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第37話 入学試験(2日目) ~その2~(2)

 そこでルードヴィヒは次のことを考える。


(光精霊・ルーチェットのルークスは、毎日会ってるすけ、まあええろぅ……問題はあん()だな……)


 ルードヴィヒは、近くにニグルがいないことを再確認すると、闇精霊・オプスクーリタスのダルクを召喚する。


(ニグルとダルクは、仲(わり)ぃからのぅ……)


 魔法陣から真っ黒な衣装を着た姿の少女が現れた。その容姿はルークスと酷似(こくじ)しているが、黒髪・黒目で、まるっきり白黒が反転している。彼女らは対極の(つい)をなす存在であるので、それも"むべなるかな"である。


 彼女は、静かで、口数が少ない(たち)で感情が読み(にく)いが、かといって油断していると、不満を内に溜め込むタイプである。爆発したことは今までないが、仮にそういう事態に至ったときは、想像を絶する結果を生むだろう。


(ぬし)様……放置プレイ……酷い……酷過ぎ……」


 ダルクは、開口一番こう言った。だが、口調は平板で感情が読み取りにくい。


「いやぁ、(わり)ぃかったのぅ。決しておめぇを忘れてたわけじゃねえがぁよ」


 ダルクは、あくまでも淡々と語る。


「謝罪の意は……行動で……示すべき……」

「そんだば、どうせぇばええがぁ?」


「我は……主様の……絶大なるハグを……要求する」

「なんでぇ。すっけんことけぇ」


 何を要求されるか不安だったルードヴィヒは、安心してダルクをハグした。そのせいか、少しばかり乱暴になってしまったかもしれない。


 ハグされたダルクは一瞬目を見開いたが、ルードヴィヒの体温を堪能(たんのう)するように、ゆっくりと目を閉じた。


 しばらく時間が経過し……


(いつまで、こうしとけばええんだぁ?)

 ……とルードヴィヒは()れ始めた。


「ヌシサマンチュウム……充填(じゅうてん)完了……充填率……120%……」

 ……とダルクは訳の分からない言葉を突然に口走った。


 相変わらず、言葉に抑揚がない。喜んでくれているのだろうか?


 ルードヴィヒは、ハグをしていた手を離し、聞いてみる。


「これで満足したけぇ?」

「とりあえず……ヌシサマンチュウムの充填は……完了した……」


「なんでぇ。そらぁ?」

「ヌシサマンチュウムは主様成分……我が発見し……命名した……」


(すっけなもん。知るけぇ!)


「そんだば、満足したっちぅことで、ええろぅ?」

「否定……主様は……もっと我と……(まじ)わるべき……」


「まあ……そらぁ、そうかもしれんが……」

「ついては……わ、我は……我は……ルークスとの交代(こうたい)を……要求する……」


 その言い方から、珍しくダルクの感情が垣間(かいま)見えた。

 彼女にしてみれば、思い切った決断だったようだ。


「だども……闇属性は禁忌(きんき)だすけのぅ……」

「我は……失敗しない女……できない理由は探さない……」


(はぁ? なんでぇ。その自信はどっから来るんでぇ?)


「う~む……そらぁちっと(かんげ)ぇとくすけ、今日んとこは……」

「了解した……では明日……Ich(イッヒ) komme(コメ) wieder(ヴィーダー)(I'll be back:また来る)……」

 ……と言うなり、ダルクの姿はかき消えた。


(「また来る」って、そらぁ……)


 ルードヴィヒは、一抹(いちまつ)の不安を覚えた。

     挿絵(By みてみん)


「なんでぇ……実力を隠すっちぅても、(ほど)があるろぅ」


 武術試験の他の受験者たちの様子を見ていたルードヴィヒは、苦情めいた言葉を漏らした。


 実際のところ、素人(しろうと)そのものではないか。(事実、そうなのだが……)少しばかりできる者も、毛が生えた程度だ。


(まあ……フェイクのレベルに合わしたら、こっけなもんかのぅ……)


 これと比較すると、自分は明らかに実力を示し過ぎた。

 思わず「実力を隠せ」とうるさく言われた祖父の姿が思い浮かぶ……が"覆水(ふくすい)盆に返らず"である。


 だが……

「まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)


 そう割り切って、ルードヴィヒが興味を失いかけたとき、リーゼロッテの順番がきた。

 彼女は、試験官を倒しそうになるほどに奮戦している。


「おぅ……ロッテ様……女ながらもやるでねえけぇ」


 この様子を見終わったルードヴィヒは武闘場を後にした。


     ◆


 魔術についても、試験の順番は公平を期するため、くじ引きで決められる。

 ルードヴィヒは、またも運の悪いことに一番手となってしまった。


(けっ……ちっと運が悪すぎでねえけぇ……)


 だが、結果は(くつがえ)らない。気を取り直して試験に(のぞ)む。


 魔術の試験は、戦闘ではなく、止まっている(まと)と動いている的に攻撃魔法を当てるというものだった。


 まずは、止まっている的である。

 これは射撃の標的と同様に、複数の同心円が描かれている。

 命中した場所の中心からの距離で点数が決まるのだろう。

お読みいただきありがとうございます。


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