第126話 軍議(2)
「それでは、敵軍の前面に布陣するとして、問題は、万が一後背の森林からの攻撃遭った場合に備えて、幾ばくかの兵を割くかどうかですが……」
ここは、ハンペル大将が決断した。
「いや。もともと兵数が9,000対11,000でこちらの方が少ないのだ。ここは万が一に備える余裕はない」
「では、敵正面にこちらも横陣を敷く形でよろしいでしょうか?」
……とブラウビッチュ副官が総括に入るが……
ヴァレンタイン総長が異議を唱えた。
「せっかく敵が川を背後にした半包囲状態にあるのです。私としては、我が軍の左翼を厚くした斜行陣を敷き、敵右翼から包囲にかかるのが上策と考えますが、いかがですかな?」
ブラウビッチュ副官の眉が一瞬ピクリと動いたが、ハンペル大将は、素直に頷いた。
「確かに、皆が思っているように、相手の大半を亜人どもが占めるということなら、騎士道精神も何もあったものではない。バカ正直に正面から正々堂々と攻める必要もないな。ここは総長の案を採用することにしよう。後は、兵の配分だが……」
ヴァレンタイン総長は、もともとこの腹案を持っていたらしく、立て板に水で話し始めた。
「もともとこちらの方が騎兵の数が多く、機動力があるということもあります。ここは右翼の騎兵は敵と同数の500として、左翼に騎兵1,500を重点配置します。このうち1,000は背後に隠した予備戦力とし、戦況を見ながら一気に投入します。
問題は歩兵ですが、数が少ないため多くの予備兵力を割くのは難しいのですが、我が連隊の第6大隊500を予備戦力とさせていただきたい。それでいかがか?」
ここで、鷹の爪傭兵団の大隊長連中は、ヴァレンタイン総長は、そこまで想定したうえで、第6大隊に3羽烏を集中配置していたのかと、今更ながらに感心した。特に、第6大隊の隊長のマルセル・ラポルダー少佐は、改めて自らの任務を重さを実感していた。
結局、ヴァレンタイン総長の提案に反論できる者はおらず、この案が採用されることになった。
◆
皇帝軍との接敵が予想されるこの日の夜明け前、ルードヴィヒは、密かに陣を抜け出すと、人目のつかない場所で、指で空中に五芒星を描き、これを円で囲む。すると、それは魔法陣として光り出し、そこから人型の妖精が10体ばかり出現した。セイレーンである。
セイレーンは、上半身が人間の女性で下半身は鳥の姿で、背中には翼があり空を飛ぶ。歌声で魅惑して人間を惑わせ殺して食べるともいわれている。
セイレーンは、夢幻界では服を着ておらず、乳房を丸出しなのだが、ビキニのトップス的なものを身に着けさせている。
当初、嫌がって擦った揉んだがあったのだが、現実世界ではそうもいかない。それに、何よりルードヴィヒ自身が変な気を起こさないとも限らなかったということもある。
セイレーンのリーダーであるイリーネが進み出て言った。
「主様。久しぶりのお召し、心待ちにしておりました。今日は、どのようなご用件で?」
「おぅ。久しぶりのところ、いきなしで悪ぃども、こっから戦争するとこんがぁども、皆して、ちっとばかし辺りの様子を見てきてくんねぇけぇ」
「承知いたしました。お安いご用です」
セイレーンたちは、イリーネの指図で、手分けして周辺の様子を探った。
結果は、軍議で報告されたとおりである。
(ん-ん? 背水の陣たぁ、こらぁまた怪しいのぅ……)
「イリーネ。森の方はどうだったかぃのぅ。伏兵なんか、おらんかったけぇ」
「それが……上空からだと、森の中の様子までは良くわからなくて……とりあえず、上か見た限りでは、大勢の兵がいる気配はありませんでしたたけど……」
「まあ、そらぁそうだのぅ。わかったすけ、もうしばらくの間、周りの様子をさぐっていてくれねぇけぇ。敵の増援なんかが来るようなら、すぐに知らせてくれや」
「承知いたしました」
セイレーンたちは、周辺の様子を探るべく、再び飛び立っていった。
ルードヴィヒは、再び召喚陣を描くと、木精霊・ドリュアスのプランツェと森精霊・アルセイスのヴァルトを召喚した。
「おぅ。おめぇら。呼びだてして悪ぃども、あっこの森ん中に怪しい奴がいねえかどうか、見て来てくれねぇけぇ?」
「わかったわ。主様。任せといて」
彼女たちは、実体化を解いて、本来のエーテル体の姿に戻っており、空中を森の方へと飛んでいった。
彼女たちは、森の木々と意思疎通ができるため、話を聞けばすぐにわかるはずだ。
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