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最終話 狡兎死して走狗烹らる

 アンリⅠ世の死後も、彼が割拠していた下ラタリンギアを中心に、彼を支持していた諸侯の小規模な反乱が後を絶たなかった。


 そこで、皇帝カールは、モゼル公爵たるルードヴィヒを下ラタリンギア公爵に任ずることにした。下ラタリンギア公爵位は、例えれば戦国時代の関東管領のようなもので、形式上は、下ラタリンギア諸侯の統括権限を持っているのだが、事実上は形骸化していた。しかし、関東管領となった上杉謙信が関東の武士を集めて北条氏を攻めたように、実力のあるものがその地位に着けば、実行も伴ってくるものである。


 そして、皇帝カールは、かねてから温めていたコンスタンツェの結婚問題をかたずけることにした。かつては、身分差の問題で難しかった結婚も、ルードヴィヒが公爵となった今、何ら問題はない。それに、公爵となり、かつ、ティアマトをも従えているルードヴィヒの強すぎる権力を問題視する者も多く、婚姻関係を持つことで、皇帝の派閥に取り込むべしという意見も大きかった。その意味では、コンスタンツェ自身の意思と周りの思惑が一致した稀有なケースではある。


 結婚式は、まだ小規模な反乱が継続しているということで、華美なものではなく、必要最低限の形で行われた。式にはリーゼロッテも参加し、ほほ笑みながら「おめでとう」といってくれた。ただ、ルードヴィヒの心中は複雑だった。彼女の笑顔の奥底に隠れた真意が全く分からなかったからだ。


 小規模な反乱を土竜(もぐら)たたきのごとくつぶしながら、一年ほど過ぎて反乱が終息を見せた頃、カールはずっと不在であったローテリンゲン大公にルードヴィヒを任ずることに決めた。

 そしていよいよ任命式の日……待てど暮らせど、ついぞルードヴィヒたちは会場に姿を現わすことはなかった。


     ◆


「あなた。だまっていなくなって、本当によかったの?」とコンスタンツェは、ルードヴィヒに念押しした。

「そりだだすけ、言ったろぅ。おらは、もう帝国には必要のねぇ人間だし、変に居座ったら火種にもなりかねねぇ。狡兎死して走狗烹らるだっちゃ」


 今は、既にローテリンゲン大公国を抜け、ザクセン大公国にある港町バンベルグを目指して馬車を走らせていた。


 先のわからない旅だったので、連れは必要最低限に絞るつもりだったが、妻コンスタンツェ、パーティーメンバー、帝国三騎士、ルディ、カミラ、ユリア、ハラリエル、そしてダニエラとアレクサンドラのほかに、マルグレットが同行していた。


 そのマルグレットは、遥か北にあるノルエン王国の王女であるが、第三側室の子で五女ということなので王位継承順位は極めて低い。


 そのノルエン王国は、現在、帝国の北にあるデルマルク王国に激しく責められているのだが、どうやらその陰に魔族らしきもののいる気配が濃厚なのである。


 ついては、マルグレットを送りがてら、港町バンベルグから船でノルエン王国へ向かい、様子を見ようということになっているのだった。


 さらには、なんとヘベヨユルの娘のローズマリーがなぜかいた。彼女は父親に甘やかし放題に育てられた深窓の令嬢であるが、わがまま放題に育ってしまい、身柄を預かっていたティアマトも、ついにはさじを投げてしまったのだ。ならば、父のところへ帰れば良さそうなものだが、彼女は帰るのがいやだという。


「だって、お父様って臭いし、ダサいし……とにかくいやなのよ。それに外の世界をもっと見てみたいし……」


(こらぁ本人が聞いたら、落ち込むろぅのぅ……)


 多感な年頃の少女が父や兄を嫌うことはよくあることで、これを全否定することも難しい。結局、ルードヴィヒは折れた。


 そして、いよいよバンベルグの町に到着したとき……。


「ルード様ーっ。遅いですよ。なにをやっていたんですかぁ?」


 なんとリーゼロッテがそこにいた。ヴィムとリヒャルダが一緒にいるので、二人から情報が洩れたのだろう。


「悪ぃのぅ。わざわざ見送りに来てくれて」

「何言っちゃってるんですかぁ! 私も連れて行って下さいよぅ!」


「はあっ! すっけんことしたら、今度こそロッテ様のお父っつぁに殺されちまうぜ」

「大丈夫ですよう。ちゃんと手紙を置いてきましたから。"あちこたねぇ"というやつです」


「手紙って、そらぁ……」


 結局、その場は押し切られ、リーゼロッテにヴィムとリヒャルダも同行することになった。


(どっけぇの旅になるかわからんすけ、大人数にはしたくねかったがぁどものぅ……)


 だが……

「まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)

 長いお話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 続きへの余韻を残しつつ、ここでいったん締めとさせていただきます。

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