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第111話 カール大公子の望み(1)

 大公フリードリヒⅡ世の嫡出子で3男カールは、コンスタンツェはよりも一つ年下の14歳である。


 彼は、7歳のときに熱病に(かか)った。必死の看病の結果、命はとりとめたものの、耳に障害が残り、難聴になってしまった。

 当初は、メガホンのような形をした補聴器を使えばかろうじて会話はできていたものの、障害は次第に悪化し、現在はほとんど聞こえない状況である。


 コンスタンツェは、弟に深く同情し、これを我が身のことのように悲しんだ。そして、メイドそっちのけで弟の世話をするようになった。

 現在、カールは、コンスタンツェとともに大公女宮に住んでいる。


 カールは7歳になるまでは、学業に秀でた才能を示し、”神童”と称賛されていた。しかし、難聴の障害を抱えると、周囲からは見向きもされなくなった。

 障害を抱えたカールは外出することもままならず、読書や絵を描くといったインドアの活動しかやることがなくなった。


 周囲の無関心をよそに、気がつけば、カールの知識量は大学(アカデミー)のレベルを遥かに越えるものとなっていた。だが、このことを知っているのはコンスタンツェぐらいのものだった。


 絵画についても、異常な才能を示した。

 彼は、一度目にしたものを、細部にいたるまで忠実に絵画で再現することができた。これは”サヴァン症候群”といわれ、発達障害等のある人が、その障害とは対照的に、記憶力、芸術などに優れた能力・偉才を示すことをいう。


 絵画のメジャーなモチーフに裸体像があるが、カールはルードヴィヒの体が古代彫刻のように素晴らしいという話をコンスタンツェから教えられ、ぜひ描いてみたいと思っていた。


 障害を抱えたカールは、次期大公レースからは、論外と見られており、今年成人を迎えたにもかかわらず、慣例となっている騎士団の設立も見送られていた。

 そんな差別も、障害を抱えた身としては、仕方のないことだとカールは諦めていた。それに伴い、自分の将来についても、悲観的に見るようになってきていた。

 コンスタンツェの”昼食の作り過ぎ”は、相変わらず続いていた。

 もともとは、”男をつかむなら胃袋をつかめ”作戦として始めたことではあるが、これは精神的なものであり、実は彼女は、これに対する具体的な見返りというものは全く期待していなかった。

 生来世話好きの彼女は、昼食の世話をすることだけで、十分な喜びを得ており、作戦にその先があるという想定はないのであった。


 その意味では、目的と手段が、いつの間にか逆転してしまった感があるが、コンスタンツェに限らず、あるプロジェクトを進める場合に、そういうことに(おちい)るケースはよく見られる。


 そんなコンスタンツェであったが、ある日、ルードヴィヒに言われた。


「大公女様。えっそけお世話になっとるすけ、お礼がしてぇがぁども、(なん)かあるけぇ?」


「はあ? お礼って?」


 もともと見返りなど微塵(みじん)も期待していなかったコンスタンツェには、ピンとこなかった。


「いや。だすけ、えっそけ昼(まんま)もらったり、服装を直してもらったりしとるすけ」

「ああ。そういうこと……」


(そう言われてもなあ……)


 が、コンスタンツェは、はたと気づいてしまった。

 ルードヴィヒの大胸筋を見て以来、彼の裸を見たいという女の情念が燃え盛り続けていることを……。


(アレとコレとは別物だと思っていたのだけれど……なんとかならないかな?)


 そして、彼女は、解決策を見出すべく、自慢のgrey(グレイ) matter(マター)(灰色の脳細胞)を必死に働かせる……。


(そうだ! カールがローゼンクランツ卿の裸体画を描きたいと言っていたわね……それをダシに使えば……)


「ならば、あなたの都合の良いときでいいから、大公女宮に来てくれるかしら?」


「おらっ? 大公女宮に? 行って(なん)するがぁ?」

「それは……ここでは言えないわ。来てからお願いするから……」


「んーん? どっけなことでぇ?」

「別に難しいことではないわ。あなたは身一つで来てもらえればいいから……」


「そんじゃあ、わかったっちゃ」

「じゃあ、お願いね」

お読みいただきありがとうございます。


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