第34話 貢物(2)
クーニグンデが部屋に戻ったとき、ゲルダはいつもとは明らかに雰囲気が違うことに気づいた。
「クーニグンデさん。何かいいことがあったんですか?」
クーニグンデは得意げに言う。
「明日、主様に貢いでもらうことになった」
「貢いで?」
ゲルダは、その意味を咄嗟には理解できない。
「主様がマルグレットに貢いでいたので、ちょっとごねてやったら、そういうことになった。男などちょろいものだな。
明日は衣装諸々いろいろとねだるつもりだ」
「ええーっ。いいなぁ……」
クーニグンデは、未成年者のゲルダを序列ランキング外の存在とみなしていた。このため、彼女を全く警戒していない。
「おまえも頼んでみればいいじゃないか」
「でも……私、ただの居候の身だし……」
「仮の住まいとはいえ、ひとつ屋根の下に共に住んでいる以上、おまえはハーレムの庇護下にある。居候云々は関係がない」
「ハーレム?」
言葉としては知っているが、ゲルダはクーニグンデの言わんとしていることが、今一つ理解できない。
「私はルードヴィヒさんのことが大好きなんだけど……相手にしてもらえるのかなぁ……」
「我は問題ないと思うぞ。でなければ、おまえはハーレムから追放されているはずだ」
ゲルダは、クーニグンデの直接的な物言いにタジタジとなったが、背中を押してくれていることは良くわかった。
「じゃあ……思い切ってお願いしてみるね」
……というと元気に部屋を出ていった。
しばらくして……
ゲルダは満面の笑みを浮かべながら戻ってきた。
「ありがとうございます。クーニグンデさん」と言うと、ゲルダは嬉しくなってクーニグンデに抱きついた。
◆
女子たちのおねだりを一通り聞いて、ルードヴィヒが一息ついたとき、ハラリエルは突然言った。
「ルードヴィヒ様ぁ。見ましたよぅ」
「何をでぇ?」
「いつの間にマルグレットさんとあんなに仲良くなっちゃったんですかぁ? あれじゃあ、まるでバカップルですよぅ」
それを聞いて、ルードヴィヒは青くなった。
「おめぇ……まさかそれをクーニィには……」
「もちろん言ってませんよぅ。そんなこと怖くてできませんからぁ」
一安心はしたが、ここは釘を刺しておかなければならない。
「おめぇ……わかってるだろうなぁ……」
「わかってますよぅ。でも、ルードヴィヒ様にぞんざいに扱われたら言っちゃうかもですぅ」
「なんだとぉ! おめぇ、いうこと聞かねぇと、大川にぶちゃってくるがぁぜ!」
大川とは大河のことで、この場合アウクトブルグの北側を流れる大河ドナエを差す。
しかし、脅しは効いていないようだ。
ハラリエルは、得意げに言う。
「ふっふっふっ……ルードヴィヒ様の秘密を一つ。ばちっとゲットだぜぇーっ」
「なんでぇ、そらぁ?」
◆
カミラはたち3人は、就寝のため着替えをしていた。
そのとき、ふとマルグレットの過激な下着姿がカミラの目に映り、カミラの目は点になった。
そもそもカミラが復活する前は、誰もパンティなどはいていなかった時代だ。
今でははくのが常識と聞き、抵抗感を抑えつつなんとか選んだのが"おばちゃんパンツ"だった。
だが、マルグレットのそれは何だ。
つけていないよりもむしろ過激で挑発的ではないか……
今の異性交遊というのは、そんなに乱れたものなのか?
時代の変化とは、そういうものなのか?
様々な思いが、カミラの頭の中を乱れ飛んだ。
「マルグレットさん……その下着は……」
「ああ。これもご主人様に買っていただいたんです」
「それはマルグレットさんの趣味なんですよね」
「いえ。ご主人様にも確認していただきましたが……何か?」
マルグレットは不思議そうな顔をしている。質問の意図をはかりかねたようだ。
(か、「確認」ですって……見てもらったってこと……着ているところを?……)
カミラは驚きのあまり気が遠くなり、魂が抜け出る思いがした。
そこで、ルークスがアドバイスをしてくれた。
「主様も男の子ですからね」
「はあ……」
カミラは今一つ実感がわかない。
「10代男子の性欲を甘く見ると、いつか痛い目にあうかもしれませんよ」
「えっ! そ、そんなに凄いものなのですか?」
ルークスとマルグレットの2人を見ると、さも当然という顔をしている。
(そうか……私、色恋沙汰なんて皆無だったから……全く知らなかった……)
「でも、ルークスさんのも私ほどではないけれど、そんなに過激じゃありませんよね」
「ええ。でも、私は……状況によって使い分けていますから……」
(何っ! 状況によってだとぉ!)
「あのう……それって……具体的には……」
「さすがにそれは……女の口からは言えません」
「ええーっ! そんなぁ……」
結局、ルークスの最後の一言がとどめとなり、その夜は妄想のあまりほとんど寝付けなかったカミラであった。
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