第19話 血の兄弟団(1)
アウクトブルグほどの都会になると闇の側面もある。
町のならず者たちは徒党を組み、暴力あるいは暴力的脅迫によって私的利益の追求に走っていた。
彼らはみかじめ料の徴収、不良債権化した借金の強引な回収、麻薬密売、賭博、娼館の用心棒や管理売春などの反社会的行為を行っていた。
いくつかある集団の中で最大の団体が"血の兄弟団"である。
その名のとおり、入団時に提出する誓約書は自らの血をインク代わりに書いているという。入団条件は組織の害になる人間を殺すことという物騒な集団だった。
彼らの相互結束は非常に硬く、受けた恩義は体を張ってでも返すという自己犠牲の精神も持ち合わせていた。
この限りでは、"任侠"と通じる面もあるが、仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を助けることを旨とする"任侠"とは根本的な目標が異なっており、似て非なる存在だった。
そして、そこにはジェラルドの姿があった。
その後ろには、仲間と思われる人相の悪い屈強な男たちが20人ばかり……
「おい女男! いるんだろう。ジェラルド様が昨日の借りを返しに来てやったぞ」
……と大声でがなり立てた。
(……ったく、人数の問題じゃねぇんだがのぅ……)
ルードヴィヒは、ジェラルドの前に静かに進み出る。
大勢を目の前にしても泰然としているルードヴィヒの姿を見て、ジェラルドは戸惑った。
(この大胆不敵さはどういうことだ? 本当にただの世間知らずな坊ちゃまなのか?)
ジェラルドの頭を嫌な予感が過った。
しかし、仲間まで連れて来てしまった以上、今更引き下がることはできない。
「借りは必ず返すのが血の兄弟団の鉄の掟だ。覚悟しやがれ!」
「"血の兄弟団"? 何でぇそらぁ?」
「てめえ! 血の兄弟団を知らねえのか」
(やはり、あの方言からして、都会の仕来りを知らねえ田舎者だな。これは、しめておく必要があるな……)
「それじゃあ。兄貴。お願えしやす」
「おう」と横柄に答えた男が進み出た。
ジェラルドより更に体格が良い。身長2mはあるだろう。頬にある刀傷が歴戦のつわものを思わせる。
そして短刀を手にしている。日本のやくざ風に言えば"ドス"といったところか。町中で振り回すのなら、確かに長剣よりも短刀が使いやすい。
後で知ったことだが、やつらがステゴロ(素手の喧嘩)をすることは滅多にないらしい。
「素人の火遊びは危険ながぁよ。怪我しても知らんがぁぜ」
「「「はっはっはっ……」」」
ルードヴィヒその言い草に、ならず者どもは思わず失笑した。
「誰が素人だ! そんなはったりは通用しねえ!」
兄貴と呼ばれた男は癪に障ったようだ。
短刀を抜くと、それを腰の位置に構え、体ごと突進してくる。
(素人にしちぁ、堅実な戦い方だのぅ)
ルードヴィヒは妙なところで感心した。それだけ余裕があるということだ。
ルードヴィヒは、すかさず闘気を込めたパンチを相手のみぞおちに繰り出した。闘気はみぞおちの内側にある胃周辺の内臓に直接衝撃を与える。
「ぐあぁぁっ!」
みぞおちは人体の急所の一つである。あまりの痛みに叫び声をあげた男は、衝撃で胃の内容物を嘔吐すると、体をくの字に曲げて倒れ込んだ。みぞおちを抑えながら苦しんでおり、顔には脂汗が滲んでいる。
兄貴分をやられたジェラルドは困惑したが、気を取り直して叫ぶ。
「おめえら。 殺っちまえ!」
それを合図に、ならず者たちはいっせいにルードヴィヒに襲いかかる。
短刀を構えると、次々とルードヴィヒを攻撃するが、ルードヴィヒはこれを余裕でかわし、確実に急所へとカウンターのパンチや蹴りを繰り出していく。
「ぐあぁっ!、オゥッ!……」
反撃を受けたならず者たちは、叫び声をあげると次々と倒れ、もがき苦しんでいる。
「くそっ! あの女どもを人質にとるんだ!」
ジェラルドがそう命じると、ならず者の何人かが心配そうに眺めていた女子たちの方に向かった。女子たちの顔が恐怖に染まる。
が、一歩進み出ていたルークスの繰り出したパンチがならず者の鼻を直撃した。
「ぐあぁぁっ!」
攻撃を受けた男は苦痛に悲鳴を上げた。鼻の骨が折れて陥没し、血が滴り落ちている。
その隙に、他の女子たちはその場から必死に逃げだす。
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