第103話 ショタコン
ブルーノの娘のドロテー・フォン・ローゼンクランツは、今日も自室の窓から、外を眺めていた。
彼女の部屋は、大通りに面しており、馬車などが行き交う様子がよく見える。
今日も一台の馬車が彼女の部屋の前を通り過ぎる。
彼女は、目を皿のようにして注目した。
彼女のお目当ては、従僕である。
彼らは、馬車と並走し障害物を取り除く仕事をしており、半ズボンにストッキングの服装が特徴であるが、通例、未婚の男性が務める。未成年の見習いが務めることもある。
実は、ドロテーは、ペドフィリア(小児性愛)の嗜好を持っていた。
ペドフィリアとは、幼児・小児(通常13歳以下)を対象とした性愛・性的嗜好のことであり、日本風に言えばショタコンである。
ドロテーの前を通り過ぎた従僕は、年頃は13歳程度で彼女の趣味の範囲内だが、ストッキングをはいており、彼女はちょっと落胆した。
夏の暑い時期などは、従僕もストッキングをはかず、素足なことがある。
ドロテーは、半ズボンから覗く、ツルツルの足を見ると胸がキュンとなり、甘美な思いに浸るのだった。
彼女は、飽きもせず、次の従僕が通り過ぎるのを待ち構えた。
ドロテーは、現在学園の3年生である。
成績はあまり振るわず、Eクラスだった。
彼女もローゼンクランツの一族であるから、かなりの美形であり、男子からかなりモテていた。
Sクラスの頭の良い女子などは男子からすると近づきがたいが、Eクラス程度は丁度良いバカである。
バカ女は、なんだかんだ言って男にもてるケースがある。
ドロテーは、化粧も派手であり、服装も露出が激しい。その方が男にモテると単純に思っているからであるが、その思惑に嵌ってしまう男も多い。
また、彼女は、うっかり系で、おっちょこちょいなところもあり、これも男の庇護欲を誘うらしい。
彼女よりも成績の良い男子は、それを誇れるというのも大きな魅力だ。
しかしながら、ドロテーは、彼女に寄ってくる男たちを邪険に扱ったりはしないものの、恋愛対象としてみることはなかった。あくまでも彼女は、ペドフィリア(小児性愛)であり、足がツルツルの少年にしか興味が持てなかったからだ。
ある日の昼休み……。
EクラスにSクラスの女子が入ってきた。
滅多にない事態に、教室の雰囲気が緊張する。
入ってきたのは、コンスタンツェのご学友兼護衛騎士のマルタ・フォン・ヴァールブルク男爵令嬢だった。
ヴァールブルク令嬢は、真っ直ぐドロテーのところへと向かうと、こう告げた。
「大公女コンスタンツェ様が、あなたに用件があるそうです。ご同行願えませんか?」
ドロテーは、予想外の事態に戸惑ったが、相手が大公女とあっては、逆らいようがない。
「わかりました」
「では、こちらへ」
スタスタと教室を出ていくヴァールブルク令嬢の後を、ドロテーは慌てて付いていった。
案内されたのは、学校の応接室だった。
コンスタンツェは、ここを自由に使うことが許されていた。
「では、こちらへどうぞ」
ヴァールブルク令嬢に勧められるまま、ドロテーは、ソファーに座った。
コンスタンツェが口を開く。
「ローゼンクランツ卿ルードヴィヒさんのお姉さまのドロテー様ですわね」
「はい」とドロテーは、緊張の面持ちで答えた。
「そんなに緊張なさらないでください。今日はあなたに差し上げたいものがあって、ご足労いただきましたの」
「何か、いただけるのですか?」
「ええ。こちらなのですけれど……」
というと、ヴァールブルク令嬢がコンサートのチケットのようなものを渡した。
「これは?」
「アウクトブルグ大聖堂の少年合唱団のコンサートのチケットです」
「なぜこれを私のような者に?」
「私が所用でいけなくなってしまいまして、チケットは、ぜひその価値がわかる方にお譲りしたいと思ったのです」
「そうですか。それは、どうもわざわざありがとうございます」
(聖歌なんて、全然知らないんだけどな……でも、断るわけにもいかないし……)
「では、楽しんできてくださいね」
というと、コンスタンツェとヴァールブルク令嬢は淡々と去って行った。
(いったい、なんだったんだろう?)
