第36話 入学試験(2日目) ~その1~(2)
セアドは、呆れ果てたが、そうもしていられない。
実技試験に向けて気持ちを切り替えた。
対峙しているローゼンクランツ翁の孫は、左手に片手剣を、右手に片手用の盾を装備している。
その盾は、通常の平らな形ではなく、丸みを帯びていた。
ルードヴィヒは、現在は両手を完璧に均等に扱えるが、生まれたときは左利きなのであった。
だが、今回は相手に対し、その方が有利であるから、サウスポーの構えにしたに過ぎない。
(サウスポーか……戦い難いな。それにあの盾の形……何か意味があるのだろうな……)
そして……
いよいよ審判員が開始の合図をする。
両者はいつでも突進できるよう、膝の力を抜き、少しだけ屈んだ姿勢で準備している。
「では……始め!」
間髪を入れず、ルードヴィヒは盾殴りを繰り出した。
(速いっ!)
セアドは、全く予想していなかった攻撃に一瞬対応が遅れたが、盾で防御する。
驚いたのは、その後である。
ルードヴィヒの盾殴りはセアドが構えた盾の右側に激しく当たった。
ルードヴィヒの持つ盾は丸みを帯びており、その衝撃でセアドが構えた盾は大きく左外側に弾かれた。逆に、衝突の反作用でルードヴィヒの盾はセアドのボディの方へと方向を変え、直撃した。
これは単純な物理の運動法則である。要はビリヤードと同じ原理だ。
「ぐっ!」
盾が直撃した衝撃は予想より大きく、闘気で身体能力の強化を図っていることは明らかだ。その威力はオーラの色が赤ということがフェイクであることを証明していた。
セアドは苦痛に顔を歪める。もしかして、肋骨にひびくらいは入ったかもしれない。
続いて、少しの間もなく、ルードヴィヒの片手剣がセアドを襲う。
必死に片手剣で受け止めたが、凄まじいパワーだ。何とか押し返そうとするが、それもかないそうにない。
セアドは、素早く後退し、一旦、ルードヴィヒと距離を取ろうとした。
だが、ルードヴィヒは、それを許さない。
盾を腰の辺りにガッチリと構えると、光のような速さで構えた盾ごと体当たりする。いわゆるシールドチャージである。
何とか反応して、セアドは盾を構えたがルードヴィヒのように腰が入ってはいない。
衝突した威力はルードヴィヒの方が遥かに大きく、結果、セアドは無様に尻もちをついてしまった。
そして、セアドの首筋にルードヴィヒの片手剣が当てられた。
「そ、そこまで」
予想外の結果に審判員も驚いたのか、一瞬の間があって、審判員は試合を止めた。
ルードヴィヒの勝利である。
セアドは、これが実戦なら自分の首が落ちていたと思うと、背筋が寒くなった。
他の受験生たちは、この試合を見守っていたが、その内容のあまりの凄まじさに、言葉を失い、武闘場は静まり返っていた。
その後、セアドは、重い足取りで帰っていった。
(盾にあんなアグレッシブな使い方があったとは……初見だったとはいえ、的確に反応できなかった自分の実力が恨めしい……結局、自分の実力の半分も出せていないではないか……)
彼の肋骨には、やはりひびが入っており、しばらくの間、訓練を休むことを余儀なくされた。
勝ってしまったルードヴィヒも、実は当惑していた。
鑑定したところ、試験官のレベルは58で、オーラの色は第4チャクラが開いていることを示す緑だった。これはてっきりフェイクだと思っていたのだが……
(レベルどおりっちぅか、レベルの半分の実力も出してねぇでねぇけぇ!)
それに、盾殴りに対する反応は、まるで初見の素人のようだった……
(そっか! おらに恥をかかせねぇために、勝ちを譲ってくれたっちぅこったな。そうに違ぇねぇ……そぃがわからねぇたぁ、おらもまだまだだのぅ……)
……と勝手に都合よく解釈するルードヴィヒなのであった。
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