丁寧になってしまった。
「肯定……します……」
ルークスの返事は素っ気なく、感情もこもっていない。まるでダルクのようだ。
精霊はそもそも嫉妬深いものだ……
無表情を装ってはいるが、燃え盛る嫉妬の炎がルークスの心の内に溜め込まれていることが想像され、ルードヴィヒはうそ寒くなった気がした。
その後、クーニグンデにダルクのことを告げたら、案の定、噛みつかれた。
その夜。
毒による頭痛に耐えながら、ルードヴィヒは考えた。
(女難の相でも出てるんかいのぅ。おら何か悪ぃことしたろか……)
だが……
「まあ……Es kommt wie Es kommt……」(なるようになるさ……)
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