表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/259

第30話 エルフの少女(1)

 この世界では奴隷制度が禁じられていない。

 奴隷は大きく言うと一般奴隷と職業奴隷に分けられる。


 一般奴隷は、簡単に言えば人間の家畜であり、強制的に労役(ろうえき)を課せられ、その成果は全て主人に属し、私有財産を持つことは許されない。そして家畜と同様に売買の対象となっていた。

 一般奴隷は、労役の供給に支障が出ない程度の最低限の衣食住が提供され、飼い殺しにされるのが普通だった。


 職業奴隷の代表は農奴である。

 農奴は、土地に縛られ、農業労働を強制させられ、小作農よりも(ひど)搾取(さくしゅ)されるが、私有財産の保有も認められ、農奴どうしであれば結婚して家庭を持つこともできた。

 この意味では、自由はないが、一般奴隷よりは、まだましな生活を(いとな)める。


 職業奴隷には、このほか軍務に従事させられる戦闘奴隷なども存在していた。

 エルフの少女は、薄絹を2枚ほど(まと)った姿だった。薄絹はとても薄いもので、2枚重ねても彼女がつけている下着が(かす)かに透けて見えている。

 これがバイヤーたちの男心をくすぐっていた。


 セラーと思われる男が、横柄な態度で(あご)をしゃくって合図を出すと、エルフの少女はゆっくりと薄絹を()いでいく。微かだった下着がよりはっきりと透けて見え、体のラインもよりくっきりと判別できるようになった。


 エルフだけにスレンダーな体型だが、出るところは出ている。そんなファッションモデルのような体型をしている。


「「おおーっ」」


 バイヤーたちの低いどよめきの声が会場を覆う。


「6万」

「7万」

「7万3千……」


 バイヤーたちの意欲は(あお)られ、競り値が更に吊り上がっていく。完全にセラーの作戦勝ちである。


 そして……。

 エルフの少女がもう一枚の薄絹を脱ぐと下着だけの姿となった。


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


 会場はバイヤーたちの熱気で包まれた。


「10万!」


「おおっ! ついに10万ターラー(1千万円相当)の大台に乗りましたぁ!

 さあ。いったいどこまで上がるのかぁ!」


 司会者も大声を上げて更に(あお)っていく。


「11万」

「13万……」


 ルードヴィヒは、この様子をじれったい気持ちで見据(みす)えていたが、もう我慢できない。

 下着姿でさらし者になっているエルフの少女を一刻も早くこの場から解放してあげたくなった。


「100万」


 場違いな若い少年の声が突然に響き渡ると、会場は一気に静けさに包まれた。バイヤーたちは皆が振り返り、驚きの目でその少年に注目している。


 それらの眼は語っていた。


(奴隷一人に100万ターラー(1億円相当)だと! 正気か!?)


 声の主は、もちろんルードヴィヒだった。


 これには、ルードヴィヒの横に控えてオークションの模様を見学していたロマンも驚いていた。


 数舜後、何とか気を取り直して小声で尋ねる。


「ローゼンクランツ卿。正気ですか?」

「ああ。(わり)ぃども、アース・ドラゴンの売却代金から引いといてくれねぇけぇ」


 ルードヴィヒは平然としており、質問の意図を理解していないようだ。


「それは構わないのですが……しかし、なぜいきなりあんな高額を?」

「おらぁあん()をこれ以上さらし者にしたくねかったすけ、一発で決まるだろう金額を提示したまでんがぁてぇ」


「それにしてもお金には使いどころというものがあるでしょう?」

「おらぁあん()を買ったが、(あわ)せてさらし者にされるだろう時間も買ったんだ。これを"使いどころと"言わずしてなんとやらだ。違うけぇ?」


「はあ……」


 ロマンは、"目立ちたいから"といった些末(さまつ)な理由を想像していた自分が恥ずかしくなった。


(しかし……時間を買うなんて……理屈としてはわからなくはないが……そんなお金の使い方って……)


 理解はしかねるが、ロマンは強い感銘を受けていた。



 そして、いよいよアース・ドラゴンがオークションに出される順番がきた。


 司会者が興奮した声で口上を述べる。


「さて、いよいよ最後の出品は、皆様お待ちかねのアース・ドラゴンです。外傷なし、鮮度は最高。文句なしの一品です!」


 が、会場は白けている。肝心のアース・ドラゴンがステージ上にないのだ。


(どこかから運び込もうとしているのか……?)


 バイヤーたちの誰もが疑問を抱いたとき……


「では、どうぞよろしくお願いいたします」


 司会者がそう言った次の瞬間、「ドシン」という鈍くて大きいな音を立てて、オークション会場のステージ上に巨大な生物が出現した。大きすぎて、尾がステージからはみ出ている。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 出現したアース・ドラゴンは、前口上どおり外傷はなく、ピカピカの状態であるが、なんといっても鮮度の良さが注目を()いた。

 魚などと同様に鮮度は目を見ればわかる。アース・ドラゴンの眼球には一切の濁りがなく、つい今しがたまで生きていたように見える。


 バイヤーたちは、このときのためにシンジケート団を結成し、手ぐすねを引いって待ち構えていたのだ。

 そこに期待以上の一品を見せつけられ、会場の熱気は一気に最高潮に達した。


「それでは、100万ターラーからのスタートです!」


「150万」

「160万……」


 そして……。

 結局、アース・ドラゴンは2,005万ターラー(20億5百万円相当)で()り落とされた。


 競り落としたのは、ホーエンシュタウフェン家を中心としたシンジケート団だった。


 売却代金から100万ターラーを差し引いた1,905万ターラーをルードヴィヒは聖ロザリオ商会に出資し、グンター夫妻には及ばないものの、一躍(いちやく)出資比率第3位に(おど)り出た。


 これにより聖ロザリオ商会は、ますますローゼンクランツ家に頭が上がらなくなった。

お読みいただきありがとうございます。


気に入っていただけましたら、ブックマークと評価・感想をお願いします!

皆様からの応援が執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