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第101話 使えない駒(2)

 ペッツは、緊張の心持ちで、次官室のドアをノックし、扉を開けて中に入る。


 中には、ロマンスグレーの頭髪をした品の良い紳士がデスクに座っていた。


(うわっ! さすが次官ともなると、貫禄が違うな……)


「失礼いたします。ペッツ・フォン・ローゼンクランツと申します。お呼びとのことで、罷り越しました」

「ああ。君が例のペッツ君かね。まあ、そこに座りなさい」


「では、失礼いたします」


 ペッツは、指定されたソファに腰を掛けた。

 その対面に次官が座る。


「実は、大公女のコンスタンツェ様から直々(じきじき)のお達しがあってね」

「はいっ! 大公女様ですか?」


「君。とぼけるんじゃないよ。大公女様の”引き”があるなんて、どうして今まで黙っていたんだ?」


(訳が分からないんだが……どういうことだ?)


「特に、隠す意図はありませんでしたが……」

「まあいい。大公女様のお達しなんだが、君の弟のローゼンクランツ卿ルードヴィヒがいるだろう。彼に接触して、大公女様に対する心象を良くするよう働きかけて欲しいということなんだが……」

「そういうことですか、承知いたしました」


「君の弟なんだから、簡単だろう?」

「はいっ! もちろんです」


「では、よろしく頼むよ」

「はいっ! お任せください」


 緊張したまま次官室を出て、(ようや)く緊張が解けた。


「はーっ」とため息をつくと、それを見ていた秘書に若干白い目で見られたので、少しバツが悪かった。


 そして、執務室に戻る途中で考えた。


(まさか、そういうことになっているとは……面白そうな奴だとは思ってはいたが……)


 執務室に戻ったペッツは、ローゼンクランツ新宅を訪ねるに当たり、先触れの手紙を書いた。

 準男爵(バロネット)とはいえ、相手は既に爵位を持っている。下手なことをして、(へそ)を曲げられても面倒だ。


 そして、自宅へ帰り、使用人に手紙を届けさせると、ルードヴィヒからは、会っても良いという返事が届いた。


 ルードヴィヒは、超高額で貴重な魔獣を2度もオークションに出品したり、エルフの性奴隷を破格の値段で買ったり、幽霊屋敷を改装して住んでみたり、血の兄弟団をやりこめたりといった派手な行動をしていることが、(うわさ)で聞こえてきてはいる。


 しかし、学園での様子まではわからない。

 このため、ペッツは学園の後輩の伝手(つて)を使って、情報を収集した。


 その結果、ルードヴィヒは、ツェルター伯爵の娘のリーゼロッテ嬢と事実上の交際をしているということがわかった。


 一方、大公女コンスタンツェとは席が隣であり、彼女があれこれルードヴィヒの世話を焼いたりしているが、それ以上の関係ではないようだ。


 すると、今回の大公女コンスタンツェからのお達しは、どういう意味を持つのだろう?


 身分的に結婚ということは、常識的にあり得ない。

 ならば、ルードヴィヒをコンスタンツェの色香によって籠絡(ろうらく)し、ホーエンシュタウフェン陣営に取り込もうということなのだろう。


 極めてレアな高ランク魔獣を討伐したことからして、ルードヴィヒは、戦闘巧者(こうしゃ)なのであろうし、オークションの結果として高額の財産も持っている。


 それを大公フリードリヒⅡ世は評価しているということなのだろう。


     ◆


 ダニエラの訪問をきっかけに、ルードヴィヒの私生活には大きな変化が生じていた。


 子供までできてしまったのだから、ダニエラが愛人ポジションということは不動の事実だ。


 続いて、クーニグンデとも、そういう関係になってしまった。


(だすけ、こうならんように我慢しとったがんに……)


 ルードヴィヒは後悔したが、このドミノ倒しは、簡単には止まらない。


 マルグレットがルードヴィヒに詰め寄った。


「私は、(ヘル)主人様(アイゲントューマー)に購入していただき、身も心も(ヘル)主人様(アイゲントューマー)の所有物です。愛していただかなくとも結構ですから、ご奉仕はさせてください。どうかお願いします」


 そう懇願(こんがん)するマルグレットは、涙を浮かべている。

 さすがに、ここまでされては、ルードヴィヒは、これを蹴っ飛ばすことはできなかった。


「わかった。わかったすけ……」


「ありがとうございます。では、早速……」

「おいっ! ちっと待てや! いきなし、すっけな……」


「まあっ! そう言いながらも、もうこんなに……」

「いやっ。そらぁ……」

     挿絵(By みてみん)

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