第20話 呪いの黒魔術(2)
「そんだば通してもらうぜ」
ルードヴィヒは、ガックリと膝をついているオトカルの横を悠々と通り過ぎ、更に屋敷の奥へと進んでいく。
そして、ルードヴィヒが背を向けたとき、オトカルはニヤリと口角を上げた
「このお人好しめ! 油断したな」
が、オトカルが斬撃を放つべく、上段に剣を構えるのと、彼の額を岩塊が襲ったのは同時だった。
「ガキッ!」
オトカルは岩塊の直撃を受け、失神して、そのままバタリと倒れた。
「こいつ……後ろに目でもついているのか……」
戦いに注目していたならず者が思わず呟いた。
「あんだけ殺気をダダ洩れにしとったら、"攻撃してください"と言っとるようなもんでねぇけぇ」
ならず者たちは、その言葉にあきれ、恐れおののいた。
ようやく一番奥の豪華そうな部屋にたどり着いた。
おそらくここが親玉の部屋だろう。
ルードヴィヒは、扉を蹴破った。
中には驚きに目を見開く中年男の姿があった。
豪華なソファーに座り、両脇に美女を侍らせて、肩を抱いている。でっぷりと太っており、頭の髪は薄くバーコード状になっている。
(悪どく儲けた金で贅沢三昧ってとこか……そんだどもに、こっけん奴が親玉たぁ……しらけたのぅ……)
横に控えていた2名の護衛が、短刀を抜いて構えている。
「おい殺ってしまえ!」
2名の護衛が同時に突進してくるが、ルードヴィヒが左右の剣を一閃させると、あっけなくバタリと倒れた。いちおう峰打ちなので死んではいないはずだ。
それを見ていた美女2人は「キャーッ」という悲鳴を上げながら逃げていったが、それはスルーする。
「てめぇが血の兄弟団の団長けぇ?」
「だったらどうだというのだ?」
「てめぇの配下にぁ世話んなったすけ、お礼参りっちぅやつに来てやったがぁぜ」
「そ、それはすまなかった。詫びなら何でもする。金か? 金ならいくらでもやるから……」
「んにゃ。すっけんもん、いらねぇ」
そう言うとルードヴィヒは、剣を一閃させた。
「ひえっ!」
団長の上衣が切り裂かれ、ぶよぶよと太って毛むくじゃらの胸と腹が露になった。
「いったい何をしようというのだ?」
ルードヴィヒは、それには答えず、黒魔術を詠唱した。
「我は求め訴えたり。闇の精霊よ。この者が善行から外れたらば、相応の苦痛を心臓に与えよ。契約のもとルードヴィヒが命ずる。闇の呪い!」
ルードヴィヒは、あえて詠唱を聞かせることにより、恐怖をあおった。
すると、団長の心臓の真上に、髑髏の形をした漆黒の痣が浮かび上がった。
ルードヴィヒは、淡々と団長に通告する。
「てめぇに黒魔術の呪いをかけた。もしてめぇや部下たちが善行に外れることをやったら、てめぇの心臓に苦痛を与える。それは積もり積もってやがててめぇの命を奪うだろう」
「わ、わかった。わしトルステン・ヴァイスマンは、神に誓って悪事は働かねえ」
「せいぜい善行に励んで生き永らえるこったな」
「くそっ……なんてことだ……」
弱々しくそう言うなり、トルステンは言葉を失った。
「ほれっ。帰るがぁぜ」
ルードヴィヒとルークスは、そのまま悠々と血の兄弟団の館を後にした。
ならず者たちは、その姿を呆気にとられて見ているしかなかった。
その足で、三毛猫亭へと戻る。
三毛猫亭では、皆が入り口で突っ立ったまま心配げに待っていた。
ルードヴィヒの姿を確認したゲルダは、彼に駆け寄ると抱きついた。
「もう。ルードヴィヒお兄ちゃん。心配したんだからぁ」
「そらぁ悪ぃかったのぅ」
「うふっ」
呑気にそう答えるルードヴィヒの姿を見てゲルダは笑いがこみあげてきた。
「それで、どうなったのですか?」
ヤスミーネが深刻そうな表情で尋ねた。
「いちおう話はつけてきたすけ、もうお礼参りにぁこねぇんじゃねぇかのぅ」
「本当ですか?」
「おぅ。たぶん……」
(あの血の兄弟団と話をつけた? 本当かしら?)
◆
ルードヴィヒが去った後。
部下たちは血の兄弟団の団長室の様子を恐る恐るうかがった。
が、団長はピンピンしている……
「よかった。団長。無事だったんですね」
「ああ。所詮は小僧だからな。俺が叱り飛ばしてやったら、恐れをなして逃げていきおった」
「さすがは団長」
だが、トルステンの目は泳いでいたことに、部下たちは誰も気づいていなかった。
最初は半信半疑だった。
黒魔術の呪文が正しいかどうかなど、誰もわからない。
しかし、その日の夜。
トルステンは心臓に激しい痛みを覚え、悶え苦しんだ。
(まずい。これは本物だ)
そして、翌日から態度が豹変し、次々と善行を命じるトルステンの姿に、血の兄弟団の部下たちは当惑したのだった。
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