第132話 代理戦争(2)
(ライオンの身体に鷲の頭と翼を持った姿のぅ……)とルードヴィヒは記憶を巡らせる……そして思い当たった。
「邪龍ティアマトが生みだしたウム・ダブルチュっちぅことかぃのぅ……」
ウム・ダブルチュは、東方のソメポタミア地方の原初の海の神ティアマトが、対立する新しい神々と戦うべく生み出した十一の魔物の一人である。その魔物からなる武装集団は、討伐に際し神々を大いに脅かしたが、ティアマトが討たれ敗北するとバラバラとなった。ある者は処刑され、ある者は神々の配下となり、ある者は野へ下りたというが……。
(魔王らしき者の正体はウム・ダブルチュなのけぇ?)
皇帝軍は、大公軍に追い詰められて斜陽状態となると、背後の魔族の存在を隠ぺいする余裕もなくなり、軍の中に魔族を逐次投入してきていた。魔族の強さは圧倒的であったが、多くの犠牲を出しながらも、大勢で寄って集って攻撃することでなんとか対処はできていた。近衛騎士旅団は、今回もそのつもりなのであろうが、ウム・ダブルチュの強さは、これまでに戦った並みの魔族の比ではないだろう。
(しゃあねえのぅ。おらたちが先行して、始末するけぇ……)
たとえ嫉妬を集める結果となったとしても、多数の人間の死を見過ごすよりはましだとルードヴィヒは判断した。ついては、転移魔法を使ってパーティメンバーと帝国三騎士を連れて、近衛騎士旅団に先駆けて砦に向かう。
結果は、ルードヴィヒの読み違えであった。砦には、ティアマトが生みだした十一の魔物が勢ぞろいしていたのだ。こちらはパーティメンバー五名+帝国三騎士の三名の計八名では分が悪い。おまけに配下の魔族も多数待ち構えていた。
(とりあえず、有象無象はダークナイトやらに相手してもらおっかのぅ)……ルードヴィヒは召喚魔法を唱える。
「我は求め訴えたり。闇に染まりし騎士にして、勇猛無比な武者たるダークナイトたちよ。冥界より来たりてその力を示せ。契約のもとルードヴィヒが命ずる。召喚!」
すると巨大な魔法陣が地面に生じ、ダークナイトの軍団が姿を現わした。続いて、魔法を使うアンデッドであるリッチの軍団も召喚する。さらにパイモンらに命じて配下の悪魔の軍団を呼び寄せることもできるが、そこまでは必要ないとルードヴィヒは判断した。
これはそれでよしとして、十一の魔物は亜神級の強さだと想定されるため八人で相手をせざるを得ない。皆は、人型を解いて本性の姿となって戦う。ニグルの本性の姿は初披露だったが、頭胴長が五メートルを超える黒豹の姿で、背中には蝙蝠のような二対の羽があり、尻尾は九本に分かれていてその先には黒い炎がともっている。クーニグンデも本来の黒竜の姿になった。フェルディとケルステンについては、言わずもがなである。帝国三騎士も本性に戻った。
ルードヴィヒは十一の魔物の中でもリーダー格であるムシュマッヘという七岐の大蛇とウガルルムという巨大な獅子を相手にした。傍らでは、ウシュムガルという凶暴な竜とクーニグンデが戦っていた。
ムシュマッヘの七岐の首が繰り出す攻撃は予想が難しく、それを避けながらウガルルムとも戦うのは骨が折れる。隣では、クーニグンデが苦戦している。彼女は数百年のオーダーの年齢の長老竜であり、体格的にも千年のオーダーの古代竜であるウシュムガルに大きく劣っている。そして、ついにウシュムガルがまさにクーニグンデの首に噛みつかんとしている。このままではクーニグンデの首が嚙みちぎられてしまう。
その刹那。ルードヴィヒは時空を支配して時間を止めると、ウシュムガルの首に闘気刃を放つ。ウシュムガルの首は大きく傷つき、血が噴き出した。だが、時空を制するのは基本のキだ。ということは、他者の介入も想定に入れるべきなのだが、ルードヴィヒは一瞬気を抜いてしまう。そこへ、ムシュマッヘが強引に時空に介入し、あっという間もなくルードヴィヒに噛みついた……。
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