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第23話 命の恩人(2)

 マルクが考えあぐねていると、数日が()って、リーゼロッテ本人からの手紙がきた。

 ルードヴィヒに対する感謝の念が連綿と(つづ)られており、"ツェルター家として考え得る最高のお礼をして欲しい"と強く念押しされていた。


(あのおとなしくて控えめなリーゼロッテにここまで言わせるとは……さては()れたのか?)


 そう考えると、マルクは複雑な気持ちとなった。

 三男坊とはいえ子爵家の息子ならば家格的にあり得ない訳ではないし、娘が惚れた相手なら結婚させてやりたい気持ちもある。


 が、まだルードヴィヒという人物を知らなすぎる。

 生半可(なまはんか)な人物に娘は(とつ)がせられないからな……。


(まずは爵位だな。とりあえずは準男爵(バロネット)に推薦するとして、あとは……)


 マルクは、ふとあることを思いついて含み笑いをした。

 そして、不敵に(つぶや)いた。


「見せてもらおうか、ローゼンクランツの真の実力とやらを……」


 挿絵(By みてみん)


 ルードヴィヒがローゼンクランツ邸に帰ると上を下への大騒ぎとなっていた。


 出迎えてくれたハラリエルが()まりのない声で状況を説明する。


「ルードヴィヒ様ぁ。リーゼロッテ様がこの(やかた)に来るという先触れのお手紙が来たみたいで……なんだか大変なことになってますよぅ」

「そうけぇ……そんだども、こん騒ぎはいってぇ何ごとでぇ?」


 するとルードヴィヒの帰宅を察した執事(バトラー)が、緊張の(おもむき)で足早にやってきた。直ちに当主であるブルーノの部屋に通される。


 すると、ブルーノは険しい顔でルードヴィヒを詰問(きつもん)してくる。


「娘とはいえ直上の封建主君所縁(ゆかり)の者が我が家を訪ねるなど前代未聞だ。おまえ、リーゼロッテ様にいったい何をした?」


 どうやら何かを糾弾(きゅうだん)しに来ると思い込んでいるらしい。


「特に責められるようなことはしておりません」


 "命を助けた"などと言ったら自慢話になりそうで、言えなかった。


「では、一体何だというのだ!」


 ブルーノは、一段と声を荒げた。


「手紙には何も書いていなかったのでしょうか?」

「おまえにお礼に来るとは書いてあったが……」


「では、そのとおりなのでは?」

「バカ者! 貴族からの手紙を()に受ける奴がいるか!」


 確かに貴族は常に勢力拡大に(いそ)しんでおり、貴族同士の関係も往々にして(きつね)(たぬき)()かし合い的側面があることも否定はしないが……。


(こらぁまた過剰反応なんじゃあ?)


 ルードヴィヒは、言葉が返せなかった。何を言っても相手を(あお)るだけだと思ったからだ。


 翌日。

 ローゼンクランツ邸に謁見(えっけん)の間などはないので、一番豪華な大部屋の上座に一番豪華な椅子が据えられていた。


 ブルーノ以下ローゼンクランツ家の家族は緊張の極致に達し、リーゼロッテの到着を待っている。


 そこにディータにエスコートされてリーゼロッテが入室してきた。


 ローゼンクランツ家の者たちは、一斉に床に頭をつけて叩頭(こうとう)した。

 もともとエウロパ地方にお辞儀の習慣はないが、東方との文化交流が盛んになるにつれ、最高度の敬意を伝える礼儀作法として伝わっていた。だが、採用しているのは王族など極高位な者に限られている。


 馬鹿らしいとは思ったが、ルードヴィヒも仕方なく叩頭する。


 リーゼロッテは椅子に座る間もなく、その様子を見て仰天(ぎょうてん)した。


「皆さま。頭を上げてください。私はそのようなことをされる身分ではございません」


 それを聞いて一同はホッとして頭を上げ、立ち上がった。


 それを見てリーゼロッテは(ようや)く用意されていた椅子に座ると用件を切り出す。


「私がお邪魔させていただいたのは他でもありません。ルードヴィヒ様に命をお救いいただいた件のお礼です。

 まずは、父から大公閣下に準男爵(バロネット)への受爵を推薦させていただきました。それでは不足ですので、邸宅を贈呈させていただきます。

 受けたご恩に(かんが)みますと、これでも十分とは言い難いのですが、ひとまずはこれにてご寛恕(かんじょ)いただければ幸いです」


 一切の経緯を知らないブルーノたちは、呆気(あっけ)にとられてポカンとしている。言葉の一つも出てこない。


 仕方なくルードヴィヒが答える。


「この度は過分なご配慮をいただきありがとうございます。(つつし)んでお受けいたします」


 ルードヴィヒとしては、何も望んではいなかったのだが、相手は直上の封建主君の娘だ。断ればなにかと角が立つし、理由も思いつかなかった。


 素直に受けてくれて安心したのか、リーゼロッテは優雅に微笑(ほほえ)んだ。ブルーノたちはこれに魅了され、これが上級貴族の気品なのかと感銘(かんめい)を受けた様子だ。


「それでは、受爵の準備もできておりますので、公城まで馬車でお送りいたします」


 今度はルードヴィヒが驚く番だった。


(そこまで準備してたんけぇ。外堀は埋められていたっちぅことだぃのぅ)

お読みいただきありがとうございます。


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