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第35話 入学試験(1日目)(1)

 この世界に義務教育の制度はない。


 教育のレベルは低く、知識階級といえば、まずは教会関係者と貴族であるが、貴族でも地位の低いものは文盲(もんもう)であることも珍しくなかった。


 大学(アカデミー)は存在していたが、ごく限られた者しか学ぶことができなかった。地球のルネサンス期以降のように学問・芸術が発達するのは、まだこれからといったところである。


 そんな中でも、貴族や大商人の子息・息女を対象として教育を行う学校が各大公国の首都などに設立されているケースもあった。


 シュワーベン大公国の公都アウクトブルクにもそんな学校の一つであるシュタウフェン学園があった。シュワーベン大公国は代々皇帝を輩出してきた国でもあり、学校の方も名門校と世間にはとらえられていた。


 学校を卒業することは社会的なステイタスであるが、祖父グンターから厳命されたこともあり、ルードヴィヒはシュタウフェン学園に行くことになっていた。


 シュタウフェン学園は15歳から18歳ごろまでの3年間を修業期間としており、中等的な学問や社会的な作法から武芸にいたるまで幅広い教育が行われる。


 入学に当たっては、各家庭において初等教育を受けたことを前提とした入学試験をクリアする必要があった。


 学校を優秀な成績で卒業した者に中には、大学(アカデミー)や魔術師学校に進学する者もいるが、第2子以降の貴族の子息などの家督を継げない者が多い。これらで優秀な成績を修め、大学(アカデミー)の教員や魔導士(ウィザード)となった者は社会的な尊敬を集めていた。

 この世界では男尊女卑の思想が根付いており、女性でこれらに進学する者は(まれ)であった。


 そういう意味では、シュタウフェン学園は、現代の感覚でいうところの中高一貫校に近い性格の学校である。

 ルードヴィヒがアウクトブルグの町へ着いてから、はや一月以上が過ぎていた。

 旧ペンドラゴン邸の修繕工事はだいぶ進捗(しんちょく)したものの、まだ入居できていない。


 ルードヴィヒは、余裕をもってアウクトブルグ入りをしたつもりだったが、なんだかんだで、いろいろな出来事があったため、受験勉強というものを全くできていない。

 一方で、入学試験の日は、目前に迫っていた。


「結局、何の準備もできねぇかったのぅ」


 ルードヴィヒは、のんびりとした口調で(ひと)()ちた。


 それを聞いていたルークスが、(さと)すように言う。


(ぬし)様。大丈夫なのですか? 成績が悪くてローゼンクランツの家名に泥を塗るようなことになったら、お爺様のお怒りを買いかねませんよ」


 よほど酷い成績でない限り、入学を認められないことはないようだが、入学後のクラスは厳然とした成績順に編成されるため、特に上位位貴族の子息・息女にとっては、成績の悪いクラスに編入されることは不名誉なことだった。

 このような者たちは、入学試験の出題傾向を熱心に研究し、その対策に余念がない。


 だが、グンター夫妻は、そこまでルードヴィヒの面倒は見なかった。当のルードヴィヒにしてみれば、ブルーノは武門一辺倒で頼りにならないし、アウクトブルグへ来たばかりで、他に頼れる知己(ちき)もいなかったので、対策のしようがなかった。

 だからといって、母のマリア・クリスティーナを頼るのも気が引けた。


「おらん()は貴族ちぅても所詮(しょせん)子爵の家柄だし、なるようになればいいでねぇけぇ。エルレンマイヤー先生にはいろいろ習ったし、それでなんとかなるろぅ。

まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)


「どうなっても私は知りませんよ」

「ええて。別にルークスに責任を取ってもらおうなんて、ちっとも考えてねぇすけ」


 実は、当時のグラリエ聖堂のエルレンマイヤー司教がその総力をもって教え込んだ知識は、大学(アカデミー)のレベルを(はる)かに超えるものだった。さらに、マリア・テレーゼ母子から教えられた知識は時代を超越する内容の(たぐい)のものである。


 初等教育は各家庭で行わるもので、各家庭それぞれということもあり、そのレベルがどの程度かなど、ルードヴィヒには想像もついていなかった。

 逆に、自分は田舎育ちのため、都会のそれに追いついていないのではないかと、自分を過少に評価しているほどだった。

     挿絵(By みてみん)

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