第115話 大公女の来訪(1)
ダニエラがアレクサンドラをローゼンクランツ新宅に連れて来てから一月ほどが経った。
アレクサンドラは、来たときは生後一月ほどであるから、現在はまだ生後二月であり、首が据わるまでもう少しである。
ルードヴィヒは、ダニエラに言われて子守の手伝いをしたが、抱っこも自然体でできるようになり、寝かしつけるこることなども上達していった。
それとともに、男親としての自覚も出てくる。
いまでは、暇を見つけてはアレクサンドラを抱っこして、キスしたり、頬ずりしたりすることが日課となっていた。髭が生えたまま頬ずりすると、アレクサンドラが泣いてしまうため、髭も朝と夕方の2回剃るほどである。
二人の存在は、殊更に公にはしていないが、巨乳のダニエラの存在はとにかく目立った。
妊娠すると女性は2カップ程度乳房が大きくなると言うが、ダニエラも同じで、ただでさえ大きい乳房が巨大化していた。
アウクトブルグの男性諸氏の間には、ローゼンクランツ新宅にとんでもない巨乳で美人の女性がいるという噂が駆け巡った。
ダークエルフは闇属性で禁忌だなどという男は誰もいなかった。男というものは、所詮は現金な存在なのである。
妖精シルキーのシルヴィは、一仕事した後、今日もお気に入りの木の枝に座り、道行く人々を眺めていた。これは、彼女の大好きな趣味である。
シルヴィは、日に日にローゼンクランツ新宅の周辺に不審人物が増えていることに気付いていた。これは、毎日、道行く人々を眺めている彼女だからこそ敏感にわかることである。
彼女は、耳をすまして彼らの会話を聞いてみた。
「おい。ここだよなあ。例の超巨乳美人がいるっていうお屋敷は?」
「そうなんだが、なかなかお屋敷からは出てこないらしいぜ」
「あり得ないほど大きいってのは、どうなんだ? ガセネタじゃないのか?」
「俺の友達の知り合いが見たらしいが、あながち嘘じゃないらしいぜ」
「しかし、それもまた聞きなんだろう。話半分と思っていた方が……ん!!!」
男たちは、突然に黙り込んだ。
噂のダニエラが門から出てきたのだ。
ナンダッテ━━━━━━(; ・`д・´)━━━━━━ッ!!!!!!
想像を超えた大きさのバストに驚き、男たちは口をポカンと開けて、茫然としている。
それが一人や二人ではないのだ。
その光景があまりに滑稽なので、シルヴィの笑顔がはじけた。
これが、ダニエラの住む村であれば、このような反応をした男は半殺しの目に遭うのだが、ここはアウクトブルグであり、そうもいかない。
当のダニエラは、来た当初は不快な思いもしていたが、今は相手にしないと割り切っていた。
が、実際のところは、後を付けられたりして、怖い思いをしたこともあるらしい。
ダニエラ本人は言い難そうだったので、シルヴィは、このことをルードヴィヒに相談した。
「主様、最近、不審な男たちが屋敷の周りをうろついているのですが……」
「ああ。あれけぇ。おらも薄々は気が付いとったんだども……」
「あの人たちはダニエラさんが目当てですよね。それに、後を付けられたりしたこともあるらしいですよ」
「本当けぇ。っつたく、本人はちっともすっけんこたぁ言わねぇがんに……大概あんでっこい乳が目当てんがぁろぅのぅ」
「あれでは、ダニエラさんが、可愛そうです」
「確かに困ったのぅ。なじょしたもんかぃのぅ……」
そのとき、ルードヴィヒの脳裏に、若干一名の暇人の姿が思い浮かんだ……。
カタリーナは、ルードヴィヒとエッチをするしないの口論をしてから、ローレンツに対する態度が軟化していた。
最初は、見つけ次第、厳しい言葉をかけて撃退していたのだが、最近はそれもなくなった。
そればかりか、屋敷の中で力仕事などがあれば、ローレンツを呼びつけてやらせる始末である。
「あんたは筋肉ぐらいしか、とりえがないんだからね」
……などと辛辣な言葉をかけたりしているのだが、見ようによっては照れ隠しに見えなくもない。
そんなある日。
カタリーナは、ルードヴィヒに、ローレンツを呼んでくるように言われた。
二人揃って、ルードヴィヒの部屋に向う。
「ローレンツさん。悪ぃのぅ。えっそけおら家の仕事を手伝ってもろうて」
「いや。そこは俺が好きでやってることだから」
「そんでのぅ。やってもらいてぇことがあるがぁども」
「何だ? この家に役立つことなら何でもやるぞ」
「そうけぇ。そんだば、屋敷の周りにダニエラ目当てでうろつく輩がおるすけ、時々見回って追っ払ってもらいてぇがぁども、どっけぇかのぅ?」
「そんなことなら、お安いご用さ。やらせてもらうぜ」
「そんじゃあ、ダニエラが出かけるときも付き添ってくれるとありがてぇんが、そっちもええかぃのぅ」
「ああ。構わねえぜ」
ルードヴィヒは、カタリーナにも聞いた。
「タリナ姐さも、そぃでええかぃのぅ? そもそも庭の力仕事はトネリコ友愛会ん衆がいればええし、屋敷の仕事もえっそけローレンツさんがいる必要もねぇろぅ」
「それを何であたしに聞くのさ?」
「いやぁタリナ姐さは、ローレンツさんの監督者みてぇなもんだすけ」
「なんだい。それは?」
「別に、ローレンツさんがやりたいならやればいいだろう」
……そう言うカタリーナの眉間には皺が寄っていた。
「ほう。そうけぇ。そんだば、そういうこって」
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