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第17話 居酒屋 三毛猫亭(2)

「なぁ。見れや。肉を売ってる店があるがぁぜ」

「それは都会の人も肉を食べますから」

 ……とルークスが答えた。


「確かに、近くに森がねぇと、魔獣や獣は狩れねえんが……」


 シオンの町では、肉は森で魔獣や獣を狩って得るか、家畜を(つぶ)すかして得ており、これが難しい者は物々交換で得ていた。このため肉屋というものがなかった。

 農産物も同様な状況だ。


 固定店舗であるものと言えば、パン屋くらいのものだ。

 これ以外の衣料品などは遍歴(へんれき)商人が売りに来ていた。


「意外に種類が少ねぇのぅ……」

 ……と八百屋の品揃(しなぞろ)えを興味深そうに眺めていたルードヴィヒは、ハッと気づくと、店員に問う。


「ジャガイモがねぇようだども?」


「なんだいそれは? 芋っていうからには、地中にできるのか?」

「あたりめぇでねぇけぇ」


「そんな下賎(げせん)な食い物はうちには置いてないよ」

「ふ~ん」


 ヴァレール城では、食物の貴賤に関係なく、栄養を考えた食事が提供されており、ジャガイモはルードヴィヒの好物の一つだった。


 ルードヴィヒのストレージにはジャガイモも大量に保管されていた。だが、使い続ければ、それもいつか尽きる。


(まあ、そうなったらなったで、転移魔法でシオンの町へ取りに行けばええだけんこった……)


 そうこうしているうちに、昼時をかなり過ぎてしまった。


「ルードヴィヒ様ぁ。お腹がすきましたぁ」


 ハラリエルが情けない声で訴えた。


「わかったすけ。情けない声出すんでねぇ」


 そもそも天使というものは食事をとらない。

 その反動からか、ハラリエルは実体化して以降、食事というものに目覚めてしまった。

 しかも、リーゼロッテとともに旅をしている間、高級な食事にありついていたため、変に舌も肥えてしまっていた。


 この世界での外食屋といえば、居酒屋兼食堂が一般的である。


 メインストリートにある食堂を探してみるが、どこも長蛇の列となっていた。


「なじょうするかや? (なら)んでみるけぇ?」

「え~っ! もう我慢できませんよぅ」

 ……と、再び情けない声をあげるハラリエル。


 メインストリートから(はず)れた道を探して、ようやく列のできてない店を発見した。

 "三毛猫亭"という看板が出ていて、トレードマークの三毛猫の絵が書いてある。


     挿絵(By みてみん)


「ここでええけぇ?」

「すぐに食べられるなら、どこでもいいですぅ」


 必死なハラリエルの姿を見て、ルークスとゲルダは顔を合わせて苦笑した。


「いらっしゃいませー」


 店に入るとルードヴィヒと同じ年頃の可愛らしい猫耳族の女の子が元気な声で迎えてくれた。


「なんかお(すす)めはあるけぇ?」


 席に案内されると早速聞いてみる。

 ハラリエルを見ていると鬱陶(うっとう)しくて、メニューを見ている時間も惜しい。


「牛テールスープのセットがお勧めです」

「そんだば、それを4人前頼むっちゃ」


「毎度、ありがとうございます!」


(おぅ。こらぁ元気なこったのぅ……)


 少女は厨房カウンターに向かうと「お姉ちゃん。セット4つ」と元気な声でオーダーを伝えた。これまた元気な声で「はいよ」と返事が返ってくる。


 料理が来る間に、店を観察してみる。


 少女はなかなかに愛らしく、その頭には猫耳があり長い尻尾(しっぽ)も生えていた。

 両方とも三毛猫柄だ。


(へぇ。三毛猫柄の猫耳族けぇ。それで三毛猫亭っちぅこったな)


 店舗はあまり広くなく20席程度だが、周りの繁盛に比べて席の半分も埋まっていない。


(こらぁ料理にぁあんま期待しねぇ方がええようだのぅ……)


「お待ちどうさま」


 猫耳族の少女が料理を運んで来た。見かけは、それほど悪くない感じだ。


「わ~い。いっただっきま~っす」


 早速、ハラリエルはがっついて食べる。

 が、"ガリッ"という音がしかたと思うと、ハラリエルが情けない顔をして「ルードヴィヒ様ぁ」と言ってきた。どうやら牛テールの煮込み方が足りないようだ。


 ルードヴィヒも食べてみる。


「おお。こらぁ相当な歯ごたえだのぅ」


「そんなこと言えるレベルじゃないですよぅ」

 ……と少女に聞かれないよう、ハラリエルは小声で(ささや)く。


 その時、店の扉がバタンと乱暴に開かれると、人相が悪い3人組の男が入ってきた。

 先頭を行くマッチョな男がリーダーらしく、これに()せぎすな男とふとっちょな男が続く。


「ヤスミーネ! 出てこい。ジェラルド様のお出ましだぞ」


 一転して、店の中は緊張した雰囲気に包まれた。

お読みいただきありがとうございます。


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