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第116話 愛人

 そして、コンスタンツェは、まずは応接室に通された。


 コンスタンツェは、案内された席に座り、部屋を見渡すと感想を()らした。


「この部屋の調度品も白木(しらき)のナチュラル・ブラウンで統一されているのね。貴族にしては地味だわね。

 この調度品は、塗装(とそう)もしていないのかしら?」

「いやぁ。おらぁあんましけばけばしたんが(きれ)ぇだすけ、自然素材で作った浸透性のオイルフィニッシュを()っているがぁよ。頻繁(ひんぱん)に塗り直さんばなんねぇすけ、ちっとばかし面倒だがのぅ」


「まあ。そうなのね。確かに、最近は、そういう自然志向も流行(はや)ってきているとは聞くけれど……ローゼンクランツ卿は新しいものが好きなのね」


「んにゃ。すっけんわけでもねぇども……ただ、この方がずっと手触りがええがぁだすけ、触ってみらっしゃい」

「そうなのね。では、失礼して……」


 コンスタンツェは、は、応接セットの机の表面を触ってみる。

 確かに、暖かで柔らかい木の(ぬく)もりが感じられる。それに、良く見ると控えめに自己主張する木目模様(もくめもよう)がナチュラルな美しさを主張しているのが見て取れた


(”三つ子の魂百まで”というけれど……田舎育ちの彼らしいわね……そういうの……嫌いじゃないけど……)


「なるほど、優しい手触りがして、気持ちいいですね。流行るのもわかる気がします」

「おぅ。そうだろぅ。大公女様こそ、新しいものが好きなんでねぇけぇ?」


「いえ。それほどでも……」


 ルードヴィヒは、コンスタンツェの向かい側の席に腰を下ろした。


 ルディは、コンスタンツェに説明をする。


「大公女様。ペパーミント、ローズヒップ、レモングラス、ジンジャーとカモミールをブレンドした初心者向けのハーブティーをご用意しましたので、試してみてください」


「あら。普通の紅茶はないの?」

「紅茶にはカフェインという神経を高ぶらせる成分が入っているので午前中のお茶にはお勧めしません」


「”カフェイン”なんて、初めて聞くわね」


 ルードヴィヒが答える。


「すっけながんは、()さが詳しいがぁだすけ、普通ん(しょ)は、あんま知らねえがぁろぅ」

「そうなのね。では、ハーブティーをいただくわ」


「かしこまりました。少々お待ちください。大公女様」


 ルディはハーブティーを入れる準備に向かって行った。


 ルディは、給仕用の車輪付きのワゴンを押してくると、程なくして、準備を終えた。


 ティーポットから、ハーブティーをカップに注ぐと、良い香りが部屋に広がる。コンスタンツェは、その香りに期待を膨らませているようだ。

 ルディは、これを流れるように完璧な所作で給仕した。


「では、大公女様。どうぞお召し上がりください」

「ありがとう。いただくわ」


 コンスタンツェは、ハーブティーを一口飲むと、満足そうに微笑(ほほえ)んだ。


「なるほど、香りも味も爽やかで美味しいですね」

「恐れ入ります。大公女様」


 ルードヴィヒが説明を咥える。


「ジンジャーは血流を良くして凝りをほぐす作用があるし、レモングラスやペパーミントは気分をリフレッシュさせるがぁよ。カモミールには気分を落ち着かせる作用があるしのぅ。ローズマリーは美容にも効果があるがんに。

 ハーブの種類と量を変えると味と効能が変わすけ、いろいろと楽しめるしのぅ」

「それは体に良さそうだし、いろいろ試してみたいわね」


 そこへ、マルグレットがお茶請けのスコーンを運んで来た。


(さっきも見かけたけど、あれが例のエルフね……確かに妖精のように美しいわね……)


 マルグレットは、優雅さの(ある)れる所作(しょさ)で、スコーンを給仕した。

 コンスタンツェは、それを見てすこしばかり感心した。


「大公女様。スコーンをお持ちしました。甘さ控えめにしておりますので、お好みによりジャムを添えてお召し上がりください。ブルーベリーとブラックベリーの2種類がございます」


 コンスタンツェは、マルグレットに直接確認することにする。


「ありがとう。ところで、あなたはがローゼンクランツ卿に競り落とされたというエルフさんですよね」

「確かに、私は、(ヘル)主人様(アイゲントューマー)に購入していただきました。今は、身も心も(ヘル)主人様(アイゲントューマー)の所有物です」


 そう言い放ったマルグレットは、誇らしげに胸を張っている。


(あの自信ありげな様子は……事実上の愛人ということなの……)


「端的に聞きますけど、あなたはローゼンクランツ卿の愛人なのかしら?」

「”愛人”の定義はわかりかねますが、(ヘル)主人様(アイゲントューマー)には、大公女様がお考えのようなことも含め、様々なご奉仕をさせいただいております」


("私が考えていること"って、何よ! なんだかエッチな女扱いされてない?)


 コンスタンツェは、ルードヴィヒの方に視線を向けて、答えを(うなが)した。


「確かに、マルグレットさんには、いろいろ世話にはなっとるのぅ」


「そういうことも含めてということかしら?」

「そういうことんなるかのぅ」


(言ったわね。いけしゃあしゃあと……それにしても……美形好きというか、エルフ好きなの?)


「そういえば、あなたの愛人と(もっぱ)らの(うわさ)のダークエルフさんの姿が見えないようだけれど。私に挨拶はしてくれないのかしら?」

「ああ。いまサンディーのおっぱいの時間だすけ、乳をやっとるがぁてぇ。ちっとばかし、待ってくれや」


「その”サンディー”というのは、あなたの子なの?」

「おぅ。もちろん、そうだがんに。もう可愛くてしかたねぇがぁてぇ」


(なによ。鼻の下を伸ばして、父親面(ちちおやづら)しちゃって!)


「私にもサンディーちゃんを見せてくれないかしら?」

「そらぁ構わねぇども。そんだば、スコーンを食ったら見に行くけぇ」


「ぜひお願いするわ」


 そこで、コンスタンツェは、本来の目的を果たすため、矛先(ほこさき)を収めた。


(今日は、愛人のことを追及するために来たわけじゃないのよ。愛人の一人が二人や三人になったって、どうということはないわ……)


 コンスタンツェは、気を取り直してスコーンをいただくことにした。


(これを食べてから、じっくりと見せてもらうことにするわ)


 スコーンを一口食べてみて、コンスタンツェはニッコリした。

 言われたとおり、甘さ控えめだが、この控えめな甘さもまた、健康志向のルードヴィヒの性格を表しているように思えた。


 続いて、ブルーベリーとブラックベリーのジャムも付けていただいてみた。

 ブラックベリーというものを食べるのは初めてだったが、なかなかにワイルドな味がして新鮮な感覚だ。


「このブラックベリーというのは、初めていただきましたけど、なかなかにワイルドな味がしますね」

「ああ。そらぁ、ここん()の庭にわさわさ生えてるがぁてぇ。適度に収穫しねぇと増え過ぎるすけ、気に入ったんなら少し持って帰るけぇ」


「そうねえ。では、帰りにいただいていこうかしら」

「おぅ。そうせぇばええ」

お読みいただきありがとうございます。


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