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第36話 入学試験(2日目) ~その1~(1)

 公国近衛騎士旅団に所属するセアド・フォン・ラングニック少佐は、旅団総長のゲルヴィーン・フォン・ヘーゲン少将の部屋を訪れた。セアドは旅団の中隊長の地位にある人物である。


 彼は、すぐさまヘーゲン少将に向かって敬礼をした。いかにもベテラン軍人らしく様になっている。


「失礼いたします。セアド・フォン・ラングニック。命によりまかり越してございます」

「うむ。ご苦労」


「ところで、本日は何用でありましょうか?」

「大公閣下のたっての依頼でな。貴官には、入学試験実技の試験官をやってもらいたい」


「試験官……でありますか?」


「現役バリバリの少佐が学校の試験官をやるなど前代未聞ではあるが、君命には逆らえない。気は乗らないだろうが、よろしく頼む」

「それは、もちろんですが……」


 セアドは、状況が理解できないといった顔をしている。


「なお、貴官が相手をするのは1人だけだ」

「……と言いますと?」


「ローゼンクランツ翁の孫が試験を受けるらしい。貴官には、その相手をしてもらう」


「ローゼンクランツ翁といいますと、あの剣聖のですか?」

「そうだ。だが、あくまでも相手をするのは、その孫で15歳の少年だ。強いといってもたかが知れているだろう。そこは祖父の七光りも(はなは)だしいところだな。まあ、怪我をさせない程度に遊んでやってくれ。

 では、頼んだぞ」

jawohl(ヤーヴォル)mein(マイン) herr(ヘル)!」(かしこまりました! 上官殿!)


 だが、セアドは思うのだ。


(少将閣下はああはおっしゃっていたが、本当に大公閣下の取り越し苦労なのか? ここは()めてかからない方がよさそうだな……)

 入学試験2日目は実技の試験が行われる。

 午前は武術で、午後は魔術だ。


 ルードヴィヒは、当惑していた。


 鑑定してみたところ、受験生のほとんどはレベルが一桁(ひとけた)で、高い者でもレベル10の前半だった。オーラに至っては、第1チャクラ(会陰(えいん)部)が開いていることを示す赤色の者は数えるほどしかない。


(フェイクにしても、低過ぎやしねぇけぇ……)


 この()に及んでも、ルードヴィヒは、皆のステイタスがフェイクだと信じて疑っていない。

 実は、フェイクのスキルは、マリア・テレーゼが()み出した秘技ともいうべきもので、一般には普及していないのだった。


 目立たないように、ルードヴィヒは、フェイクのスキルで、レベルを10に、オーラの色を赤に修正する。


 ふと見ると、少し離れたところで従者に手伝ってもらいながら準備をしているリーゼロッテの姿が見えた。女性には珍しく、彼女も武術の試験を受けるようだ。


 向こうも気がついて、手を振ってきたので、こちらからも手を振り返す。

 (こた)えてもらったとみて、リーゼロッテは優雅な笑みを浮かべている。


(さっすが上位貴族様は上品だのぅ……)


 実技試験の順番は公平を期するため、くじ引きで決められる。

 ルードヴィヒは、運の悪いことに1番手となってしまった。


(んな)の様子を見てからと思っとったんだども……しゃあねぇか……)


 そして武術の試験が始まる。


     ◆


 1番手となったことで、セアドは戸惑っていた。


 ローゼンクランツ翁の孫の相手をするのは良いが、自分は実践向けの訓練しかしておらず、初級者の相手などしたことがない。

 このため、本職の試験官の対応の仕方をしっかり見てからと考えていたからだ。


 セアドは、覚悟を決めて試験会場となる武闘場に入った。


 眼前にいるローゼンクランツ翁の孫は、男でもため息が出そうなとんでもない美少年だった。


(だが……着やせして見えるが、かなり鍛えているな。それにあの立ち姿……並みの者ではない……)


 セアドほどの者になると、立ち姿や歩いている動作だけでも、ある程度の技術レベルを推測することができる。


 続いて、鑑定スキルを使ってみて、セアドは驚いた。


(レベル10で、オーラの色は赤だと!)


 明らかにおかしい。立ち姿から()(はか)れるレベルと明白なズレがある。


(そうか……フェイクのスキルか……)


 幻の大賢者マリア・テレーゼが編み出したというフェイクのスキルがあるらしいという話は、セアドも聞きかじっていた。

 だが、その存在を疑う者は多い。


(存在したのだな……フェイクのスキルは……)


 これでセアドは、(ますます油断できない)と思った。


 すると、ローゼンクランツ翁の孫が進み出てきて言った。


「試験官殿。武器は合わせた方がいいでしょうか?」


(はあ? 意味がわからない。双剣を背負い、明らかにローゼンクランツ双剣流の使い手と見えるが、他の流派の武技も使えるとでもいうのか?)


 セアドは、帝国式正統剣術を使う。

 このため、右手に片手剣(ブロードソード)を、左手に片手用の盾を装備している。


如何(いか)なる武器を使うかは自由だと聞いているが……」

「実力を計るには、武器も合わせた方がいいですよね。では、そうさせてもらいます」


 そう言うなり、ローゼンクランツ翁の孫は、瞬時に装備を帝国式正統剣術のそれに変えた。あまりの早技で視認できなかった。"目にも見えない"早技とはまさにこのことだ。

jawohl(ヤーヴォル)mein(マイン) herr(ヘル)!」(かしこまりました! 上官殿!)は、英語の「イエッサー(Yes sir)」に当たります。


お読みいただきありがとうございます。


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