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第110話 史上最大の作戦 ~その2~(1)

「寝不足か……大公女様。最近は夜はちゃんと眠れてるけぇ?」

「確かに、少し寝不足気味かもしれないわ」


(作戦が心配で眠れないのよ。あなたのせいなんだからね!)


「なんでぇ。何か心配事でもあるんけぇ?」


(よりにもよって、それを本人が聞きますかぁ!)


 コンスタンツェは、少しムカッとしたが、平静を保って答える。


「ちょっとある計画を考えていて、それが上手くいくかどうか心配で……」

「なんでぇ。すっけんことけぇ。大公女様の計画なら大丈夫に決まってるすけ、心配はいらねぇ」


(言ったわね。責任をとってもらいますからね)


「そうかしら……でも、準備不足なところもあって……」

「できることをやったんなら、神様も(わり)ぃようにはしねぇさ。”人事を尽くして天命を待つ”だっちゃ」


「そうね。そう考えるしかないわね」

「そんだば、安心したんでねぇんけぇ。少しでも眠ったらどうでぇ?」


(ここは流れでしょうがないわね……)


「では、そうさせてもらうわ」


「そんだども、いちおう治癒(ヒール)の魔法はかけとくかぃのぅ」

 ……と言うなり、ルードヴィヒは、治癒(ヒール)の魔法を無詠唱で発動した。


 コンスタンツェの周囲に神々(こうごう)しい光が満ち、金色の粒子が舞飛んでいる。

 彼女は、何ともいえない安らぎを感じ、気分が(いや)された。


 コンスタンツェは、目を閉じた。

 しかし、ルードヴィヒに見られていると思うと眠れるはずもない。万が一、本当に眠っていびきでもかいた日には女として一生の恥だ。


 ……と思ってはみたものの、治癒(ヒール)の癒しの力は強力だった。

 コンスタンツェは、意に反して、とろとろと微睡(まどろ)んでしまった。 


 ルードヴィヒも、しばらくコンスタンツェの顔を見守っていたが、何とも言えない甘い匂いを感じ、ハッとした。

 室内であるにも(かかわ)わらず、そよ風が吹いて、コンスタンツェの体の匂いを運んできたのだ。それは、Kölnisches(ケーニッシェス) Wasser(ヴァッサー)(ケルンの水:コロン)のいい香りとミックスされ、リーゼロッテのときとはまた違った、この年頃の少女が背伸びしたちょっと大人な色香のようなものを感じさせた。


 先日のリーゼロッテといい、風精霊・シルフというのは、悪戯(いらずら)好きのようだ。特に、恋愛方面に関して……。


 ふと彼女を見ると、いつもの彼女にしてはあり得ない無防備な顔をしていて、そのギャップに可愛らしさを見出して、思わず近づいて見入ってしまう。

 ルードヴィヒは、ちょっとした悪戯心に()られ、更に顔を近づけると、彼女の唇に、チュッと触れるだけのキスをした。


(きゃぁぁぁぁぁっ! キスされちゃったぁぁぁっ!)


 実はその直前、コンスタンツェは、目覚めていた。

 やはり、女が男のふしだらな視線を感じる能力があるというのは真実のようだ。


 結局、コンスタンツェは、どうしたらよいのわからずに寝たふりを続け、授業時間終了の鐘が鳴った。彼女は、起きたふりをすると、何ごともなかったように言った。


「横になったらだいぶ楽になったわ。次の授業は出席しようかしら」

「大公女様がそう言うなら、そうすっかのぅ。また、抱っこしていくけぇ?」


「いえ。大丈夫よ。歩いていけるわ」


 コンスタンツェは、ベッドから起き上がると立ち上がった。


「そんだども、ちっとばかし心配だすけ、おらの手につかまっとけや」

「そう。あなたがそう言うなら、そうさせてもらうわ」


(これはラッキーね。腕を組むのはリーゼロッテだけの特権じゃないんだからね)


 コンスタンツェは、嬉しさを悟られないように、さりげなくルードヴィヒと腕を組んだ。

 そのまま教室へと移動する。

 腕を組みながら戻ってきた二人を見て、再び教室は騒めいた。


「ローゼンクランツ卿のやつ。ツェルター嬢とミヒャエルのみならず大公女様まで……三又の四角関係かよ……」


 そんな声が聞こえる。


(ふん、そんなこと……私は、その四角の頂点になってみせるわ)


 そして、今、授業が終わろうとしていた。これが終われば昼休みである。

 コンスタンツェは、時計をじっと眺め、カウントダウンを始めた。


(5……4……3……2……1……)


 リンゴ~ン


 授業終了の鐘が鳴り、正午となった。

お読みいただきありがとうございます。


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