第22話 再会(2) ~異父弟妹~
マリア・クリスティーナは、大公フリードリヒⅡ世の愛妾になると直ぐに懐妊した。そして生まれたのがマリア・アマ―リアだ。
マリア・アマ―リアには母親と同様に胸に10センチほどの大きさの竜の紋章があった。大公は生まれた子に竜の紋章があると聞いて大層喜んだが、女児と聞いて、肩を落とした。
(庶子といえども、男児であれば間違いなく後継ぎにできただろうに…)
彼女は光と水の魔術の才能を持ったデュプルで、殊に水魔術を得意とした。
1歳年上の大公の嫡出子で、異母姉のコンスタンツェは火の魔術が得意で、"赤の魔女"と呼ばれていたこととの対比で、マリア・アマ―リアは"青の魔女"と呼ばれている。
マリア・アマ―リアの人懐こさもあって、母どうしの確執をよそに、二人は大の仲良しだった。
それに構わず、彼女らの周辺は大公の跡目争いを見据えて動き始めていた。
というのも、コンスタンツェ以外の嫡出子はそろってできがあまり芳しくなかったからである。
また、その後に大公とマリア・クリスティーナの間に生まれたツェーザルとマリア・アントーニアには竜の紋章がなかった。
マリア・クリスティーナは、子供たちに挨拶を促す。
「さあ、あなたたち。お兄様に挨拶しなさい」
「はい。では、私から……」
マリア・アマ―リアは元気な声で返事をした。
彼女は、優雅に左足を斜め後ろの内側に引き、もう右足の足の膝を軽く曲げ、両手でスカートの裾を軽く持ち上げてカーテシーをした。なかなか様になっている。
「初めまして。お兄様。マリア・アマ―リアです。つい先日、お母様にお兄様がいると聞かされて驚いていたところなんです。
実は私、ずっとお兄様が欲しかったの。それがこんなにカッコ良くて素敵なお兄様なんて夢のようですわ」
マリア・アマ―リアは、そう言いながら両手で手を握ってくる。妹とはいえ、こんなに熱烈に手を握られて嬉しく思った。
そんなマリア・アマーリアの目はキラキラと光っている。
(なじょせぇば、すっけなキラキラ効果が出せるがぁろか?)
ルードヴィヒは、こればかりは自分が逆立ちしても、一生かなわないと思った。
「ありがとう。これからよろしく頼むよ。マリア・アマーリアさん」
「はい。お兄様……でも、お兄様も水臭いですわ。私のことはアマーリアと呼び捨てになさってください」
「わかったよ。アマーリアさん」
マリア・アマ―リアは一瞬眉を寄せたが、すぐに満面の笑みを浮かべている。
どうやら"さん"付けが他人行儀と思ったようだ。
だが、ルードヴィヒは、本来の優しい性格もあって、ごく親しい者を除いて、呼び捨てに慣れていない。半分血がつながった弟妹とはいえ、会ったその日のうちにというのも、ルードヴィヒには荷が重かった。
続いて、弟のツェーザルの番なのだが……
マリア・クリスティーナの後ろに隠れて、片目だけみせてこちらを窺っている。
「ツェーザル。あなたの番よ」
マリア・クリスティーナに促されて、ようやくルードヴィヒの前におどおどしながら進み出てきた。
緊張しているようなので、ルードヴィヒは軽く微笑んでみせた。
「は、初めまして。僕、ツェーザルです……」
「これからよろしくな。ツェーザル君」
ルードヴィヒは、ツェーザルと握手をしたが、ツェーザルは手を引っ込めそうになっていた。
それが終わると、またマリア・クリスティーナの後ろに隠れてしまった。
(おら、そんなに怖えろぅか?)
最後にマリア・アントーニアだ。
スタスタとルードヴィヒの前に進み出てくる。まだ、レディの優雅さはあまり感じられない。
「初めまして。お兄様。マリア・アントーニアです」
「はい。初めまして。よろしくね。アントーニアさん」
ルードヴィヒは、にっこりと微笑んでみせた。
が、特に反応はなく、またスタスタと戻ってしまった。
急に兄などと言われても、実感が湧いていないのかもしれない。しゃべりも棒読みっぽかったし、母に言われたから義務的にやったという感じが透けて見える。
(おそらく嫌われたわけじゃねぇと思うが……たぶん、喜ぶふりも下手くそな……まだ子供なんだろぅか……)
(子供といえども、それぞれに個性があるのだな)と感慨に耽っているとマリア・クリスティーナが言った。
「挨拶も終わったことだし、少し早いけれど昼食にしましょう」
メイドたちが慌ただしく動き出し、ルードヴィヒたちはダイニングルームへと移動した。
食事が給仕されるまでの間、祖父母の消息などを話題に会話をしていると、ふと魔術が話題となった。
マリア・アマーリアが興味津々で質問する。
「そういえば、お兄様は魔法が得意と聞きましたが?」
「いやあ。それほどでもないさ。お婆様に比べればまだまだだ」
「属性は何が使えますの?」
ルードヴィヒは、迷ったが、正直に答えることにした。
「6つだ」
「えっ! 凄い。幻の大賢者といわれるお婆様でも5つのクインクだというのに、シクストなんて……」
顔には出さなかったが、マリア・クリスティーナは、娘以上に驚いていた。
(6つということは、光と闇の両者が使えるということ? そんな話は聞いたことがないし、第一、完全な対局関係にある属性が一人の人間の中で共存することなど、理論的にあり得ないのでは?)
「アマーリア。このことは他人には決して口外してはダメよ」
「それもそうですね。話してしまった私が迂闊でした」とルードヴィヒは、反省の意を示す。
少し考え込んでいたマリア・アマ―リアだったが、ハッと思い当たったようだ。
闇の魔術は教会に禁忌とされており、これが教会に知れたら、異端認定されてしまう。そうなったら一生の破滅だ。
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