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第114話 狼の紐 ~その2~(2)

 いよいよ審判員が開始の合図をする。


 両者はいつでも突進できるよう、膝の力を抜き、少しだけ(かが)んだ姿勢で準備している。


「では……始め!」


 剣術の基本は体の中心線の取り合いと言える。

 中心線をとらえない剣撃は威力も半減し、仮に相手に傷を負わせても致命傷とはならない。攻撃後は大きな隙ができてしまうため、その(すき)に逆襲されればかえってこちらが致命傷を負いかねない。


 互いに相手の実力を(あなど)ったりしていない二人は、まずは剣の切っ先を合わせ、相手の様子を見つつ、中心線の取り合いを始めた。


(こらぁなかなかできるのぅ……やっぱダリ兄さ並みだ……)


 ルードヴィヒの方が先に仕掛けた、右手の剣に殺気を込めてひときわ大きく振りかぶると、エーベルハルト中佐は剣を引いて防御に備えようとした。その引くタイミングに合わせ、左手の剣でエーベルハルト中佐の剣を大きく左側に弾く。


 その隙に、懐に潜り込む……。

 ……が、その矢先、エーベルハルト中佐は左足の蹴りを放った。


 ルードヴィヒは(すんで)の所でこれを察知し、後退してこれを()ける。


(おっと、危ねぇ、危ねぇ……あんな綺麗な顔をしといて、喧嘩殺法たぁ、人は見かけによらんもんだのぅ……)


 そこで、再び仕切り直しだ。


 そこでルードヴィヒはエーベルハルト中佐の体制を少し崩したところで、蹴りを放ったが、同じく蹴りで対抗され、足で止められた。


 このままでは決着がつきそうにない。


(こらぁちっとばかし、甘くみとったかのぅ……)


 実は、ルードヴィヒは、まだ闘気(プラーナ)による身体能力強化を図っておらず、素の状態で戦っていた。

 見たところ、エーベルハルト中佐は、闘気(プラーナ)を込めてはいるが、まだ全力とは思えない。


(こらぁ闘気(プラーナ)を使わんば、失礼っちぅもんだぃのぅ……)


 そうルードヴィヒが決断した直後、コンスタンツェから水が入った。


「二人とも一時中断よ。これはローゼンクランツ卿の実力を測る入団試験なのよ。最後まで勝敗を決める必要があるのかしら?」


 これにより、二人とも剣を収めた。


 エーベルハルト中佐は片膝を折り、恭順の意を示しながら言った。


「大公女様。申し訳ございません。柄にもなく熱くなってしまった私の不徳の致すところでございます。ローゼンクランツ卿の実力は、申し分なく、入団に必要なレベルを超えていることは明らかでございます」


「そう。ならば、試合は、これで終わりということで、いいかしら?」

御意(ぎょい)


 そして、ルードヴィヒに向かって言った。


「ローゼンクランツ卿も疲れたでしょう。私が作った軽食を用意してあるから、こちらに来ておあがりなさい」

「おぅ。えっつぉけ(いつも)済まねぇのぅ」


「水臭いわよ、今更……」


 この二人の親し気なやりとりを聞いたRote(ロゥテ) Ritter(リッター)(赤の騎士団)の騎士の間では、様々な憶測が乱れ飛ぶことになった。


     ◆


 騎士団の駐屯地から大公女宮へと戻ったコンスタンツェは、一息つくと、(ひと)()ちた。


「なんだか大変だったわね。でも、これで細い紐くらいは狼に付けられたかしら……」


 その後、父である大公フリードリヒⅡ世の居室に赴き、ルードヴィヒがRote(ロゥテ) Ritter(リッター)(赤の騎士団)に入団したことを報告した。


 だが、父は厳しいことを言う。


「その旨は承知した。だが、おまえも訓練しているのだから、色香を使ってもう少し何とかならないのか?」

「そんな……お父様。訓練といいましても、私はDer(デア) Geheim(ゲハイム)dienst(ディンスト) des(デス) Großherzog(グロスヘルツォグ)(大公の秘密機関)のネズミ(スリーパー)とは違いますのよ」


「もちろん、それはわかっておる」


「私の処女を捧げろとでもおっしゃるのですか? それならば、私にも覚悟がありますが……」

「バカな……戯言(ざれごと)を言うでない……」


 だが、そこまで言って、大公は、コンスタンツェの目が真剣であることに気付いた。


「まさか……おまえ……本気で()れたとでも……」


 だが、コンスタンツェは、これを無視して続けた。


「お父様の命令とあれば、仕方ありません。私は、そのことも視野に入れて、ローゼンクランツ卿の籠絡(ろうらく)に当たりますから。

 報告することは以上ですので、私は失礼いたします」


 コンスタンツェは、そう言い放つと、きっぱりとした様子で退室していく。


 その後ろ姿に、大公は(あわ)てて声をかけた。


「待て。()は、その様なことを命令しておらぬぞ……」


 しかし、その声に、コンスタンツェが振り返ることはなかった。


 大公は、(あきら)め顔で(つぶや)いた。


「あの気の小さなコンスタンツェに、ここまで言わせるとは……ローゼンクランツ卿とは、魔性(ましょう)の男だな……まあ……その母に()せられ続けている予も予だがな……」

お読みいただきありがとうございます。


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