ドロテーは、突然の出来事に意味が見いだせなかった。
翌日曜日。
ドロテーは、少年合唱団のコンサートへと出かけた。
聖歌などに興味はなかったが、大公女からもらったものを無駄にはできなかったからだ。これをすっぽかして、後から感想でも聞かれた日には目も当てられない。
しかし、コンサートが始まったとき、ドロテーは、目を剥いた
合唱団の少年たちは12歳、13歳くらいの少年を筆頭に下は9歳くらいであろうか、ペドフィリア(小児性愛)のドロテーからしたらドストライクのお年頃である。
しかも、こともあろうに合唱団の制服は半ズボンで、ストッキングは履いていない素足だった。
少年たちのツルツルの足を見つめたドロテーは、見ると胸がキュンキュンとなり、甘美な思いに浸った。
コンサートが始まると、更に感動した。
少年たちの歌声は、まさに天使の歌声だった。
歌詞の意味はチンプンカンプンだったが、その歌声にドロテーは、酔いしれた。
中でも一際美しい少年に、ドロテーは、夢中になった。
まさに天使のような美しい顔は中性的で、神聖さを感じさせるし、ゆるふわにカールした薄い色の金髪はまさに天使のそれだ。そして合唱団の半ズボンの制服がとても似合っている。
コンサートが終わると、客席が騒めいた。
「今日もラファエル様の美しさは格別だったわね」
「特に、あのソロの歌声ときたら……胸がキュンキュンしちゃったわよ」
どうやら、自分と同じ嗜好の女性が結構いるようだ。
(あの子はラファエルっていう名前なのね。もろに天使の名前じゃない。次のコンサートにも、ぜひ行きたい……)
ドロテーは、そのことばかりを考えながら家路に着いた。
次の日の昼休み。
ドロテーは、早速、1年S組のコンスタンツェのもとへと向かった。
隣にはルードヴィヒが座っていた。
思わず目が合ったので、軽く会釈する。
(あいつも、ギリギリストライクな感じはするんだけど……)
「大公女様。お願いがあるのですが?」
「そうですか。では、また応接室でうかがいましょう」
ドロテーとコンスタンツェ、ヴァールブルク令嬢の3人は、応接室に場を移した。
「あのう……」
「わかっているわ。またコンサートに行きたいというのでしょう」
「そのとおりです。なんとかなりませんでしょか?」
「実は、あのチケットは非売品で、関係者しか手に入らないものなの」
「そうなんですか……」
ドロテーは、期待が萎んでしまった。
「でも、わたしのお願いを聞いていただけたら、私の力を使って手配してみるわ」
「お願いとは、なんでしょうか?」
「実はね。あなたの弟のローゼンクランツ卿ルードヴィヒに私の心象を良くするような情報を吹き込んでほしいのですけれど……」
「えっ! それは、どういう?」
「あなたは理由を知る必要はないわ。それで、答えはどうなの?」
「わかりました。やってみます」
「そう。ならば、私の方もチケットを手配してみるわ」
「よろしくお願いいたします」
「じゃあ。交渉成立ということで……」
そういうと、コンスタンツェとヴァールブルク令嬢は、あっさりと去って行った。
(コンスタンツェ様が、あいつのことを好きだったとは……意外だわ……)
ドロテーは、ペッツほど頭は回らない。
単純に、そう思ってしまったのだが、実は、それが大正解だったりする。
ドロテーの行動は、結構短絡的である。
彼女は、その足で、1年S組の教室へと戻った。
そして、ルードヴィヒに面と向かうと言った。
「明日、あんたの家に行くから、よろしくね」
「ええっ! 明日けぇ」
今まで、ほとんど交流のなかったドロテーの申し出に、ルードヴィヒは戸惑った。
「何よ。ダメなら、今日でもいいんだけれど」
「いや。明日でええすけ」
(何かよくわからんが……しゃあねぇのぅ……)
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