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第134話 弔い合戦(2)

 そのとき、ミヒャエルが意を決したように発言した。お偉いさんが勢揃いの中で発言することを今まで躊躇していたようだ。


「戦場は平原などではなく、市街戦となります。町の構造を利用しつつ、薔薇騎士団(ローゼンリッター)を前面に押し出して敵を分断し、各個撃破していけば八千でも勝ち目がないわけではありません」


 だが、参加者たちは、これを聞いて失笑した。


「君。それは門を破った後の話だろう。問題はどうやって門を破るかなのだよ」


 それに対して、ミヒャエルはクスリと笑うと余裕の表情で答えた。


「諸卿は町の平面図ばかり見ているため、現実世界は三次元だということをお忘れではないのですか?」

「なにっ?」


「ローゼンクランツ卿は空を飛べるのですよ。それに転移魔法で城内に兵を送り込むこともできます。これを組み合わせれば門の一つや二つは造作もなく突破できます。違いますか? ローゼンクランツ卿」


 ルードヴィヒはミヒャエルの成長ぶりが嬉しく思え、思わずニヤリとしてしまった。


「そうだのぅ……転移させるっちぅても五、六百が限度だすけ、まずは、おらが天馬(ペガサス)にでも騎乗して上空から門の守備兵に地獄の業火(インフェルヌス)でもぶっ放してあらかた片付けた後、仕上げに兵の二、三百も転移させて城門を開けさせればええろうかのぅ」

「完璧です。ローゼンクランツ卿」とミヒャエルは賛辞を贈る。


 他の参加者は、これをあぜんとして聞いていた。誰一人反論できる者はいなかった。


(やはり第一功労者は薔薇騎士団(ローゼンリッター)になってしまうのか)……近衛騎士旅団のヘーゲン少将は口惜しく思ったが、代替案など出せようはずもない。


 結局、それで戦略の大枠は決まり、後は士官レベルで市街戦の細かな戦術を打ち合わせて終わった。


 その頃、コンラートは、婚約者のアウレリアの父であるオトマール・フォン・モッケンハウプト軍務担当宮中伯(プファルツグラフ)の領地を中心として、必死に兵を募っていた。こちらはセオリーどおりに倍の兵を集める方針のようだ。


 そして、翌日は出陣の準備へ当てることになり、翌々日。カール大公子をトップとする軍がアウクトブルグの攻略に着手し、予定どおりに門が突破された。


 キメラのホムンクルスは薬物を使用している分だけ思考・判断能力が落ちており、こちらが偽装敗走すれば無自覚にそれを追ってくる。後は路地などに誘い込み、弓などの遠距離攻撃武器の集中射撃をあびせる。そんな単純な戦術でも敵は容易くはまってくれる。絵に描いたように順調に作戦は遂行され。あっけなくアウクトブルグの町は奪還された。


 敵部隊の指揮を取っていたシュタイナー・ショルツはしぶとく抵抗していたが、最後はフェルディの戦槌(クリーグス ハンマー)の直撃を受け、見るも無残な肉塊となって果てた。


 次男のコンラートは徴兵に時間がかかり、カールに先を越されることになったが、その事実を知らないまま翌日になってアウクトブルグへ到着した。が、既に町が奪還されていることを知ると覚悟を決めた。


(カールの方が俺よりも優れていたということだ。父や兄の仇もうってもらったことだし、ここは潔く大公位を譲ろう……)


 だが、その旨をモッケンハウプト軍務担当宮中伯(プファルツグラフ)に伝えると、彼は必死に反論した。


「大公子様。何を言っているのです。こちらが集めた兵は一万八千どころか二万ですぞ。今からでもアウクトブルグを攻め。目障りなカールめを追い落とせば大公位はあなたのもので確定です。これをみすみす見過ごすおつもりか?」

「何をたわけたことを……同族同士で戦争などできるものか!」とコンラートは一喝した。これに対し、モッケンハウプトは開き直り、急に居直ってふてぶてしく言う。


「コンラート! これまでおまえに投資した俺の財産はどうしてくれるのだ! 今すぐ返せないのなら俺の言うことを聞け!」

「カールとは正々堂々競い合って俺が負けたのだ。騎士道に背くようなことができるものか!」


「何をっ! このクソ野郎が!」と叫びながらモッケンハウプトはコンラートに殴りかかる。しかし、普段から鍛えているコンラートに太刀打ちできるはずもなく、逆に殴り返され、無様に尻もちをついた。仮にも大公子に対し、暴力沙汰に及んだのだ。モッケンハウプトはコンラートの護衛騎士にそのまま拘束され、罪を問われることになった。


 その後、カールとコンラートは話し合いを持った。


 実は、前大公フリードリヒⅡ世は、大公位のほかにエタリア半島の南部とヒチリア島を領土とするヒチリア王国の国王も兼ねていた。カールは、このヒチリア王位をコンラートヘ譲ることにした。


「悪いな。カール。俺はどこぞの小さな騎士団長の地位くらいがお似合いなんだがな」

「いえ。かの国は教皇領とも接していて争いが絶えないと聞きます。かえってご苦労をおかけします」


「まあ……俺には、それぐらいでちょうどいいさ」


 こうして、大公子カールは、シュワーベン大公位を継承することとなった。

お読みいただきありがとうございます。


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