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第125話 行軍

 フェルディの参戦を決めたルードヴィヒは、一考する。


(これで5人にはなったがぁども……どうすっかのぅ……もう一人ぐれぇいて欲しいとこだんが……)


「おぅ。そういやぁ奴がいたのぅ……」


 ルードヴィヒが指で床に五芒星(ごぼうせい)を描き、これを円で囲むと、魔法陣として光り出し、黒い霧が立ち込めた。そこから三つの頭を持つ大型犬が出現した。地獄の番犬、ケルベロスである。


「主殿。我をお呼びとは、なにか一仕事あるのでしょうか」

「おぅ。今度(こった)戦争があるすけ、おめぇも一兵卒として参加してもらいてえぇがぁだども」


「なるほど、主殿のご命令とあらば従いますが、番犬の仕事を離れますには、冥界の王たるハデス様のご了解が必要となりますが……」

「そうけぇ。今から冥界へ行くのも手間だし、なじょしたもんかのぅ」


「この屋敷にはヘカティア様がおられると聞きましたが……」

「おぅ。すっけなことも気づかねぇたぁ、おらも焼きが回ったかぃのぅ」


 冥界の女王たるヘカティアは三位一体の相を持つ女神であると考えられている。

 その三相とは、天界においては月の女神セレネ、地上においては狩猟・貞淑(ていしゅく)の神アルテミス、冥界においては冥界の王ハデスの妻ペルセポネと言われている。


 つまりは、へカティアを通じてハデスに話を通したら上手くいくだろうということだ。


 早速、へカティアに相談すると、二つ返事で了承してくれた。


「わかったわ。ハデスは私の言葉には弱いから、任せておいて」


 冥界の王ハデスはペルセポネ=へカティアにベタ惚れで、強引に略奪(りゃくだつ)してまでして妻にした経緯もあり、彼女の多少の我がままは聞かざるを得ないのだった。


 これは、それでいいとして……。


 ルードヴィヒは、ケルベロスに尋ねた。


「おめぇ、人型に変化はできるろぅのぅ」

「もちろんでございます」


 そう言うと、ケルベロスは、漆黒の犬の頭と尾を持った人型の犬人族の姿に変化した。


「おぅ。なかなかいい塩梅(あんばい)でねぇけぇ」

「恐れ入ります」


「そりじゃあ、(なん)か名前をつけんばのぅ。んーん……”ケルステン”でどうでぇ」

「主殿に(たまわ)った名前なら、異存はございません」


「そんだば、そういうこって。そんじゃあ、武器はどうすっかのぅ?」

「我はあまり器用ではありませんので、それも考慮して、主殿に選んでいただければ従います」


「そうけぇ。フェルディは戦槌(せんつい)Kriegs(クリーグス)hammer(ハンマー))にしたがぁども、(おんな)じだと面白(おもしょ)くねぇすけ、戦斧(せんぷ)Streitäxte(シュトレイテクステ))はどうでぇ?」

「かしこましました」


「そんだば、これもロマンさんに手配してもらうすけ」

「ありがとうございます」


 戦斧(せんぷ)Streitäxte(シュトレイテクステ))は、英語でバトルアックスといい、いろいろなバリエーションがあるが、ルードヴィヒが手配したものは、先端の尖った柄に斧が取り付けられているが、斧の反対側はピック状になっている。

 斧で叩き切るという本来の使い方に加え、ピック部分により刺突武器的な使い方もできるし、尖った先端を槍のように刺すこともできる。


 だが、6人そろってみて、ルードヴィヒは、考えた。


「なんだか、おら以外は、パワーファイターばっかしになっちまったが……まあ、それもおらの班の個性っちぅことで、悪くはねえろぅ」


 とりあえず、メンバーは信頼できそうな者たちばかりだし、ルードヴィヒとしては、班の構成については、楽観的なのだった。


「まあ……Es(エス) kommt(コムトゥ) wie(ヴィー) Es(エス) kommt(コムトゥ)……」(なるようになるさ……)


     ◆


 ルードヴィヒは、ダリウスたち3羽(からす)とともに、第6大隊に配属された。

 第6大隊の隊長は、マルセル・ラポルダー少佐で、まだ20台後半でありながら、柔軟で個性に富んだ用兵が高く評価されている人物だった。


 総指揮官のヴァレンタイン総長は、彼の能力を高く評価し、第6大隊を予備兵力として遊軍的な扱いとし、自由な作戦行動を行う権限を彼に与えた。

 戦いの局面を見据(みす)えて、ここぞという場面において、鉄槌を下す役割を期待したのだ。


 そのうえで、第6大隊が破壊力・突破力を持ったものとするため、鷹の爪(ファルケン・クラーレ)最終兵器(リーサルウェポン)ともいえる3羽烏を集中配置したのだった。


 これは歴戦のベテランであるヴァレンタイン総長だからこそできた、思い切りのよい大胆な措置だといえよう。


     ◆


 連隊の集結が完了し、いよいよ行軍が始まった。


 ルードヴィヒの班はすべて新兵であるが、傭兵の場合も、新人とみれば、先輩の兵隊はマウンティングをしにかかってくるものだ。


 しかし、ルードヴィヒとJet(ジェ)schwarzes(シュバルツェ) Biest(ビースト)"(漆黒の獣)であるニグルとクーニグンデについては、既に鷹の爪(ファルケン・クラーレ)傭兵団の中で、その強さが知られている。

 何より、新しくパーティに加わったフェルディとケルステンの2名は、体格も大きくて、頭は獰猛(どうもう)な顔つきをしているし、これまで集団行動をしたこともなく、人間関係などにも頓着(とんちゃく)しないものだから、覇気(はき)もダダ()れにしていた。


「おい。あれは例のローゼンクランツ卿の班だろ。なんかごっつい亜人が増えてねえか」

「ああ。犬人族と牙狼(がろう)族だろう。顔がごっついだけじゃなくて、あの覇気はなんなんだよ。あの銀狼(ジルバーヴォルフ)に負けてねえじゃねえか。これは触らぬ神に(たた)りなしだぜ」


「まったくそのとおりだな。くわばらくわばら」


 こんな調子であるため、先輩の兵たちには、恐れられこそすれ、マウンティングをしようなどというものは、皆無だった。


 行軍は1週間ほど続いたが、皇帝軍カイザーリッシェ・アルメーの妨害などは一切なく、かえって不気味(ぶきみ)さを感じさせた。


 いよいよ決戦地が近づいてきたとき、ハンペル大将に皇帝軍カイザーリッシェ・アルメーの具体的な布陣の知らせがとどいた。


「なんと、それは誠か?」と思わず、ハンペル大将は知らせをもたらした伝令に確認した。


「もちろんでございます。私も、この目で確認してきました」


「そうか……これはどう解釈したものかな?」


 ハンペル大将は、副官のマテウス・フォン・ブラウビッチュ少将に意見を求めた。


「戦術的には禁忌(タブー)であるはずなのですが……なぜ、あえてその手を打ってきたのかは、小官にもわかりかねます。あるいは何らかの(わな)がある可能性も考慮すべきかとは思いますが……」

「確かに、ありうるべき想定はしておかねばなるまい。しかし、どうしたものか……」


 ハンペル大将は、決戦地付近の地図を熱心に眺めながら、眉間(みけん)に深いしわを寄せていた。

お読みいただきありがとうございます。


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