第127話 対陣(1)
少しばかりして、プランツェとヴァルトの2人は戻ってきた。
プランツェが報告する。
「主様。いたわ。人数も少ないし、幻影の魔法で偽装していたから、斥候の人たちは見逃していたみたいだけど、魔法使い風のローブを着た大男が20人くらい。あれは、たぶん召喚術士ね」
「はあっ! 召喚術士が20人もけぇ!」
「そうよ。間違いないわ」
召喚術は魔術の中でも難易度が高く、召喚術士は人数的に寡少であるが、それが20人くらいとなると……。
(皇帝軍の召喚術士の大半をかき集めたっちぅことけぇ……)
「どんぐれぇの使い手かわかるけぇ」
「なんだか異常に多い魔力量だったから、かなり上位の使い手であることは間違いないんだけど……」
「けど、なんでぇ?」
「あれは人間の姿に化けていたけど、魔族じゃないかと思うの」
「はあっ! そらぁ、また魂消た(驚いた)話だのぅ」
「確かにね」
(20人たぁいねえだとは思ったが、黒の森の魔王らしきものと皇帝が手を組んだっちぅことか……それとも、別な魔族が皇帝の後ろ盾になっとるっちぅことか……まあ、そらぁ置いといて……)
「二人で、そいつらを殺れるかのぅ」
「私たちは、あまり攻撃系の魔法は得意じゃないけど、あの人数ならなんとかなると思うわ」
「そんだば、頼めるかぃのぅ。もしダメそうだったら、他ん衆を呼ぶすけ。できれば、一人二人生かして捕縛できるとええども、無理せんでのぅ」
「たぶん大丈夫よ。任せといて」
プランツェとヴァルトは、召喚術士たちが潜む森の一角に忍び寄った。
まずは、プランツェが蔓緊縛の魔法を発動すると、多数の木の蔓が男たちを襲い、これに巻き付いて拘束した。
「うぁぁぁぁっ! 何だ、こりゃ。動けねえ」
続けて、ヴァルトが棘刺の魔法を発動すると、木々の幹や根から杭のような太さの棘が勢いよく生え、拘束された男たちの体を貫いた。
「ぐあぁぁっ!」
さらに、杭状の棘がに2本、3本、4本……。
「ぐあぁぁっ! うぁぁぁっ!」
男たちの体に容赦なく刺さっていき、男たちは何本もの槍で磔刑に処せられたかのように、おびただしい血を流しながら絶命していった。
苛烈なようだが、平穏な住処を戦場にされそうになって、森の木々は怒っていたのだ。
ただ、一名の男だけは、蔓で拘束されたうえ、首を絞められ失神した。
プランツェとヴァルトが、この男をルードヴィヒの前に連れていき、いざ尋問をしようかとしたとき……。
男は、突然苦しみだすと、大量に喀血し、そのまま死亡した。
「んのっくそっ! 黒魔法の呪いけぇ」
ルードヴィヒは悔しがったが、後の祭りであった。
ルードヴィヒは、この戦争に、裏で魔族が拘わっていることを報告するタイミングをどうするか迷った。
が、とりあえず、伝わってきた命令からすると、背に抱える森林に伏兵はいないという前提の様子だった。
(報告は、戦闘が終わった後に、頃合いを見てやることにすっかのぅ。森に伏兵がいねぇことに間違ぇはねぇわけだし、戦闘前に変な雑音をたてねぇほうがええろぅ……)
ルードヴィヒも、魔族のことはいったん置いておき、目先の戦闘に集中することにする。
大公軍は、皇帝軍を視認できる手前の地点で陣形を組み、敵の動きに注意を払いながら、漸進していく。
が、敵に特に動きはないまま、森林を迂回し、皇帝軍の正面にたどり着いた。
大公軍は、前面から見ると、両翼に騎兵500ずつを配した単純横陣に見えるように偽装している。
これで皇帝軍の指揮官が、単純横陣どうしが正面からぶつかり合うと解釈すれば、こちらの術中に嵌ることになるのだが……。
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