第19話 血の兄弟団(2)
が、問題のあるものが若干一名……
ハラリエルが逃げ遅れ、ジェラルドに捕まってしまった。
「ひえっ! ルードヴィヒ様ぁ。助けてーっ!」
ジェラルドは、ハラリエルを後ろから羽交い締めにしながらルードヴィヒに警告する。
「おいっ! 女男。抵抗をやめろ! こいつの命が惜しくねえのか!」
ルードヴィヒは、手を止め、ハラリエルをジト目で一瞥したが、それも一瞬のことだった。再び戦闘を続ける。
「そ、そんなあ~っ。私を見捨てるんですかぁ」
ジェラルドは、それを見てムカついた。
「けっ。そうきたか……なら自業自得ってやつだ。死ねえぇぇぇっ!」
ジェラルドはハラリエルの胸に短刀を突き立てる。
……と見えたとき、ハラリエルの姿がかき消えた。
空振りとなった短刀はジェラルドの胸に突き刺さり、自傷する結果となった。これこそ自業自得である。
ハラリエルはといえば、本来の霊的な存在に戻っただけだった。
『そうでしたぁ。私、天使なのを忘れてましたぁ』
天使にとって、肉体は仮初のものである。本来の霊体が傷つけられない限り、その存在を害することはできない。
現実世界の人間はそのようなことはできないから、ルードヴィヒが無視したのも当然だったのである。
ハラリエルは、調子にのった。
現実世界の人間は天使に干渉できない一方、天使の方は現実世界に干渉できるスキルを持っていたからだ。
ハラリエルは、空中を飛び回るとならず者たちの頭を次々と蹴り飛ばしていき、ならず者たちは前につんのめった。
見えない存在に蹴り飛ばされ、ならず者たちは困惑している。
「おい。そこの色男。頑張れ!」
いつの間にか集まって来ていた野次馬たちがルードヴィヒに声援を送っている。
程なくして、ならず者たちは制圧された。
皆が倒れこみ、もがき苦しんでいる。
その姿を見て、ヤスミーネが不安そうに言った。
「こんなに派手にやってしまって……奴らは蛇のようにしつこいから、またお礼参りに来ますよ」
「そうなんけぇ……」
そんな泥仕合には付き合い切れないし、付き合う義理もない。ルードヴィヒは決断した。
「そんだば、こいつらの親玉をとっちめるだけでぇ」
「そんな……いくらなんでもそれは無理よ」とヤスミーネは心配顔で諫めるが……
「ルークス。手伝ってくれ」
ルードヴィヒは、ストレージから縄を取り出すと、ならず者たちを後ろ手に縛り、首にも縄をかけ、数珠繋ぎにしていく。引っ張られると首が締まる、いわゆる盗賊縛りだ。
ならず者たちが取り落とした短刀を拾うと、ジェラルドの頬をその腹でヒタヒタと叩きながら言った。
「てめぇらの親玉のところに案内しれや」
ジェラルドは震えあがった。
「そんなことをしたら、俺たちは殺されちまう……」
「そうけぇ。そんだば、今この場で死ねや!」
そう言うと、ルードヴィヒは、短刀を一閃させた。ジェラルドは恐怖に目をつぶる。
(まだ、命はある……)
そう思ってひと安心したとき、ジェラルドの頬は傷つけられ、血がタラタラと流れ出していた。が、痛みに構っている事態ではない。
(奴は本気だ。このまま抵抗すれば次は殺られる。ならば団長の温情にすがる方が、まだしも一縷の望みがある……)
ジェラルドは観念した。
「わ、わかった。案内する……」
悲愴な声でジェラルドが言った。
「そんじゃあ悪ぃが、ルークス。一緒に来てくれや」
「承知しました。主様」
「ゲルダとハラリエルは、ここで待っててくれるろぅ?」
「はい。わかりましたぁ」
ヤスミーネとヘルミーネ姉妹は、深刻な表情でルードヴィヒとルークスを見送った。
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