第22話 再会(3) ~異父弟妹~
マリア・アマ―リアは、気を取り直して会話を再開した。
「私は、光と水のデュプルなんです」
「へえ。凄いじゃないか」
「お兄様も水の魔術が使えるのでしょう。お手本を見せていただけませんか?」
「う~ん。部屋の中では派手な魔術はできないから、簡単なものなら……」
「ええ。ぜひお願いします」
ルードヴィヒが、手を水平にかざすと、野球ボール大の水塊が空中に浮かび上がった。
「えっ! 無詠唱ですの!」
「ああ。この程度どうってことないさ」
水塊は蝶の形に変形すると、羽ばたきながら空中を飛んでいる。
作りも精巧で、まるで本物の蝶のようだ。
だが、それでは終わらない。
2匹、3匹……と増えていき、合計6匹の蝶が好き勝手に飛び交っている。それぞれに意思があるかのようだ。
あっけにとられてポカンと眺めていたマリア・アマ―リアは早速質問する。
「あれは生きている訳ではないのですよね?」
「当たり前じゃないか。さすがに生物を創造するのは無理だ。私が動かしているんだよ」
「こんな精密な魔力操作なんて……私にはとても無理ですわ」
「いやあ。練習すればできるようになるさ」
魔術が使えないツェーザルとマリア・アントーニアもこれには興味を持ったようだ。
ツェーザルは目を丸くして見ているし、マリア・アントーニアに至っては、水の蝶を夢中になって追いかけ始めた。
そこで、食事ができたということで、いったんお遊びは中断することにした。
「え~っ。もっと遊んでいたいのにぃ!」
マリア・アントーニアが不平を漏らす。
(子供っちぅか……末っ子だすけ、少し我がままなんろか……)
そして、前菜を食べたあと、給仕された料理を見てルードヴィヒは驚いた。
ゆでたジャガイモ、玉ねぎ、厚切りベーコンを炒めた料理、すなわちジャーマンポテトだったからだ。
「母上様。もしかして私のために?」
「ああ。あなたの好物だとは聞いていたけれど、私たちもお母様に送っていただいて、普段から食べているのよ。だから、気にしないで」
もしや自分のためにわざわざシオンの町から取り寄せたのかと思ったが、それは違ったようだ。
「しかし、このような下賎の食べ物など……」
「あら。あなたにそのようなことを言われるなんて意外ね。私はそんな迷信じみたことは信じていないわ。料理は何といっても栄養バランスが大切なのよ」
(おぉ。さすがは婆さの娘っちぅことか……)
「それについては、私も全面的に肯定いたします」
そのまま和気あいあいと食事を終わり、また魔法を見たいとマリア・アントーニアにせがまれた。
今度は、趣向を変えて、精霊を召喚してみることにした。
ルードヴィヒが指で空中に五芒星を描き、これを円で囲むと、魔法陣として光り出し、そこから掌サイズの人型の精霊が出現した。
儚げな美人で、髪の色は青色をしており、背中には蝶のような形をした羽が生えているが、トンボのように透明である。
「皆さんこんにちは。ウンディーネのアクアです」
マリア・アマ―リアは驚きを通り越して、呆れ果てていた。
(魔法陣は使ったけれど、また無詠唱……しかも、今度は精霊召喚なんて……)
「この精霊さんはお兄様の守護精霊ですか?」
「まあ、いちおうね」
「では精霊の加護を受けていらっしゃるのですね」
「もちろんだとも」
「まさか他の精霊さんたちとも?」
「はっはっはっ……」
(なんか墓穴を掘っちまったのぅ)
ルードヴィヒは笑ってごまかしたが、否定しないということは黙示の肯定にほかならない。
これを見ていたマリア・クリスティーナの驚きは、さほどでもなかった。
ルードヴィヒの背中のあれを見たときから、こうなることは容易に想像できた。だが、実際に目にしてしまうと、若干の危機感をいだいてしまう。
(あまりに強い力を持つのも、吉と出るか凶とでるか考えものね。なんとか本人がうまく立ち回って欲しいところだけれど……私は、力の及ぶ限りこの子を応援するしかないのだわ)
そんなやりとりをよそに、マリア・アントーニアは水の精霊アクアと夢中になって鬼ごっこをしている。
ツェーザルは、それを羨ましそうに眺めていた。
「私にも守護契約ができないかしら……」
マリア・アマ―リアは、誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。
ルードヴィヒは聞いてみる。
「青い光が君に寄ってきているのを見たことはあるかい」
「見えるというか、暗い部屋の中でなら感じたことはありますわ」
「ということは、君にはなにがしかの精霊視の能力はあるわけだ。青い光は水の精霊で君に好意をもって寄ってきているわけだから、仲良くなれたら守護精霊になってくれるかもしれない」
「本当ですか!」
マリア・アマ―リアの表情がパッと明るくなった。
「でも精霊さんとお話もできませんし、どうやって仲良くなれば……」
「実は下級精霊は、明確な自我を持っていない。人と守護契約を結ぶことで、初めて明確な自我が確立するから、会話ができるのはそれからだね。それまでは行動で示すしかないかな」
「そうなのですね……では、仲良くなれたら守護契約のやり方を教えていただけますか?」
「もちろんだとも」
その日一日は和やかに過ごし、夕食後になって帰ることにしたが、家族が門まで見送りに来てくれたのには感動した。
15年という短い生涯ではあるが、生涯で最高に幸せな時間だと心から思った。
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