第4話 啓示(1)
天界。
それは地上のはるか上空にある現実世界とは位相のことなる異空間である。
ヤハウェは、千数百年前ほどに誕生した比較的新しい神であるが、ここエウロパの地で急速に勢力を拡大していた。
神聖ルマリア帝国でも、ヤハウェを唯一絶対神と崇めるキリシタ教を国教と定めている。
天使は、天界と地上をつなぐ神ヤハウェと人との仲介者として、神に仕える僕である。
天使には、多くの位階があり、上級天使の熾天使、智天使や座天使、中級天使の主天使、力天使や能天使などが存在する。
人間になじみのある天使は、最下級の天使であった。
学校のあるアウクトブルグの町への出立も間近となったある日の早朝。
ルードヴィヒは、ヴァレール城の庭で座禅を組んで瞑想していた。早朝の空気は冷涼かつ清浄であり、瞑想するには最適だった。
この世界の武人は、体を巡る闘気を操り、身体や身体能力の強化を図るスキルを使いこなしていた。
剣聖であるグンターは、当然に闘気を操る名人であり、ルードヴィヒは、幼いころから座禅による瞑想やグンターが考案した太極拳に似た体操を実践することで、闘気を練る技術を高め、チャクラを開いていった。
ルードヴィヒは、ふと何か崇高な気配を感じて目を開けた。
そこに、この世とも思えぬ光景が広がっていた……。
純白で鳥のような翼を生やしたこの上ない美貌の男性が中空に浮かんでいる。
見たこともないデザインの鎖かたびらを着こみ、腰には剣を差した軽装の武装姿で、後背には後光がさし、同様に翼を生やした者を多数従えている。均整のとれた体つきは武人としても一流に見えた。
ルードヴィヒは、なぜかその顔つきや雰囲気が自分に少し似ていると思った。
(んっ? なんかおらにちっと似とるのぅ……だが、まあええか……)
ルードヴィヒの頭の中に声が響く。
『我はミカエル。此度は、汝に神からの使命を伝えるため、ここに来た』
男の言葉に偽りがないならば、ミカエルは熾天使であり、天使最上位の存在である。キリシタ教について一通り勉強していたルードヴィヒは、その程度の知識は持っていた。
「なんだそらぁ? おらは教会には勉強しに通ったども、お祈りなんかしたことないっちゃ。何かの間違えでねぇけぇ?」
ルードヴィヒは、素朴な疑問を口にした。
それを聞いて、ミカエルは少し険しい表情となった。
『まさか神を信じないと申すか?』
ルードヴィヒは、素直に釈明をする。
「そこまでは言わんども、正直、真面目に考えたこたねぇ」
(神はなぜこのような者を選ばれた?)
ミカエルの脳裏を疑問がかすめるが、気を取り直す。
『神の深謀遠慮は我らごときでは計り知れぬもの。素直に使命を受け入れるがよい』
「そらぁ断るこたぁ……」
と言いかけたところで、ミカエルの眼光が一段と鋭さを増した。凄まじい威圧感である。
「……できねぇようだのぅ」
ルードヴィヒは、素直に折れた。
それに、先ほどから鑑定スキルを使ってミカエルのジョブやレベルを看破しようと試みているが、ことごとく弾かれている。
すなわち自分より格上の武力を持っていると思って間違いない。
(まさか、攻撃を仕掛けてくるこたぁあるめぇが……)
『では、汝に神からの使命を伝える。フリードリヒⅡ世・フォン・ホーエンシュタウフェンを帝位につけよ』
「ええっ! そんな大それたこたぁ……」
『全知全能の神はすべてを見通しておられる。汝にできぬことはあるまい』
「はぁ……わかったっちゃ」
ルードヴィヒは、覚悟を決めた。
『よろしい。それに当たって、汝を手助けする従者を授けよう』
「はぁ……どうぞ好きにしてくれや」
ルードヴィヒは、もはや自暴自棄ぎみな気分になってきていた。
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