第122話 自然児 (1)
会話が続かない……。
……と思ったら、ルードヴィヒは、軽く寝入ってしまったようだ。
コンスタンツェは、そっと目をつぶると、のんびりとした気分で持ちのよさを味わうってみる。
横たわった地面はヒンヤリとしている。太陽は既にかなり傾いており、その柔らかな日差しがまた心地よい。
庭の木々をわたってくるそよ風が爽やかだ。その木々から、聞こえる野鳥たちのさえずりが天国の調べのようにも思える。
コンスタンツェは、あまりの気持ちよさに、そのままウトウトしてしまった。
(ダメよ。ここで眠ってしまったら、またキスされてしまうかも……)
そう考えてしまったコンスタンツェは、寝るどころの話ではない。
だが、ルードヴィヒは、寝入っており、ちっとも起きる様子はない。
コンスタンツェは、寝返りを打ったふりをして、ルードヴィヒの方を向いた。
しかし、少し目測を誤ってしまい、ほとんど抱きつかんばかりの近さになってしまった。
そこで、コンスタンツェは、少しの汗の匂いに混じったフェロモンのような匂いに魅せられる感覚を覚え、胸がキュンとした。
臭覚というのは、脳に直結した感覚であり、また、女性は臭覚によって遺伝的に自分に相応しいパートナーを意識的・無意識的に選んでいるとも言われている。
ふとルードヴィヒを見ると、まだ寝入っているようだ。その無防備な顔を見たコンスタンツェは、悪戯心を起こしてしまう。
(これは、この間の仕返しなんだからね……)
コンスタンツェは、ルードヴィヒの顔にそっと自分の顔を近づける……。
(隙あり! ( *¯ ³¯*)♡ㄘゅ)
(きゃぁぁぁぁぁっ! 今度は、自分からキスしちゃったぁぁぁっ!)
コンスタンツェは、自分から触れるだけのキスをした。
実はそのとき、ルードヴィヒは、マジ寝していて全く気付いていなかった。
男というものは、女と逆で、女のふしだらな視線を感じる能力はほとんどないらしい。
コンスタンツェがキスをしてしまった恥ずかしさから立ち直った頃……。
ルードヴィヒは、やおら起き出してきた。
「ああっ。思わずマジ寝しちまったようだのぅ」
コンスタンツェは、なんだか嬉しくなった。
女の前で、そんな隙を見せるということは、自分に対して心を許していることの証ではないかと思ったからだ。
ちょうど日が傾き、夕焼けになりかかっているところだ。
「丁度いい頃合いだのぅ。そりじゃあ行くけぇ」
ルードヴィヒは、元気よく、そう言うと手を差し出した。
コンスタンツェは、慣れたもので、腕を組んだ。
そして向かったところは、庭の池だった。
かなりの大きさの池で、深さもかなりあるようだ。
「ここに正餐のときに食べたサクラマスがいるの?」
「おぅ。そうだども、サクラマスを釣るんは、ちっとばかし難しいすけ、今日はちっこい魚を狙うすけ。そりだども、数は釣れるすけ楽しいと思うぜ」
「期待しちゃうわ。本当に私でも釣れるのかしら?」
「だすけ、あちこたねぇすけ」
ポイントは、池に流れ込む手前の小川である。夕方になると、餌を求めて池から魚が溯上してくるので、そこを狙うのである。
ルードヴィヒがストレージから取り出したのは、流し毛針という仕掛けのついた釣り竿だった。仕掛けは浮きのほかに、毛針が5本ほど付いている。
「そりじゃあ、おらが見本を見せるすけ、見といてくれや」
だが、コンスタンツェは、不思議に思った。ルードヴィヒは、針に餌を付けていない。
「ちょっと待って。あなた。針に餌が付いていないわよ」
「ん? こらぁ毛針っちぅて、虫に見せかけた疑似餌になっとるすけ、餌はいらんがぁよ」
「ええっ! そんなので本当に釣れるの?」
「まあ、見てらっしゃい」
今度こそルードヴィヒは、仕掛けを小川に投げ込んだ。
上流部から下流に向けてゆっくりと流していく……
すると、10秒も経たないうちに、魚がかかった。
ルードヴィヒが、それを引き上げると、何と2匹同時に釣れて
いた。
☆(๑⊙д⊙๑)‼スゴーーーイ
コンスタンツェが、思わず拍手をする。
「こらぁ一荷でねぇか。幸先がええのぅ」
ルードヴィヒは、魚を外すと。用意しておいた水を張ったバケツに魚を放り込んだ。
「”いっか”って?」
「一度に2匹釣れることを釣りキチん衆は、一荷っちぅがぁてぇ」
「”釣りきち”って?」
「きち〇いみてぇに釣りが好きん衆を”釣りキチ”っちぅがんに」
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