第104話 ドロテーの来訪(2)
そして日曜日。
実は、カミラが善行を積むため毎週奉仕活動へ通っているので、ルードヴィヒは、一緒に行くことにする。
「旦那様が奉仕活動なんて、珍しいですね」
「まあ、おらもたまには善行を積んどかんばのぅ」
そして、現場に着くと、カミラは慣れた感じで、活動に参加していった。
「あんた。遅かったじゃない」とドロテーがやって来て苦情を言う。
「まだ、始まったばっかしだろ……そらぁともかく……エルレンマイヤー先生はっと……」
ヴィートゥス・エルレンマイヤーは、司祭という高い地位にありながら、毎週、奉仕活動のときに、手ずから怪我人の治療などに当たっていることは、有名な話だった。
「おぅ。いたいた……」
ルードヴィヒは、エルレンマイヤーに歩み寄ると、軽い感じで話しかけた。
「エルレンマイヤー先生。久しぶりだのう。挨拶にも来んで失礼しとったども、変わりねぇけぇ」
エルレンマイヤーは、ルードヴィヒの顔を見ると嬉しそうに破顔して笑みを浮かべた。
「ルードヴィヒ君じゃないか。私は相変わらず元気だよ。君もいろいろと派手にやっているようじゃないか」
「いやぁ、そんなこたぁ……」
「ところで、旧ペンドラゴン邸に住んでいるんだろう。あそこにはかなり高位の悪魔が住み着いていたはずだが、あれはどうなったんだ?」
「ああ。あらぁ、おらが退治したすけ」
(まさか……私でも敵わなかったあいつをか?)
「君はさも簡単そうに言うが、かなり苦戦したんじゃないのか?」
「いやぁ、聖縛で拘束して、聖なる投槍を6発同時にぶち込んだら、あっさり逝っちまった。おらぁ追撃の準備までしとったのに、損したがぁてぇ」
「ははっ。そうなのか……」
(なんてことだ……ここは笑うしかないじゃないか……)
「そういえば、一緒にいた少女の霊はどうした? 一緒に退治してしまったのか?」
「ああ。あらぁ保護したっちぅか……とにかく、悪いようにはしてねぇすけ」
(黒魔術のことがバレるわけにはいかんしのぅ。まさか、そこで奉仕活動をしとるとも言えねぇし……)
「そうか……それならば、良かった。
ところで、そちらのお嬢さんは?」
「ご挨拶が遅れました。私、ルードヴィヒの姉のドロテーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ルードヴィヒ君の姉君でしたか、こちらこそよろしく」
「それで……先日、合唱団のコンサートを聞かせていただいたのですが、とても素晴らしいかったです。特にラファエルさんのソロは絶品でしたわ」
「そうですか。それは本人も喜ぶと思います。ぜひ本人に直接言ってやってください。今、呼びますから。
ラファエル君! ちょっとここまで来てくれないか?」
(ええっ! それは……まだ、心の準備が……)
ラファエルは、それに気づくと、元気な少年らしく、走ってやって来た。
「義父様。どうかしましたか?」
「こちらの女性がお前の歌が絶品だと褒めてくださったのだ」
「そうでしたか……」と言うラファエルは、少年らしく、はにかんでいる。
「私、ドロテー・フォン・ローゼンクランツと申します。ラファエルさんの歌は絶品でしたわ。周りにいた方々も皆さんが感動されていて、注目の的でしたのよ」
「そんな……僕なんか、まだまだです……」というラファエルは、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
\_ ドキュンヽ(´゜ω゜ヽ` )!o〇O(カワイイ・・・!)
その瞬間、ドロテーのハートは再び見事に撃沈された。
(近くで見ると、その美しさが際立つわぁ……この世のものとは、とても信じられない……)
「それじゃあ。これからも頑張ってくださいね」
と言うと、ドロテーは握手をすべく、手を差し出した。
ところが、ラファエルは、これをHandkussと思い、手に口づけをしてしまう。子供にしては、ませている。
(๑ÖㅁÖ๑)キュ━━━━━ン♥ฺ
意表を突かれたドロテーは、胸がときめいてしまい、顔から火の出る思いを抑えられなかった。
(もう一生、この手は洗わないわ!)
それを他所に、ラファエルの興味は、その隣にいる美貌の少年に移っていた。
(もしかして……)
それに気づいたエルレンマイヤーが、ルードヴィヒを紹介する。
「ラファエル。こちらがローゼンクランツ卿ルードヴィヒ君だ。おまえも会いたがっていただろう」
「やっぱり。僕、ずっと会いたかったんです。あのう……握手していただいても……」
「おぅ。すっけんことなら、いくらでもええすけ」
と言うと、ルードヴィヒは手を差し出した。
ラファエルも手を差し出し、ガッチリと握手をした。
ラファエルは、感動で目をキラキラさせている。
「うわぁ。ありがとうございます。握力も凄いんですね」
「そうけぇ。そっけ強くしたつもりはねぇがぁども」
「そんな軽くやったのに、あんなに力強いなんて……凄いです」
「そうかぃのぅ……」
エルレンマイヤーは、更に煽るようなことを言う。
「先ほど聞いたんだが、旧ペンドラゴン邸に住み着いていた悪魔も彼が退治したそうだよ」
「ええっ! そうなんですか! どうやって倒されたんですか?」
「いやぁ、聖縛で拘束して、聖なる投槍を6発同時にぶち込んだら、あっさり逝っちまったがぁてぇ」
「ええっ! 6発同時っていうことは、無詠唱ですよね?」
「そらぁ、あたりめぇでねぇけぇ。詠唱していちゃあ複数同時発動はできねぇすけ」
「無詠唱で6発同時なんて聞いたことがありませんよ。そうですよね。義父様」
「確かにな。幻の大賢者様でもできるかどうか怪しいものだ」
「わあ……凄いなあ……憧れちゃうなあ……」
そこでエルレンマイヤーは、話題を転じた。
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