第109話 史上最大の作戦 ~その1~(1)
今日、コンスタンツェは、自らの人生史上、最大の作戦を実行に移すことにしていた。
今日は月曜日。
ヒルデの占いを信じ、週明け初日から早速実行に移すことにしたのだ。
今、まだ登校時間まで1時間あるが、最終確認をする。
ヴァールブルク令嬢が確認リストを読み上げ、コンスタンツェが指差し確認する。
彼女もコンスタンツェの作戦を手伝うため、早朝にも拘わらず、呼びだしをくらっていた。彼女にしてみれば、いい迷惑であるが、立場上、それは言えない。
「お化粧」
「よし」
「髪型」
「よし」
「Kölnisches Wasser」(ケルンの水:コロン)
「よし」
「ワンピース」
「よし」
「靴」
「よし」
「事前根回し」
「だいたいよし」
「実弾」
「よし」
「予備の実弾」
「よし」
「心の準備」
「……よくないっ 。゜・(>Д<)・゜。グスン」
(ダメだ。考えただけで心臓がドキドキするぅ……)
ヴァールブルク令嬢が、あきれ顔で言う。
「大公女様。今からそんなことで、どうされるのです。作戦の決行時刻は正午なのですよ」
「わかってるわよ。でも、考えただけで、胸がドキドキして……」
「占いでは、今週の早いうちということだったのでしょう。であれば明日に延期しても……」
「ダメよ。一日伸ばして、成功確率が下がったら、どうするのよ」
ヴァールブルク令嬢は、言い返せなかった。
(ダメだ、これは。平静な心理状態ではない……)
コンスタンツェは、ヴァールブルク令嬢に付き添われて、なんとか学園に登校した。
肉体的にはともかく、心配のし過ぎで、心理的にはクタクタの状態だった。
ルードヴィヒが朝の挨拶をしてきた。
「おはようございます。大公女様」
「おはよう。ローゼンクランツ卿」
そして、コンスタンツェは、いつも通りに席に座った。
ここまでは、いつもの日常のことである。
だが、コンスタンツェは、正午の作戦決行を前に、ヒルデから教わった”おまじない”を実行に移すことに決めていた。
“善は急げ”である。
早速、隣の席のルードヴィヒを見つめる。
数秒して、彼が気づき、振り返った。
(今よ。彼と目を合わすのよ)
ルードヴィヒと目を合わせ、カウントを始める。
(1……)
だが、コンスタンツェは、気恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。彼女の頬は、ほんのりと赤らんでいる。
(ダメだ。意識すればするほど、恥ずかしい……こんな時は、深呼吸よ……息を整えて……)
「スーッ ハーッ スーッ ハーッ スーッ ハーッ……」
その様子に、ルードヴィヒは違和感を覚えていた。
(大公女様は、何やってるがぁだ? 難儀ぃがぁろぅか?)
息を整えたコンスタンツェは、再チャレンジすべく、ルードヴィヒを再び見つめる。
彼は、またも振り返ってくれた。
目を合わせてカウントを始める。
(1……2……)
しかし、またもやコンスタンツェは、目を逸らしてしまった。
(3秒って、なんて長いの。そんなのあっという間だと思っていたのに……)
たかが3秒、されど3秒。
再三にわたりチャレンジするが、コンスタンツェは、3秒の壁を乗り越えらずにいた。
そして、授業の間の小休憩のときに、ついにルードヴィヒに言われてしまった。
「大公女様。朝から様子がいねえみてぇだども、難儀ぃがぁか?そんだば、無理しねぇで保健室へ行った方がええんでねぇけぇ?」
「いや……そんなことは……」
だが、コンスタンツェは、閃いてしまった。
(このまま保健室へ行って二人っきりに……そして……)
「……あるかもしれないわ。ちょっと息苦しいかも、そう思うとちょっと眩暈も……」
「そらぁおごった。今すぐ保健室に行くぜ。おらが連れてってやるすけ」
だが、当然、ヴァールブルク令嬢が止めに入る。
「何を言っている。それは、私の役目だ。部外者が口を出すんじゃない」
思惑が外れそうになったコンスタンツェは焦った。
(何言っちゃってるのよ。空気を読みなさいよ。空気を!……もう、しょうがないわね……)
「ヴァールブルク嬢。その言い方は酷いんじゃないかしら。彼も善意で言ってくれているのだから……」
「しかし……年頃の男女が二人きりというのも……」
「大丈夫よ。保健室には担当の教諭がいるじゃない」
「はあ。それは……そうなのですが……」
(嘘よ。この時間。保険担当の教諭は、まだ出勤してないはず……)
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