第100話 隠然たる庇護者(2)
ルードヴィヒは、そっと赤ん坊を受け取り抱っこする。
「ああっ。ダメダメ。そんな抱き方じゃぁ。まだ首が据わってないんだから……」
「こ、こうけぇ」
ダニエラが、手ずから指導する。
「こうだよ。こう……首をしっかり固定するようにしなくちゃ」
「おぅ。なるほど……」
「ねえ。可愛いだろう」
「お、おぅ……」
(今更ながら、ペーターの気持ちがわかった。突然、親なんて言われても愛情が湧かねぇ……めんこいこたぁ、めんこいどものぅ……)
「こらぁ、女の子けぇ」
「ああ。そうだよ」
「女なら、ダークエルフの村で育てるんじゃあねぇんけぇ?」
「いやあ、それがさあ。ハーフエルフは虐められるから、村じゃあ育て難くて……」
「すっけなもん、最初っからわかっとることでねぇけぇ!」
「いやあ、あのときは誰もそこまで気が回らなくってさあ」
「そんなぁ……」
ふと周りを見渡すと、皆がルードヴィヒを白い目で見ている。
「い、いやあ、おらは、ちゃんと成人してから、そういうことをしたがぁだすけ、何も悪くねぇろぅ……」
ジーーーーーッ
皆が白眼視している音が聞こえるようだ。
見かねたルディが助け舟を出す。
「我が主様。貴族が外の愛人を孕ませることなど珍しいことではありません。そこは、堂々とされていれば良いのです」
「そ、そうだよ。そうだよのぅ」
「ただ、庶民であればともかく、貴族が15歳で父親というのは聞いたことがありませんが……」
「ちょっと……ルディさん……」
(いっぺん持ち上げといて落とすって、どういうこと……)
見かねたディータが言った。
「まあ。歳の話はともかく、執事見習いの言ったことも一理ありますから」
「ま、まあのぅ」
「で、どうされるおつもりで?」
「村に戻したら、虐められるっちぅんじゃぁ、ここん家で育てるしかあんめぇ」
「ああ。ありがとう。旦那様」
と言いながら、ダニエラが抱きついて来る。
「おいっ! おめぇ! 赤ん坊を抱っこしとるんだすけ、落とすでねぇけぇ」
「ああ。悪かったよ。つい、嬉しくって……じゃあ、名前をつけてくれるかい?」
「はあっ? まだ名前もなかったんけぇ?」
「だって……あたし一人でつけたら怒るだろう」
「まあいい……んーーん?……そんだば、アレクサンドラでどうでぇ?」
「ちょっと長くないかい」
「愛称はサンディーでぇ」
「ああ。いいね。サンディーかぁ」
「そんだば、そういうこって」
その場は、皆の白い視線を受けながらも、うやむやのうちに収まった。
◆
その夜、家人が寝静まった頃……
彼女のものと思われる足音が聞こえた。
扉を開けて入って来る。
「主様。我はもう我慢ができません。今日こそ主様の種を賜りたく存じます」
「こうなっちまった以上、そらぁええども……」
「ありがとうございます。ついに、この世の至宝である主様の種を下賜いただけるのですね」
「それはそれとして、その格好はなんでぇ」
「はっ? これは我の正装のようなもので……」
クーニグンデは軽装鎧をつけ、大剣を背負った完全武装の姿だった。
「とにかく……全部脱げや」
「はいっ? 鎧はともかく、全部とは?」
「全部っちゃあ全部に決まっとるろぅ」
「ええっ! 種をもらうのに、それが必要なのですか?」
「おめぇ種のもらい方をぜんぜんわかっとらんろぅ」
「それは……主様がご存知なのではないですか? あやつを孕ませたのですから」
「そらぁそうだども……とにかく脱がねぇことにぁ、うまくできねぇろぅ」
「そういうものなのですか? ならば、承知いたしました」
クーニグンデは素直に服を全部脱いだ。
彼女は、恥ずかしさの極致にあったが、ルードヴィヒを疑ってはいない。
そして……
「主様。何をなさって……アッ……ンっ……。これは……アァン……。主様……、これは……。我の意思で……。我は……。それに……これ……アッ……。主様……。ハァ……。もう……、我は……はぁっ……、あぁぁっ……、主様っ……、そんなにっ……、アァッ……、我の……、ァッ……」
こうして、クーニグンデは、長年の念願かなって、種を下賜された。
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