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第20話 呪いの黒魔術(1)

 闇の魔術は黒魔術とも呼ばれ、教会から禁忌(きんき)のものとされていた。このため、闇の魔術書(グリモワール)というものは公式には流通していない。

 しかしながら、禁忌と知りながらも闇の魔術に(ひそ)かに(あこが)れ、悪魔などを(たてまつ)り、その強力な力を手に入れようとする者も少なからず存在していた。このような者たちは、闇市場に出回る(あや)しげな魔術書(グリモワール)を必死に(あさ)っていた。


 悪魔に魅入られた女性は、土曜の夜に開かれるサバトに参加し、悪魔と乱交してその身を(けが)される。

 彼女たちは、片手を額に、片手を(かかと)につけて誓いの言葉を述べる。


「私は(なんじ)に私の両手の間にある一切(いっさい)のものを与える」


 こうして彼女らは魔女となり、悪魔に一生使えることを誓い、十字架を踏みにじり、教会を否認し、契約の印として自分の髪、爪、血などを悪魔にささげる。

 そして、悪魔の下で魔術を学び、毒薬、飛行薬、使い魔を与えられた。


 一方、ルードヴィヒはというと、冥界のアンデッドなどの住人たちから闇の魔術を伝授されていたところだった。

 血の兄弟団の拠点の屋敷は、ずいぶんと豪勢な屋敷だった。


(悪でぇことして、相当(もう)けてやがるんが……)


 ルードヴィヒたちに気づいた門番が(あわ)ててこちらにすっ飛んできた。


「おい。ジェラルド。どういうことだ?」

「こいつらにやられたんだ。しめてやってくれ。頼む」


 それを聞いた門番は、いったん屋敷に戻ると、応援を引き連れて引き返してきた。


「俺たちの血の(きずな)を甘く見たな。目に物を見せてやるから、覚悟しやがれ!」


 ならず者たちが20人ばかり、ルードヴィヒとルークスめがけて殺到する。


(だんだん面倒(めんど)っちくなってきたのぅ……)


 ルードヴィヒは岩塊(ロックバレット)の魔法を6発同時発動した。

 飛んでいった岩塊はことごとくならず者たちの頭を直撃し、一瞬で意識を失わせた。手加減はしているので、死んではいないだろう。


 これを機械作業のように数回繰り返すと、ならず者たちはあっさりと制圧された。


 ルードヴィヒはルークスを引き連れて、そのままスタスタと屋敷に入っていった。


 屋敷にいたならず者たちに次々と誰何(すいか)される。


「誰だ! てめえは?」

「ねらの親玉に用事がある。案内しれや」


「けっ。何をバカなことを……」


 ならず者たちが殴りかかってくるが、ルードヴィヒとルークスの敵ではない。

 2人に殴られた顔面は陥没(かんぼつ)し、顔は血にまみれている。


「くそっ。こいつら(つえ)え。おい。先生を呼んでこい」


 下っ()と思われるならず者が屋敷の奥に走っていった。


 ならず者たちを倒しながら進むと、しばらくして冒険者らしき男が行く手に見えた。


 身長は高いが()せており、どす黒い顔色をしている。

 背には異常な長さの長剣を背負っていた。


「グヴィナー先生がきたからには、おめえらも年貢の納め時だ!」


 ならず者がしたり顔で言った。


「グヴィナー先生?」

「おめえ、まさかAランク冒険者のオトカル・グヴィナーの名前を知らねえのか?」


「知らねぇで(わり)かったのぅ。おら在郷(ざいご)っぺ(田舎者(いなかもの))だすけ」

「へっ。身の程知らずが。絶対に後悔するぜ」


「そうなんけぇ?」


 オトカルはアウクトブルグの町でも腕の立つ冒険者であり、その実力はSランクに匹敵すると(うわさ)されていた。普段の素行が悪いため、Aランク止まりとなっていたのだ。


 オトカルは進み出ると、長い剣を抜剣して構えた。

 左下段という独特な構えだ。


(リリエンタール一刀流じゃぁなさそうだのぅ……)


「俺の秘剣"つばめ返し"を受けて生きていた者はいない。悪く思うなよ。小僧」


 オトカルは、静かだが威厳のある声で言った。


「そんだば、おらが1人目だのぅ」


 平然と言ってのけるルードヴィヒを見て、オトカルの頬がピクリと反応した。


 ルードヴィヒは、背負っている双剣を抜剣して構えた。


「ローゼンクランツ双剣流か?」

「ほうだども、(なん)でぇ?」


 相手が帝国最強・最難の剣術の使い手ということで、オトカルは警戒度を一段階引き上げた。


(だが、鑑定してみれば、所詮はレベル20の小僧ではないか……)


 ルードヴィヒは、従兄(いとこ)のグスタフに配慮してフェイクのレベルを20に修正していた。オトカルは、それを知る(よし)もない。

 オトカルのレベルは50を超えていた。


 最初に動いたのはオトカルだった。


 左下段に構えていた剣を右上に切り上げると、瞬間的に剣を返し、逆に右上から左下に袈裟懸(けさが)けに切りつける。


 ルードヴィヒは、切り上げた斬撃(ざんげき)は体を()わして()け、袈裟懸けの斬撃は左手の剣で受け流した。


 必殺技をいとも簡単にかわされ、オトカルは驚愕して目を見開いている。


「なんでぇ。(なん)かと思えばただの(はやぶさ)切りでねぇけぇ。ちっとばかし変則的なだけだもぅさ」


「くそったれ!」


 それを聞いたオトカルは怒り、今度は右上段から切りつけてきた。


 ルードヴィヒは、それを左の剣で大きく受け流すと、オトカルの体勢が崩れた。すかさず(ふところ)に飛び込み、オトカルの首筋に右の剣を突き付ける。剣は首の皮を傷つけ、血が(にじ)んでいる。


「まいった……」


 オトカルは苦渋の表情でそう言った。

お読みいただきありがとうございます。


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