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第121話 庭の自然(2)

 そして、ぶらぶらと庭を散策していると、コンスタンツェが感想を漏らした。


「ここには花壇というものはないの?」

「いちおう、おらの家名にちなんで薔薇(ばら)を育てとるとこはあるども、まだあんま育ってねぇすけのぅ。それ以外は、できるだけ自然の状態にして、人の手を入れねぇようにしとるがぁども」


「それって雑草だらけっていうことじゃないの?」

「雑草とは失敬な。よく見れや。控えめだすけ、目だたねぇども、可愛らしい花が咲いてるでねぇけぇ」


「まあ……そういわれてみれば……」

「このピンクのねじれてるやつがネジバナ、それにあっちの白くてもっこりしたやつがルツボっちぅ野草なんだすけ。よく見りゃあ綺麗(きれい)可愛(かわい)いろぅ」


「確かに、そうだわね」


 それからコンスタンツェは、小さな野草に注意を払いながら散策した。確かに、控えめで小さいが可愛い花が咲いている。


「あの青くていっぱい咲いているのは?」

「あらぁ露草(つゆくさ)だのぅ。生命力が(つえ)ぇ草だすけ、油断すると露草だらけになるがんに」


「へえ。そんなものなのね」

「こうやって自然状態で競争させとくと、いい塩梅(あんばい)に混じって綺麗んがぁよ。いくら可愛いっちぅても、露草だらけんなったら面白(おもしょ)くねぇすけのぅ。そのバランスをとるんが庭師の腕だがんに」


「そんなこと聞いたことがないわ」

「んにゃ。おら()の庭についちゃあそういうことんなっとるすけ」


 そして、ちょっとした林に来た。


「ほれ。あっこの(つる)に咲いとる紫の花が、あの(くず)だがんに」

「"あの"ってなによ。”くず”なんて知らないわよ」


「ああん? 大公女様は葛湯や葛餅(くずもち)を知らんがぁか?」

「何よ。それ?」


「そうけぇ。そういやぁシオンの町ん(しょ)もあんま知らねえみてぇだったし、あらぁひい(ばっ)さの田舎(いなか)んもんだったか……」


「ひいお婆様の田舎ってどちらなの?」

「”日本”っちぅ豪儀(ごうぎ)遠くん国っちぅ話だども、おらも良くは知らん」


「それで珍しい食べ物をいろいろ知っているのね」

「まあのぅ。だども、おらぁ日本の食いもんは好きだがんに」


「まあ、それを食べて育ったのなら、そうでしょうね。でも、私もいただいた限りでは美味しいと思うわ」

「そんだば、午餐(ごさん)のデザートは葛餅にすっかのぅ」


「それはいいと思うのだけれど、私は午餐の前に失礼しようかと思っていたの。午餐までいただいたらお邪魔じゃないのかしら?」

「釣りをしたら日も暮れちまうすけ、食ってけばええがんに。遠慮はいえらねぇ」


「そう。ならば甘えさせてもらうわ」


 更に歩いていくと……。


「おらっ! こらぁ”むかご”があるでねぇけぇ」


「”むかご”って、この(つる)になっているお豆みたいなもののこと?」

「おぅ。この蔓は山芋ん蔓だすけ」


「また地下にできるお芋なの」

「芋っちぅても、昔っから”ゴボウ5時間、ニンジン2時間、卵たちまち、山芋やたら”っちぅてのぅ……」


「なによ。黙っちゃって。はっきり言いなさいよ」

「いやぁ。精力がつく食いもんっちぅことで有名ながんに……」


「”精力”って……あの精力?」

「そういうことんなるかのぅ」


 途端に、コンスタンツェは、表情を真っ赤にして抗議する。


「まったく、あなたという人は! 無垢(むく)な大公女に何を教えちゃってるのよ。覚えちゃったじゃない」

「いやぁ別に女衆(おんなしょ)が食っても美味(うんめ)ぇがんに。単に元気がつくっちぅことで……」


 ルードヴィヒは、蔓をたどって芋の在りかに見当をつけると、土魔法で一気に掘り起こした。

 ズルズルと1メートルほどの長さの山芋がとれる。


 これを人力で掘り返すと大変な労力がかかるところであるが、そこは魔法使いならではのチートである。


 ついでなので、むかごも()っていく。


 ルードヴィヒは、これをストレージに収納すると、コンスタンツェに向かって言った。


「これも午餐に出してもらうすけ、せっかくだから、食ってみらっしゃい」


 だが、コンスタンツェは、「私は食べませんからね」と言うとソッポを向いてしまった。


 ルードヴィヒは、ちょっと可笑(おか)しくなった。


(こっけんことで怒るたぁ、まだ子供んとこもあるんがのぅ)


「大公女様。すっけんことで怒っとらんで行くぜ」

 ……と言うと、ルードヴィヒは、腕を差し出した。


 コンスタンツェは、少し頬をふくらませ、躊躇(ためら)いながらも、腕を組んだ。

お読みいただきありがとうございます。


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