第35話 入学試験(1日目)(2)
そして試験当日の日。
大公フリードリヒⅡ世の嫡出子で大公女のコンスタンツェは、馬車に乗ってシュタウフェン学園の門を通過しようとしていた。
何を見るでもなく、下位貴族たちが徒歩で学園に向かう列を眺めていると、颯爽と歩くとんでもない美男子の姿が目に入った。
途端に彼女は、胸がキュンと締め付けられる感覚を覚える。
(な、な、なんなの? あの超超超イケメンは!)
コンスタンツェは、常々、男は強くあらねばならないと思っていた。
にもかかわらず、武骨で強面の男は生理的に受け付けない。彼女には面食いの傾向があったのだ。
さすがに、馬車を止めろとは言えず。そのまま馬車は通り過ぎていく。
イケメン君の姿が見えたのは一瞬であった。
が、むしろ一瞬であったがために、その記憶はコンスタンツェの脳内でかえって美化されたものとなっていった。
コンスタンツェが応接室で学園幹部からの接遇を受け、受験会場に最後に入ると、左斜め前の席に例のイケメン君と思われる人物が座っていた。コンスタンツェは再び胸が高鳴った。
立場上、ジッと見惚れる訳にもいかず、チラチラと目線を送り確認してみる。
(ああ……横顔もイケメンなのね。それにあの輝くような銀髪……間違いないわ)
銀髪は帝国人には少ない。輝くような銀髪は、コンスタンツェにローゼンクランツ夫人を想起させた。
(そういえば、例のローゼンクランツ翁の孫は、ローゼンクランツ夫人の甥っ子だったわね……まさかね……)
あれこれ考えているうちに、試験問題と答案用紙が配られていた。今は、試験に集中すべきときだ。
「では、試験を始めてください」
試験官の合図とともに、受験者たちが一斉に解答を書き込み始める。しんと静まる会場で、ペンで書きこむ音ばかりが喧騒のようにも聞こえる。その音は受験者たちへのプレッシャーとなった。
コンスタンツェがふとイケメン君の方を見ると、彼は試験問題を眺めながら呆然としているように見えた。
試験開始から既に5分以上が経過している。
(まさか……良いのは外見だけで、お頭は空っぽなんてことは……)
コンスタンツェの希望が萎みかけようとしたとき……
イケメン君は、凄まじい勢いで解答を書き込み始めた。
なんとも形容し難いその音は、流れるようで淀みがなく、他の受験者たちに更なるプレッシャーを与えた。
コンスタンツェもイケメン君を見ている場合ではないと、試験に打ち込むことにする。
試験開始から30分が経過し、試験官が告げる。
「30分を経過しましたので、解答を終わった方は退室していただいて結構です」
しばらくすると、ポツポツと受験者は退室していき、受験者は半分もいなくなった。
コンスタンツェは解答を終えていたが、バレないようにイケメン君のことを観察していた。
彼は、まだ粛々と解答を書き込み続けている。
(あの問題で、そんなに書くことがあるのかしら……)
そして……
「試験終了まであと5分です」と試験官が告げると同時に、イケメン君の手はピタリと止まった。
彼は解答をさらりと確認すると、解答用紙を提出し、退出していった。
その姿は、自信に満ちるでもなく、かといってできの悪さに落ち込むでもなく、自然体そのものだった。
(なんだかよくわからない人ね……)
コンスタンツェも、その後を追い、退出した。
この日は学科試験が行われた。
科目は、帝国標準語、数学、錬金術(理科)、社会、そして初歩の古代ルマリア語の五教科である。
コンスタンツェは、イケメン君を観察し続けたが、どの教科も同じパターンで試験は経過していた。
◆
試験開始の合図とともに試験問題を見たルードヴィヒは戸惑った。問題があまりにも簡単だと思ったからである。
(そっか! 問題は簡潔だども、そこに至る基礎理論と解答に至るまでの考察過程を示せっちぅことけぇ)
だが、それにしては解答欄のスペースが小さい。
(まあ。書き切れなかった分は裏に書けばええろぅ……)
ルードヴィヒは問題を一通り見て、頭の中で書くべき内容を考え、裏も含めた答案用紙に書き込める量と書き込む時間も考慮して校正していく。
そして書くべき内容を確定すると、一気に書き始めた。
内容は確定しているので、後は書き込むだけの作業である。
ルードヴィヒは、試験時間を最大限に使い、筆跡や配字にも注意を払いながら記入を終えた。
念のため、5分の余裕を持たせて作業をしたが、結果、予定どおり5分前に作業を終えた。念のため内容も確認する。
(よしっ! こんでええろぅ)
試験をまるで作業のようにこなしたルードヴィヒは、淡々と試験会場を後にした。
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