第33話 お買い物デート(2)
ようやく目指す店舗に到着した。
時間としては、さほど長くはなかったが、少々気疲れした。
着いた先は、もちろん聖ロザリオ商会が経営する服飾店である。
大きな窓のショウウィンドウがあり、凝ったデザインの既製服がセンス良く展示され、購買意欲を誘っている。
現に、何人かの若い娘たちが熱心に見つめている。
「いらいしゃいませー」
扉を開けて入ると、若い女性の販売員が迎えてくれた。
彼女自身も、いかにも最先端といったデザインの服を着ており、宣伝に一役買っているようだ。
店の少し奥の方で、先輩販売員と思われる2人がルードヴィヒたちの方をチラッと見ながらひそひそ話をしている。
おそらく上客かどうか見定めているのだろう。
ルードヴィヒたちは、とんでもない美男美女のカップルではあるが、マルグレットが着ているのは、何の変哲もない庶民用のチュニックであり、ひやかし客に見えなくもない。
「何かお探しですか?」と若い販売員が声をかける。
「こん娘に似合いそうなめごい服が欲しいんだども……」
販売員は、この上ない美男子が発した田舎丸出しの方言に甚だしい違和感を覚えた。
それに意味も分からない。
(なんだ。ど田舎からのお上りさんか……なら適当に……)
「めごい……ですか?」
「可愛いちぅこった」
「ご予算はいかほどをご予定ですか?」
「ばぁか高ぇがんでも何でもいいすけ。よろしく頼まぁ」
(えっ! この人、今バカって言った? それって私のこと?)
販売員が戸惑う間に、マルグレットが言った。
「ご主人様。私は一番お安い物で十分ですので……」
「何言ってるがぁ。おらの身内になった以上、そうはいかねぇ」
「身内……ですか……」
マルグレットは、赤くなって俯いてしまった。
ルードヴィヒは"仲間"くらいの軽い気持ちで言ったのだが、彼女は"家族"といった重い意味と感じたようだ。
「それでは、お嬢様。どういったデザインがお好みですか?」
「私は……これでいいです」
……とマルグレットが指さしたのは、やはり一番安いものだった。
しかし、ルードヴィヒは、その前に彼女が視線を向けた先を見逃さなかった。
「これなんて、ええんでねぇけぇ?」
ルードヴィヒが選んだのは、ショウウィンドウのマネキンが着ているもので、いかにも高級そうな布地に、シンプルなデザインのワンピースだった。
シンプルなだけに体のラインが明瞭に出るため、着る人を選びそうな服でもある。
「さすがはお客様。お目が高い。この服は着る人を選ぶのですが、お嬢様ならきっとお似合いになりますよ。ご試着なさってみますか?」
マルグレットは、申し訳なさそうに、チラッとルードヴィヒの方を見た。
「おう。おらにも見してくれや」
「はい。承知いたしました」
販売員に案内され、マルグレットは、服を持って試着室に入っていった。
先輩店員たちのひそひそ話が聞こえる。
「あれはど田舎の豪農の放蕩息子が、妾の娘にきれいな衣装を着せて自慢しようとしているのよ」
「そうかもね~」
そこに販売員の統括者と思われる少し年配の女性がやってきた。
「あなたたち。何をしているの?」
「それが……」
視線の先には、この上ない美男子の姿が……
すると統括者の女性は、はっと何かに気づいた様子で尋ねた。
「あの方。シオンの町の方言をしゃべっていなかった?」
「シオンの町かどうかはわかりかねますが、酷く訛っておいででした」
それを聞くや否や。統括者の女性は、「あなたたち。店の総力をもって、あの方を接客なさい!」と言い残して、風のように店を出ていった。
「はあ?」
訳がわからなかったが、販売員たちは命令に従うしかなかった。
「服は一着でよろしいのですか?」
「そうだのぅ。一張羅っちぅ訳にもいかんがぁども、おらはファッションのセンスがねぇすけ、あん娘が気に入りそうながぁを何着か適当に見繕ってくれや」
「承知いたしました!」
販売員たちは一斉に動き出した。
統括者に言われた手前、高いだけの服ではなく、マルグレットに似合いそうな服をチョイスしていく。
彼女は美人であるうえ、プロポーションもなかなかのものなので、販売員としても、腕の見せ所と選びがいを感じていた。
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