第118話 シェフの試練 ~その1~(2)
そして、案内された席にも驚いた。そこは当主が座るようなお誕生席だった。
「私がここに座るのはいいのだけれど、あなたはどうするの?」
「隣じゃだめかぃのぅ?」
(ここに二人で座るって、まるで夫婦みたいじゃない!)
「なぜ、あなたが隣なの?」
「テーブルがでっこいすけ、隣ん方がしゃべりやすいろぅ」
(特に他意はないということ?……Σ(´Д`*)マヂィ?!……まあ、いいわ……)
「それもそうね。わかったわ」
結局、お誕生席にルードヴィヒとコンスタンツェが座り、コンスタンツェに一番近いところには、同行してきたシャペロンが、ルードヴィヒに一番近いところにはルディが座り、あとはキッチンスタッフ以外の使用人が好き好きで座ることになった。
そこにペーターが挨拶にやってきた。
顔色は真っ青で、不安の色は隠しきれていない。おそらくは、コンスタンツェに罵倒されることも覚悟しているのだろう。
「大公女様。謝罪が遅くなり、たいへん申し訳ございません。先日は人としてあってはならないことを大公女様に対して働いてしまいました。本当に心からお詫びを申し上げます」
「(*´Д`)=3ハァ・・・あなたといい、奥様といい、いつになったら前を向けるのかしら。
私はいいのです。やむを得ない事情だったということは理解したし、正当な裁きを受けたのだから。ここはもうお互いに水に流しましょう」
「もったいないお言葉いただき。恐悦至極に存じます。本日は、精いっぱいのおもてなしをさせていただきます」
「それは期待しているわ。よろしくね」
その後、コンスタンツェの目は、へカティアとアストリットに向けられた。二人とも大人の魅力にあふれた貴婦人といった感じであるが、使用人でないため、先ほどの出迎えにはいなかった。
二人は、コンスタンツェの視線に気づくと、席を立ち、挨拶にやってきた。
「初めまして大公女様。私、へカティア・フォン・アーメントと申します。夫に先立たれ独り身でございますので、遠い親戚ということで、ルードヴィヒに庇護者になってもらっております。以後、よろしくお願いいたします」
「これはご丁寧な挨拶。大儀に思います」
「初めまして大公女様。私、アストリット・フォン・アイゲンラウヒと申します。私も同じく未亡人ですので、遠い親戚のルードヴィヒに庇護者になってもらっております。以後、よろしくお願いいたします」
「丁寧な挨拶。大儀に思います。ところで、お二人とも社交界の名士と聞き及んでおりますが、彼は、庇護者として問題なくやれているのですか?」
「既に何回か公式な夜会のエスコートをしてもらいましたが、何の問題もございませんでした」とへカティアが答えた。
「そうですか。それは安心いたしました」
コンスタンツェは、会話を終わり、心の中でため息をついた。
(お二人とも、私など及びもつかない気品に溢れた貴婦人ね。私もあんなになれるのかしら……)
コンスタンツェは、小声でルードヴィヒに尋ねた。
「二人はああ言っていたけれど、あなたは本当に卒なくこなせていたの?」
「まあ、いちおう問題はねかったと思うども」
「そう。ならば今度私が夜会に出るときにも、エスコートをお願いできるかしら?」
「ええっ!おらがけぇ。婚約者でもねぇのに大丈夫けぇ。変に誤解されても、おらは知らねぇぜ」
「そんなことは、どうでもいいのよ」
「”どうでもいい”って、すっけんこたぁねぇろぅ」
「いいえ。いいのです」
「そこまで言うんだば、やっても構わねえども」
「それなら、約束よ。忘れないでね」
そして、料理が順次運ばれて来る。
まずは、前菜的なものとして……
■ブラウンマッシュルームのセゴビア風
■枝豆の塩ゆで
■こだわり自家製ドレッシングの農園サラダ
■フレンチフライ ~アンショワイヤードソース添え~
■兎のテリーヌ
■雉のもつ焼き(レバー、腎臓、心臓など)
メインの肉料理的なものとして……
■豆腐ハム挟みフライ
■雉のもも焼き
■雉の胸肉バルサミコ焼き、
■兎のパンチェッタ巻きロースト
■鹿肉のポワレ 黒ニンニクとスモモのソース
そして……
■サクラマスのクリームパスタ
■ナッツとドライフルーツのアイスクリーム
……と続く。
早速、皆が食べ始めるが、大公女宮の料理と毛色が違っているので、コンスタンツェは、興味津々で眺めている。
「大公女様。料理もええども、まずは、飲み物はどうすっかのぅ。近くのワイナリーでめっけた美味げなワインやハイボールなんかもあるども」
「そのハイボールというものは初めて聞くけれど何なのかしら?」
「ウィスキーを炭酸水で割ったカクテルだがんに」
「”ウィスキー”って?」
「いろいろ種類はあるども、今日んがんは、小麦から作った生命の水だすけ」
「はいっ? 生命の水って……あなた、簡単にいうけれど……とても貴重なものなのでは?」
「別に製法がわかっちまったら、どうっちぅこたねぇ。錬金術師ん衆が秘匿しとるもんだから、貴重に見えるだけだすけ」
「そうなのね。でも、どこで作られたものなの?」
「婆さが製法を指示してシオンの町で作っとるがぁてぇ。町じゃあ、皆普通に飲んどるすけ」
「じゃあ、そのハイボールというのをもらおうかしら。でも、生命の水も見てみたいわ」
「おぅ。わかったちゃ。ルディ、頼まぁ」
「Zu Befehl mein Gebieter」(おおせのままに。我が主様)
ルディは、琥珀色の液体が入った瓶を持ってきて、ルードヴィヒに手渡した。
かたわらで、慣れた手つきでハイボールの準備も始める。
ルードヴィヒには、グラスにウィスキーをワンフィンガー程度注ぐと、大きな丸い氷を入れ、コンスタンツェに手渡す。
丸い氷は、無詠唱の水魔法であらかじめ作ってあるものだ。
「こぃがウィスキーだすけ。こんまんまでも飲めるども、強ぇ酒だすけ、舐めるくらいの量から飲んでみらっしゃい」
コンスタンツェは、ウィスキーを興味深げに眺めている。
「なんという神秘的な色をしているのでしょう。本当に飲んでもいいのですか?」
「そりだすけ、ええがぁてぇ」
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