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第25話 幽霊屋敷(2)

 ヴィートゥスが(あせ)り始めたとき、ヴィートゥスを更に深刻にさせるものが目に入った。


 少女の後ろの暗闇の中に、悪魔の姿が見える。

 背には漆黒の翼が生え、ぼさぼさの髪で、顔は吊り上がった目に、鉤鼻(かぎばな)、耳近くまで避けた口からは鋭い牙がのぞいている。手には長く伸びた鍵状(かぎじょう)の爪が生えていた。


 悪魔は、殺人と冒涜(ぼうとく)(つかさど)る悪魔バルベリトの眷属(けんぞく)であった。バルベリトは26の軍団を率いる序列28番の地獄の公爵である。


(少女に悪影響を与えているのはあの悪魔だ。まずは、奴からなんとかせねば……)


 ヴィートゥスは、飛来物を避けながら、何とか詠唱を試みる。


我は求め訴えたり(エロイムエッサイム)光の精霊よスピリトゥス・ルーチス。光をもって聖なる(いまし)めとなし、かの者を拘束(こうそく)せよ。契約のもとヴィートゥスが命ずる。聖縛(ホーリー・バインド)!」


 たちまち鎖状の光が悪魔を拘束するが、悪魔は余裕の表情である。悪魔がぐっと力を入れると、光の鎖は粉々に砕け散った。


 その余勢で悪魔はヴィートゥスめがけて突撃してくる。

 ヴィートゥスは必死に避けたが、悪魔が手を一閃すると、その爪がヴィートゥスの左腕を深くえぐった。


「ぐうっ!」


 あまりの激痛に、(うめ)き声があがる。


 もう一撃がきたら()られると直感したヴィートゥスは、簡易詠唱で魔法を放つ。


聖矢(ホーリー・アロー)!」


 簡易詠唱なので、威力は落ちるはずだが、悪魔は()けた。


 その(すき)にヴィートゥスは部屋の外に転がり出ると、一目散に逃げた。


 幸い悪魔も少女も追ってはこなかった。

 おそらく少女は地縛霊で、あの部屋からは出てこられないのだろう。悪魔も少女の(かたわ)らを離れることはしないようだ。




 翌日。

 ツェルター伯爵が所用でアウクトブルグの町に滞在していたため、ヴィートゥスは直接謝罪に行った。


「そうですか。あなたでも無理でしたか。困りましたな……」


 だが、その声に悲壮感は全くない。


(どういうことだ?)


 ヴィートゥスは、ツェルター伯爵の心境をはかりかねていた。


     ◆


「ディータ! これはいったいどういうことなの?」


 リーゼロッテは、(がら)にもなく激怒していた。


 その目の前には、大きさこそ大きいものの、廃墟と化した邸宅があった。

 こんな瑕疵(かし)物件を贈呈したとなれば、リーゼロッテの一生の恥である。


 ディータは答えに(きゅう)していた。実は、これは伯爵の指示によるものだったからだ。


 だが……。

「おらは、構わねぇども……」というルードヴィヒからの思わぬ一言がリーゼロッテを驚かせた。


「えっ! しかし、いくら何でも、そんなことは……」とリーゼロッテは当惑顔である。


「あんま立派過ぎる物をもらっても、かえって引け目に感じちまう。手入れをすればなんとか使えそうだし、おらには丁度いい感じだすけ、あちこたねぇ」


「あち……こた……?」

「大丈夫っちゅうことんがぁて!」


「はあ……」


 "引け目に感じる"とまで言われては、リーゼロッテも引き下がらざるを得ない。


「本当によろしいのでしょうか?」

「おぅ。構わねぇがぁて」


「わかりました……」

 ……と返事をしたものの、リーゼロッテ自身は納得できていない。


 一方、ルードヴィヒには思惑があった。


 彼は、この屋敷にかなりの高位の悪魔の存在を感じ取っていた。

 そして、この邸宅の贈呈行為には、ツェルター伯爵がその悪魔を使ってルードヴィヒの実力を試す狙いが込められていることを読み取ったのだ。


(そっちがその気なら、正面から受けて立とうじゃねぇか!)


 なんだかんだで、売られた喧嘩(けんか)躊躇ちゅうちょなく買うのがルードヴィヒの流儀だ。

 おおらかでゆったりとした性格の彼だが、こと戦いに関しては、バトルジャンキーなのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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