第109話 史上最大の作戦 ~その1~(2)
「ならばローゼンクランツ卿に頼めるかしら?」
「おぅ。わかったっちゃ」
そう言うと、ルードヴィヒは、コンスタンツェをひょいと持ち上げ、お姫様抱っこをした。
「ひやっ!」
コンスタンツェは驚いて声を上げた。
いきなりの展開に、教室中が騒めいている。
「ちょっと、ローゼンクランツ卿。いったい何を……」
「何言ってるがぁだ。難儀くて、眩暈もするがぁろぅ。歩かせて階段から落っこちでもしたら、容易じゃねぇことんなるすけ」
「そんな大袈裟なぁ……」
「そこは、遠慮するなてぇ」
「はあ……」
そして……。
教室を出ていくとき、リーゼロッテと一瞬視線が合った。
その冷たく刺すような視線が痛い。
(いい気味よ。いつもの私の気持ちが少しはわかったでしょう……)
コンスタンツェは、少しばかりの優越感を覚えた。
ルードヴィヒは、コンスタンツェを軽々と運んでいるように見えるが、彼女はふと不安になった。今日の作戦に向けたストレスで、ここ2、3日は過食ぎみとなり、少々太ってしまったからだ。
「あのう……私、重くないかしら……」
だが、ルードヴィヒは何ということはないと言った感じで答える。
「すっけなもん、屁でもねぇ。女衆なんて羽みてぇに軽ぃもんでぇ」
言い方からするに、強がっている感じはない。
(私の杞憂だったようね……でも、よほど鍛えているのね……)
そして保健室へ着いた。
お姫様抱っこで両手が塞がっているだけに、一度降ろされるかと思ったのだが、ドアは、自動ドアのようにパタリと開いた。
「あれっ! 誰かいるのかしら?」
「んにゃ、おらが念動力の魔法で開けたんでぇ」
「えっ!」
(聞いたことのない魔法なんだけど……かなりの難易度の魔法なんじゃあ……それをいとも簡単に……)
保健室に入るが、誰もいない。
「おらっ! 先生はいねぇんけぇ」
「そのようね……」
「しゃあねぇのぅ……」
そう言うと、ルードヴィヒは、保健室のベッドまでコンスタンツェを運び、ベッドへと寝かせた。
二人きりというシチュエーションを狙っておきながら、コンスタンツェは、一瞬不安になった。
誰もいない密室、ベッド、そして今、コンスタンツェはそこに寝かされるとき、ルードヴィヒがそれに覆い被さるような体制になっていた。
(どうしよう! このまま彼に覆い被されて、押さえつけられちゃったら、私……抵抗できないかも……)
あらぬことが、コンスタンツェの頭をよぎる。
しかし、当然、ルードヴィヒに、そんなことをする気はない。
なにしろコンスタンツェは具合が悪いと言っているのだ、そこにつけ込むようなルードヴィヒではない。
結局、想像したようなことは起きず、ホッとしたのも束の間……。
ルードヴィヒは、コンスタンツェの顔に自分の顔を近づけてくるではないか。
(ああん。私、キスされちゃうの……)
コンスタンツェは覚悟を決め、そっと目をつぶった。
だが、彼女の額に何かがコツンと当たった。それはルードヴィヒの額だった。彼は、熱を測っただけだったのだ。
またも、あらぬことを考えてしまっていたコンスタンツェは恥じ入った。
「う~ん。熱はねぇみてぇだのぅ。息苦しくて、眩暈がするっちぅことは……ん-ーん?」
コンスタンツェは、ちょっとばかり罪悪感を覚えた。
なにしろ、仮病なのだから、原因がわかるはずはない。
「ちょっと疲れただけだと思うの。少し寝れば治るわ」
「そんだば、一人で眠れるけぇ?」
「密室で一人なんてちょっと怖いわ。あなたも一緒にいてよ」
「おぅ。わかったっちゃ」
「ありがとう」
(こうして弱みをみせて、男に頼るのもアピールの方法なのよ……by 恋愛小説)
ルードヴィヒは、近くからベッドの脇に椅子を持ってくると、これに座り、長期戦の体制に入った。
そして、コンスタンツェの顔に見入っている。意識すればするほど、その視線を熱く感じる。
(いやん。どういうこと? もしかして、お化粧が崩れちゃってるとか……まさか、見惚れてるわけじゃないわよね……)
「んーん? 顔色も悪くねぇしのぅ……何が原因なんだろか……」
(な~んだ。こんどは顔色かぁ……)
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