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第131話 黒の森の女王(1)

 ルードヴィヒが薔薇騎士団(ローゼンリッター)の団長に就任してから三年の月日が流れた。彼は十八歳となり、戦争に駆り出されて休みがちてあったにもかかわらず、学園は首席で卒業した。


 その間の薔薇騎士団(ローゼンリッター)の働きには目覚ましいものがあった。その功績から、ルードヴィヒは薔薇騎士団(ローゼンリッター)を筆頭とする連隊の連隊長となり、軍階級を大佐に、爵位も子爵にまで進めていた。戦績からみて、彼を将官にという声も大きかった。が、二匹の(ジルベナー)銀狼(ドッペルヴォルフ)は健在であり、将官として後方から作戦行動を指揮するよりも先陣を切ってこその二人だという声には抗い難かったし、何よりもルードヴィヒ自信が昇進には全くこだわりを持っていなかった。


 この結果、戦いの趨勢は大公軍に大きく傾き、皇帝軍カイザーリッシェ・アルメーは斜陽状態となっていた。


 三すくみのもう一方の当事者である魔王らしき者は、黒の森(シュバルツバルト)の地を死守する構えであり、ここからは積極的には打って出てこないため、こちら方面の戦線は落ち着きをみせている。


     ◆


 およそ十八年前。ブラハント公国の公爵であるアンリⅠ世・フォン・レギナーレは突如人格が変わった。少なくとも家臣たちはそう感じた。もともとアンリⅠ世は年齢的に五十をとうに過ぎており、頑固で融通がきかなくなるなどの老害の兆候はあった。しかし、ある日を境に臣下の進言に全く耳を貸さなくなった。


 そのきっかけは、公爵補佐官のアベル・フラウエンロープを採用したことにある。公爵補佐官など聞きなれないポストがなぜ突然新設されたかは、全くの謎である。アベルは、まだ三十歳前と見えるハンサムな青年であるが、どこか暗い影のある男で、臣下たちは薄気味悪く思っていた。そもそも彼は公国とは縁もゆかりもなく、突然に現れたことは確かであった。


 公爵アンリⅠ世は、基本的に臣下とは直接口をきかなくなり、アベルを通してしかその意思を伝えない。そして、公爵の御前で対魔王対策を臣下たちが議論していたとき、アンリⅠ世はアベルにボソッと何かを伝えた。


「公爵閣下は、この混乱に乗じてエノー伯領を攻め獲れとのご意向です」と公爵の意思をアベルが臣下たちに伝えると騒然となった。


「まさか帝国に反旗をひるがえすおつもりか!」と臣下の一人が強い口調で真意を確認する。


「そう聞こえなかったとすれば、私の言い方がまずかったでしょうか?」とアベルは冷たい声で返した。


(いくら公爵の命令とはいえ、いかがなものか?)……臣下たちの間で議論は紛糾し、その日は決着がつかなかった。公爵と臣下たちは臣従礼を交わしているが、この封建契約というものはあくまでも契約であってドライなものである。日本の滅私奉公的忠誠を求める封建関係とはわけが違う。


 しかし翌日。反対派のリーダーと目される有力な臣下が惨殺体となって発見された。何か獣のようなものに食い散らかされた様子だったという。反対派の臣下たちは疑念を持ち、慎重の上にも慎重を期して密会し、対策を話し合ったが、粛正めいた殺害行為は二度三度と続いていく……まるで目に見えない監視者が張り付いているようだった。これがアンリⅠ世の恐怖政治の始まりだった。


 公爵の方針に反対する臣下は確実に殺された。そしてそれは領民も例外ではなかった。反対派の領民を殺害するよう命ぜられた警吏たちは、当初は良心の呵責に悩んだものの、恐怖と狂気はいや応なしに公国民の間に伝染していく……そのうちに、領民たちも反対派の者を進んで密告するようになっていった。


 そしてブラハント公国軍は、エノー伯領を皮切りとして、だまし討ちや不意討ちなどルール無視の戦いを繰り広げて快進撃を続け、占領地を拡大していった。さらに、教皇の思惑も味方して、帝位を得るまでになった。が、シュワーベン大公軍はしぶとく戦争を継続し、経済的基盤の弱さなどから戦線は次第に膠着(こうちゃく)した。亜人たちの参戦により一時的に盛り返したものの、薔薇騎士団(ローゼンリッター)の活躍などによって現在、斜陽状態であることは既に述べたとおりだ。


 そしてあるとき……大公フリードリヒⅡ世のもとに大公の秘密機関の諜報員からある情報がもたらされた。今や皇帝補佐官となっているアベル・フラウエンロープが魔王らしきものと接触を持ったというものだった。三すくみの状態であるから、そのうちの二者が連合を組んで残りの一者を攻めるという方策は誰もが考えることである。だからといって、これまで黒の森(シュバルツバルト)を死守して動きのない魔王らしき者が、いまさら連合に応じるとは考えにくい。


(斜陽状態となった皇帝軍がわらをもすがる思いで動いたのだろう)……大公フリードリヒⅡ世は、この情報を重視しなかった。しかし……。

お読みいただきありがとうございます。


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