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第16話 ローゼンクランツ邸 at アウクトブルグ(2)

 リーゼロッテたちと別れたあと、グンターからもらった地図を頼りにして、ルードヴィヒは、アウクトブルグのローゼンクランツ邸にたどり着いた。


 彼は第一声、こう言った。


「おおっ! えっれぇ豪儀(ごうぎ)だもぅさ」


 事実、ローゼンクランツ邸は、場所こそ上位貴族街から離れてはいるものの、敷地面積は広大で、それを高い塀が囲っており、ちょっとした要塞(ようさい)のようにも見える。


 というのも、弟子たちが修行するための屋内外の武闘場や住み込みで修行を積む内弟子たちが住まう宿舎まで完備しているからだ。


 門には、20歳前後とみられる内弟子の男が2名立っていた。もちろん、その背には双剣を背負っている。


 ルードヴィヒは、彼らに話しかけた。


「すまねぇども、ブルーノのおっちゃん……でなくて、親父(おやじ)にルードヴィヒが来たって、伝えてくんねぇろか」


 門番の態度は、()()なかった。


「ルードヴィヒ? 知らないな。おまえ聞いてるか?」

「いや」


 門番の一人が、いちおうということで、建物の中に知らせに入っていった。


「なんだか冷たくないですかぁ」


 ハラリエルが小声で(ささや)いた。


「父なし子の甥っ子の扱いなんて、こっけんもんだろ」

「そうですかぁ?」


 ルードヴィヒは、最初から割り切っていたようで、特にショックを受けた様子はない。

 だが、連れの者たちの表情は硬かった。


 さんざん待たされたあげく、年若いメイドに応接室らしき部屋に案内された。

 だが、メイドはそのまま突っ立っていて、茶の一杯も出してくれる様子もないし、誰かが訪ねてくる気配もない。


「やっぱ、こっちから挨拶(あいさつ)にいくべきだろっか?」


 そう(つぶや)くとメイドが(あわ)てて否定した。


「だ、旦那様は、夕食のときにお会いになるそうです」

「そうけぇ。そんだば、待たしてもらおっかのぅ」


 ルードヴィヒは、おとなしく引き下がった。


 そして、夕食時。

 呼ばれたのは、ルードヴィヒだけだった。


 その他の者は使用人と一緒に食事をしろということなのだろう。

 主人と従者・使用人を区別することは、貴族の在り方としては間違ってはいないが、ルードヴィヒは寂しさを感じた。


 ルードヴィヒが15年の時を過ごしたシオンのヴァレール城では、大食堂で当主も従者・使用人も内弟子たちも全部が一緒くたでワイワイと食事をとっていたからだ。酒が入ると無礼講(ぶれいこう)状態だった。

 当主用のダイニングルームもあったが、使用しないので(ほこり)を被っていた。


 夕食の席は、とてもおしゃべりをする雰囲気ではなかった。


(いちおう最低限の挨拶(あいさつ)はしとかんばな……)


義父(ちち)上様。これからお世話になりますが、よろしくお願いいたします」


「ああ。ルードヴィヒも長旅で疲れただろう。しっかり体を休めなさい」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 会話はそれだけだった。

 ブルーノの言葉はもっともらしかったが、全く感情がこもっている感じがしなかった。


 以降、ブルーノ夫妻はルードヴィヒに興味がなさそうにしている。


 長男のグスタフは、敵意のこもった視線を送っている。

 家督を奪われるとでも思っているのか?


 対照的に、次男のペッツは興味深げな顔をしている。


 娘のドロテーは、一見、興味なさそうに(よそお)ってはいるが、ときおりチラリと流し目を送ってきている。


(仲良くできそうなんは、ペッツぐれぇかのぅ……)


 ドロテーの流し目は、純粋な好意ではない気がして、ルードヴィヒとしては、解釈しかねていた。


 夕食が終わると、ルードヴィヒこそ一室をあてがわれたものの、他の者は使用人用の一部屋に全員が押し込められた。

 これでは女子たちのプライバシーもなにもあったものではない。


 ルードヴィヒは、執事の男に頼んでみることにする。


「いくら従者といっても、男女一緒は(ひど)いんじゃないか。なんとかもう一部屋都合(つごう)できないだろうか?」

「では、旦那様に伺ってみます」


 結局、もう一部屋はなんとか都合してもらえることになった。

 ちなみに、ハラリエルは自ら男部屋に入っていったという。


(……っちぅことは、男確定けぇ?)


     ◆


 男部屋に割り振られたハラリエルは、他の3人の男の前でも平気で着替えている。ブラジャーも着けておらず、胸も隠していない。


 だが、ルードヴィヒは、どうにも気になっていた。

 ハラリエルの胸は、ほんのわずかだが(ふく)らみがあるように見える。


 それに……


 なぜかハラリエルがはいているのは、いわゆるカボチャパンツである。

 それだけに明瞭に判別できないが、股間にあるべきもっこりがないようにも思えてしまう。


(もう……面倒(めんど)くせぇ!)


 ルードヴィヒは、直接本人に問いただすことにした。


「おめぇ、なにがねぇんでねぇけぇ?」

「はいっ? "なに"って何ですかぁ」


「"なに"ってそらぁ……股間にある"あれ"でぇ」

「"なに"とか"あれ"とか言われてもわかりませんよぅ」


「だ・か・ら…………これでぇ!」


 しびれを切らしたルードヴィヒは、パンツを引き下ろし、"なに"を見せた。


「うげっ! 何ですかぁ? その気持ちの悪いものはぁ?」


 その反応を見て、ルードヴィヒは理解してしまった。

 "なに"を知らないということは、"なに"がないということで、すなわち男ではないということを……


(それにしても、"気持ちの悪い"とは失敬な…………が、そらぁ置いといて……)


「おめぇ。女だったんけぇ?」

「実は……実体化したのは初めてでぇ……人間の体ってよくわからくてぇ」


「なじょして男部屋に自分から入ったがぁ?」

「いやぁ、それは女部屋が混んでいたから……」


「はぁ? すっけん理由けぇ……」

「えぇっ! ダメなんですかぁ?」


「女にぁ男に見られたら困るもんがいろいろあるろぅ」

「そうなんですかぁ?」


「だ・か・らぁ、おめぇ、乳首ぐれぇ隠さんけぇ!」

「ええっ! これって恥ずかしいものなんですかぁ? でも、ルードヴィヒ様だって隠していないじゃないですかぁ」


「女にしてみれば、恥ずかしいもんなんでぇ!」

「むむっ。女だけ恥ずかしいなんて……人間って難しいですねぇ」


(ダメだ、こらぁ……)


 結局、本人に支障がないならばということで、ハラリエルは引き続き男部屋に居座ることになった。ルードヴィヒの方は、ハラリエルに欲情することなど、天地がひっくり返ってもありあそうになかったし、ニグルとライヒアルトも同様の様子だった。


 とはいえ、いつまでも乳首まる出しという訳にもいかない。

 ハラリエル用のブラは、ルークスに付き添わせて、買いにいかせた。もちろんスポーツタイプのブラである。AAAカップのブラなど、この世界には存在しない。


     ◆


「はあ………………」


 いろいろあったが、一段落して、ルードヴィヒはため息をついた。


(万事この調子じゃあ先が思いやられるのぅ)


 だが……

「まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)

お読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定 [気になる点] 何話から面白くなるのか [一言] 書き方から察するに尻上がり的に面白くなると思っている。一度客観的に徹底的な第三者目線で見るといいかなと思う。
2024/07/11 20:46 退会済み
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