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第133話 反乱(2)

 ルードヴィヒは、もう一度千里眼(クレヤボヤンス)の魔法で情勢を探る。コンスタンツェの大公女宮では既に戦闘に突入している。最も急を要するのは、こちらに違いないが、もう一人、長女のエリーザベトがいる。彼女は学問や芸術に秀でた才女であったが、生来の病弱な体質のため、二十六歳にして未だに結婚できていなかった。が、大公女である以上、彼女も狙われる可能性がある。


「ダリ(あん)さは、小隊二つを連れてエリーザベト様の救出に大公女宮へ向かってくれるけぇ。落ち合う場所は、ツェルター伯邸っちぅことで」


 ダリウスは一瞬難しい顔をしたが「承知した」と一言発すると、早速にエリーザベトのもとへ向かった。おそらく彼は、最前線で戦いたかったのだろう。


(後は……おっ()さたちは……)と千里眼(クレヤボヤンス)で探るがなんとか無事なようだ。今のところ、母のマリア・クリスティーナと異母弟妹たちが暮らす別邸は、青の騎士団(ブラウア リッター)が守りを固めている。こちらには、伝令としてセイレーンを向かわせ、ツェルター伯邸に向かうよう伝える。


 ローゼンクランツ新宅はルディがいるから大丈夫だろうが、同じくツェルター伯邸に向かうようセイレーンを向かわせた。


 ツェルター伯邸はもともとの守備兵に加え、鷹の爪(ファルケンクラーレ)傭兵団のアウクトブルグ駐屯軍が駆け付けて守りを固めている。その意味では、アウクトブルグで一番安全な場所と言えた。それにルードヴィヒは、ローゼンクランツ家の直上の封建君主であり、リーゼロッテの父でもあるツェルター伯をなんだかんだで信頼しているのだった。


「こんでよしっ!」と方々の手配を済ませたルードヴィヒは、コンスタンツェの大公女宮へ向かうべく気合を入れた。


「コンスタンツェ様の大公女宮へ転移する。いきなし戦闘になるすけ、覚悟しとけ!」


 転移先は、まさに大公女宮の門前だった。目の前で赤の騎士団(ロウテ リッター)の団員たちとキメラのホムンクルスが戦っている。そこへバイコーンに騎乗したまま乱入すると。獰猛な性格のバイコーンはキメラのホムンクルスを次々と蹴飛ばしていた。


 それが一段落して、バイコーンから下馬し、徒歩(かち)での戦闘に入る。ルードヴィヒの剣技は、戦乙女(ワルキューレ)たちとの訓練により、とみに強さを増していた。スピードも斬撃の威力も以前とは格段の違いがある。左右の手は別の生き物のように自在に動き、その全てがキメラのホムンクルスどもを一刀両断に切り捨てていた。(はた)から見ると目が三つも四つもあるようにも思えてしまうほどだった。


 だが、千里眼(クレヤボヤンス)でコンスタンツェの様子を覗っていたルードヴィヒは焦っていた。部屋の前で赤の騎士団(ロゥテ リッター)の団長を務めるヒルデガルト・フォン・エーベルハルト中佐と幾人かの精鋭が踏ん張っている。エーベルハルト中佐はハーフエルフの女性であるが、ダリウスとほぼ互角の剣の腕前を持つている。が、既に疲労の極致にあるようだ。


(こらぁ普通に戦って道を開いとったら、間に合わねぇな……)と判断したルードヴィヒは、転移魔法で一気にコンスタンツェの部屋の前に移動すると、まさに無双した。キメラのホムンクルスは次々と倒され形勢は一気に逆転した。


 結局、ルードヴィヒが到着してからおよそ三十分ほどで勝負は決し、生き残ったキメラのホムンクルスは退却していった。コンスタンツェの部屋を訪れると彼女にはいきなり咎められた。


「あなた! どうして私なんかのところに? お父様とお兄様はどうなったの?」


 言葉にするのも憚られるので、ルードヴィヒは静かに首を横に振った。


「そんな……」と言うなり、コンスタンツェは悲愴な表情となり。それ以上の言葉が出なくなった。一筋の涙が流れる。


「すまねぇ。おらが来たときは、もう手遅れだった……」


 このまま彼女の心が落ち着くのを待ちたいところだが、そうもしていられない。敵は部隊を再編成して再攻撃してくる恐れも十分にある。


「とにかく、ここにいちゃあ危険だ。ツェルター伯邸に避難する」


「ツェルター伯邸に? それで、どうするの?」

「このままアウクトブルグに留まっても泥沼の乱戦になって先が見通せねぇ。いったんツェルター伯国へ落ち延びて軍を再編成した後に改めてアウクトブルグを奪還する」


「伯爵の了解は得られているの?」

「いやぁ。だが、ダメとは言わねぇと思うぜ」


 それからコンスタンツェやその侍女たちなどを連れて避難したのだが、悠長に馬車などに乗っている暇はない。抱きかかえてバイコーンに騎乗して行ったのだが、慣れないことなので彼女たちは怖がって悲鳴をあげている。事情を知らない第三者から見たら、人さらいの盗賊のように見えるかもしれないと思うと、ルードヴィヒは何だかおかしかった。


 ツェルター伯邸がいくら広いといっても当然に人は入り切れず、その街区に障害物などを置いて簡易要塞のようなものを鷹の爪(ファルケンクラーレ)傭兵団の者たちが構築していた。ルードヴィヒは、セイレーンたちに周囲を監視させつつ、ツェルター伯マルクに謁見した。彼は、開口一番に皮肉を言った。


「我が屋敷を避難所にした覚えはないのだがな」

「順序が逆になって申し訳ねぇども、他に頼れる人がいなかったすけ緊急避難ちゅうことで許してはもらえねぇかぃのぅ」


「許すも何も、今さら避難した人々を追い出すわけにもいくまい。それで、これからどうするつもりなのだ?」

「重ねがさねのお(ねげ)ぇで(わり)ぃども、大公家ん(しょ)は、こんまんまテーリヒの町まで落ち延びさせてもらえねぇろか?」


「確かに、このまま町の中で乱戦を継続してもいたずらに兵を消耗するだけだろうしな。我らの諜報員(インテリゲンツ)によると、やつらは町の住人をことさらには攻撃していない様子だし、それが最善の選択だろうな。だが、大公家からは、相応の見返りをもらうぞ」


 こうして大公家の関係者はツェルター伯国の首都テーリヒの町へ落ち延びることになった。フラエブルグ派遣軍のカール大公子にもセイレーンの伝令を送ったので、彼らもアウクトブルグへは寄らずに、テーリヒへ直行することになるだろう。

お読みいただきありがとうございます。


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