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第107話 東の美魔女(1)

 コンスタンツェは、星占いに行き詰るとあれこれ思い悩んだすえに、開き直った。


(そうよ! ”パンがなければケーキを食べればいいじゃない”、もとい”星占いがダメならタロット占いがあるじゃない”)


 そして、コンスタンツェは、Rote(ロゥテ) Ritter(リッター)(赤の騎士団)の情報将校に、新しく腕のいいタロット占い師を探すよう命じた。


 これまでも懇意にしているタロット占い師はいたが、皆が皆、衒学的(げんがくてき)でもっともらしいことを言うものの、肝心の知りたいことについては、ぼかしたことばかり言う。

 これは占い師たちの技術でもあるのだが、観察眼の鋭い彼女は、これが見え透いて見え、うんざりしていたのだ。


 何日かして、コンスタンツェのもとに報告がもたらされた。


「庶民街の東の街区に“Schönheit(シェーンハイト)shexe(ヘクセ) des(デス) Ostens(オステン)(東の美魔女)”という二つ名の評判のいいタロット占い師がいるようです」


「そう。名前は少々胡散臭(うさんくさ)いけれども腕がいいのなら気にしないわ。すぐにでも、大公女宮に招きなさい」

「それが……どうも営業場所が転々と移動していて、神出鬼没のようでして、探すのが一苦労なのですが……」


「そんなこと、たいしたことではないわ。労力は問わないから。騎士団の総力を上げて人海戦術で探しなさい!」

御意(ぎょい)

 悪魔と残り三人となってしまった魔女たちは、これ以上小出しにせず、ヒルデと最終決戦をすることを決意した。

 そして、深夜のアウクトブルグの城壁の上を(ほうき)に乗って飛んで越えると町に侵入した。


 それは、人知れずひっそりと行われたはずであったが、これに気付いた人物がいた。


 ルードヴィヒである。


 動物の中でも、小鳥やリスなどの小動物たちは邪悪な気配に敏感である。ローゼンクランツ新宅の庭に棲む小動物たちは悪魔の気配に(おび)え、騒々しい声を上げた。

 それと時を同じくして、ルードヴィヒも、悪魔の気配を感じ取っていた。そして、その気配を追うと、中央公園の中にある森林の中に消えていった。

 先日の魔女たちといい、この公園の深い森は、邪悪な者の隠れ場所としては最適なようだ


「こらぁどうすっかのぅ……」


 迷ったルードヴィヒは、手元にある呼び鈴をチリンと鳴らした。

 まるで、そこで待機していたかのように、間髪を容れず、部屋の扉がトントンとノックされる。


「おぅ。入れや」

「お呼びでしょうか。我が主様(マイン ゲビーター)

 とすました顔でルディが用向きを尋ねた。


「ルディも今の気配は感じたけぇ」

「もちろんでございます」


「どうしたもんかのぅ」

「悪い目は早めに()んでおいた方が後々面倒はないかと……」


「まあ……何をしてぇんかわからんども、悪魔っちぅからには(ろく)なことを考えとらんろぅしのぅ。今のうちにやっちまうか……」

「微力ながら、私もご助力させていただきます」


「おぅ頼まぁ」

Zu(ツゥ) Befehl(ベフィール) mein(マイン) Gebieter(ゲビーター)」(おおせのままに。我が(あるじ)様)


「そんだば、行くけぇ」と言うと、ルードヴィヒとルディは中央公園へと転移魔法で移動した。


 離れたところから千里眼(クレヤボヤンス)の魔法で様子を探ると、こちらには気づいていないようだ。

 ここは、先手必勝とルードヴィヒは判断した。


「おらぁこっから速攻で悪魔を倒すすけ、ルディは魔女の方を頼めるけぇ」

「承知いたしました」


「そんだば、行くぜぇ!」


 ルードヴィヒとルディは、疾風のように悪魔と魔女たちに突進した。

 悪魔が気づいたときには、ルードヴィヒは、既に聖なる投槍(ホ-リー ジャベリン)を6発同時に発動していた。6本全てが悪魔の体を(つらぬ)き、「グォッォォォォッ!」という不気味な悲鳴をあげて悪魔はあっというまに黒い霧となって雲散霧消した。


 一方、ルディの方も、突然の攻撃に茫然(ぼうぜん)としている魔女たちに詠唱の(いとま)を与えず、素早く当て身を食らわすと、その意識を奪い、更には縄で拘束(こうそく)した。


「悪魔はてぇしたことなかったが、この魔女たちはどうしたもんかぃのぅ」

「主人の悪魔を失った魔女たちは、力の源泉を断たれたわけですから、やがてはその力を失っていくはずではありますが……」


「おそらく、これまで数々の悪事を働いとると思うども、これを立証して裁きにかけるんも無理だろうのぅ」

「魔女は巧妙ですから、おそらくは……」


「かといって、殺すんも気が引けるしのぅ」


 そのとき、ルードヴィヒとルディは新たなる気配を感じ、同時に顔を見合わせた。

 すぐさま戦闘態勢に入る。


 そこに現れたのは、ヒルデだった。

 彼女もまた、悪魔の気配を感じ、最終決戦に応じる覚悟を決めて、この場に来ていたのだ。


 二人の刺すような鋭い殺気を感じ、ヒルデはたじろいだ。


「ちょっと、待っておくれよ。私は、さっきの悪魔たちの敵だ。敵の敵は味方だと言うだろう」

「そんにしても、おめぇ魔女だろう。魔女がなんで悪魔と敵対する? 方便でそう言ってるだけでねぇんけぇ?」


 ヒルデは、軽くため息をついた。


「わかったよ。こうなった経緯(いきさつ)をすべて話すから……かなり長くなるけど、聞いてくれるかい」

「そんだば、聞くだけはきいてやるっちゃ」


 二人は戦闘態勢を解いた。だが、いつでも復帰できるよう、油断はしていない。


 そして……ヒルデは、ここに至った経緯の全てを語った。

お読みいただきありがとうございます。


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